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魔導国家ヴェリス編
56話 クリス様の貴族な微笑み
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昼過ぎ、ちょうど昼食を食べ終えた頃合いを見計らって、王宮の影であるロベルトがクリスを訪ねてきた。
ラファエルには男性用の部屋に、アクセルと共に気配を消して控えてもらい、念には念をクリスが気配遮断の結界を張って、一旦ロベルトには見つからないようにしている状況である。
ロベルトをクリスの部屋に通し、クリスの部屋に備え付けの客室で座ってもらっている。
クリスがロベルトの前に座り、モニカとポールはいつもの定位置に立って、静かにロベルトを見据えていた。
ロベルトは、英雄と言われているクリスがここまで優美な女性とは思っておらず、また美しさの中に潜む謎の威圧感に恐怖心を煽られ萎縮していた。
「あの、初めまして。私、王宮に仕えております、ロベルトと申します。以後お見知り置きを。」
「初めまして。ご存知だと思いますが、私はクリスティーナですわ。昨日はうちのポールが、ロベルト様を驚かせたみたいで申し訳ありませんわ。お仕事の邪魔をしてしまいましたわね。申し訳ありませんわ。」
クリスはにこやかにロベルトへと話しかける。遠回しに、王宮の影も大したことが無いと言っている様なものであり、事実クリスはこの国の影に対して『異母弟を害そうとする王族の動向を見てもいない影などに、何が出来ると言うのか』という失望にも似た気持ちを持っていた。
遠回しな嫌味に気づいたロベルトは、内心腹を立たせつつも、昨日のポールの実力を直に見ており、そのポールを従えているクリスや、ポールの隣にいるモニカからも、底の見えない魔力量を感じ何も言い返せないでいた。
「いえ、こちらこそ、失礼にも隠れてクリスティーナ様方の事を調べようとし、申し訳ありませんでした。」
「そうね。魔導国家ヴェリス式のお出迎えなのでしょう?別に実害などありませんし、気にしておりませんわ。」
見事な貴族スマイルを披露して、会話も含めて場の主導権を握ったクリス。
クリスとしてはこのまま王宮に行く前に、もっと大物と話をしたいと考えており、ロベルトと交渉をする気はさらさら無いのである。
「いえ…そんなつもりでは…。」
旗色が悪くなっているロベルトは、どうしたものかと悩んでいた。
そもそもが何も悪い事をしていないクリスティーナ一行に対して監視をしようとした事は事実であり、さらにその監視を見抜かれ、完膚なきまでにやられたのだ。
むしろ盗賊団を捕まえた英雄に対して、秘密裏に探ろうとするのは良い印象を与えないだろう。
冒険者相手や末端貴族との交渉なども今までした事のあるロベルトだが、今回ばかりは相手が悪すぎたのもあるのだろう、何も言えずに黙りこんでしまっていた。
「まぁ、親書を持ってきておきながら、痛くも無い腹を探ってくるのですからね。頼もしいお国柄ですわね。」
「…本当に申し訳ない。」
嫌味満載のクリスに対し、謝るしか出来ないロベルトは、王宮に来てもらう事は失敗か…と諦めの心境になっていたが、クリスから突然矢継ぎ早に爆弾を投下される事となり、混乱の境地に陥った。
「そうそう、ロベルト様へ軽く情報提供しますが、スカーレット=エイルークという魔導国家ヴェリスの始祖は、私の世界出身ですわよ。」
「…はい!?」
「異世界転移って、本当にびっくりしますの。突然目の前の景色がガラッと変わりましてね。」
「あ、あの。クリスティーナ様。ちょっと待って…」
「その為、私達は元の世界への帰還方法を探している訳でしてね。」
「は、はい…。えっと、お話を少し聞かせて…」
「何かヒントになるものがあればと、こちらの国を訪ねましたの。あぁ、スウェントル国王直筆の紹介状もございましてよ。」
「スウェントル国王直筆の紹介状ですと!?」
「えぇ、こちらに。今はまだ手渡ししませんが、ほら、この封蝋、スウェントル王国の国王印でしてよ。」
「では、研究者たち…」
「あ、そうそう。話は変わるのですが、第五王子ラファエル様の居場所は見つかったのかしら?」
「…なぜ、それを?」
「おほほ、不思議ですわねぇ。なぜ私達が知っているのでしょうねぇ。」
ロベルトに喋る暇を与えず、一気に重要な事を言われ、箝口令の敷かれている第五王子の件も知っているとなると、いよいよ自分では力不足であると思うロベルトであった。
「あ、あの、クリスティーナ様。一旦王宮に来ていただいて、お話をしませんか?」
「今すぐはお断りしますわ。」
速攻で断り、相変わらずの貴族スマイルでロベルトを見つめるクリス。
「あの、クリスティーナ様の目的を考えると、王宮に来ていただくのが一番かと…。」
「今すぐに行けない理由があるのですわ。いつ行けるかも分かりませんが、私達、暫くこの宿場町でゆっくりしますの。ロベルト様、この国でそこそこ発言権のあるお方であれば、ぜひ面会をしてお話をしたいものですわね。第五王子様の件然り、異世界転移の件も然り。」
そう言って、クリスは扇子を広げると、口元を隠し冷たい目線をロベルトに向けた。
「つまり貴方よりも上の者を、ここまで連れて来なさいと言っていますの。貴方より立場が上の者で、重要な機密事項を偏見の目無く話せる者に対して、色々と聞きたい事や確認したい事、交渉したい事がございますのよ?」
出来ますでしょう?と優雅に冷たく微笑むクリスを見たロベルトは、自分の手には負えないと、全身から血の気が引いていくのを感じていた。
ラファエルには男性用の部屋に、アクセルと共に気配を消して控えてもらい、念には念をクリスが気配遮断の結界を張って、一旦ロベルトには見つからないようにしている状況である。
ロベルトをクリスの部屋に通し、クリスの部屋に備え付けの客室で座ってもらっている。
クリスがロベルトの前に座り、モニカとポールはいつもの定位置に立って、静かにロベルトを見据えていた。
ロベルトは、英雄と言われているクリスがここまで優美な女性とは思っておらず、また美しさの中に潜む謎の威圧感に恐怖心を煽られ萎縮していた。
「あの、初めまして。私、王宮に仕えております、ロベルトと申します。以後お見知り置きを。」
「初めまして。ご存知だと思いますが、私はクリスティーナですわ。昨日はうちのポールが、ロベルト様を驚かせたみたいで申し訳ありませんわ。お仕事の邪魔をしてしまいましたわね。申し訳ありませんわ。」
クリスはにこやかにロベルトへと話しかける。遠回しに、王宮の影も大したことが無いと言っている様なものであり、事実クリスはこの国の影に対して『異母弟を害そうとする王族の動向を見てもいない影などに、何が出来ると言うのか』という失望にも似た気持ちを持っていた。
遠回しな嫌味に気づいたロベルトは、内心腹を立たせつつも、昨日のポールの実力を直に見ており、そのポールを従えているクリスや、ポールの隣にいるモニカからも、底の見えない魔力量を感じ何も言い返せないでいた。
「いえ、こちらこそ、失礼にも隠れてクリスティーナ様方の事を調べようとし、申し訳ありませんでした。」
「そうね。魔導国家ヴェリス式のお出迎えなのでしょう?別に実害などありませんし、気にしておりませんわ。」
見事な貴族スマイルを披露して、会話も含めて場の主導権を握ったクリス。
クリスとしてはこのまま王宮に行く前に、もっと大物と話をしたいと考えており、ロベルトと交渉をする気はさらさら無いのである。
「いえ…そんなつもりでは…。」
旗色が悪くなっているロベルトは、どうしたものかと悩んでいた。
そもそもが何も悪い事をしていないクリスティーナ一行に対して監視をしようとした事は事実であり、さらにその監視を見抜かれ、完膚なきまでにやられたのだ。
むしろ盗賊団を捕まえた英雄に対して、秘密裏に探ろうとするのは良い印象を与えないだろう。
冒険者相手や末端貴族との交渉なども今までした事のあるロベルトだが、今回ばかりは相手が悪すぎたのもあるのだろう、何も言えずに黙りこんでしまっていた。
「まぁ、親書を持ってきておきながら、痛くも無い腹を探ってくるのですからね。頼もしいお国柄ですわね。」
「…本当に申し訳ない。」
嫌味満載のクリスに対し、謝るしか出来ないロベルトは、王宮に来てもらう事は失敗か…と諦めの心境になっていたが、クリスから突然矢継ぎ早に爆弾を投下される事となり、混乱の境地に陥った。
「そうそう、ロベルト様へ軽く情報提供しますが、スカーレット=エイルークという魔導国家ヴェリスの始祖は、私の世界出身ですわよ。」
「…はい!?」
「異世界転移って、本当にびっくりしますの。突然目の前の景色がガラッと変わりましてね。」
「あ、あの。クリスティーナ様。ちょっと待って…」
「その為、私達は元の世界への帰還方法を探している訳でしてね。」
「は、はい…。えっと、お話を少し聞かせて…」
「何かヒントになるものがあればと、こちらの国を訪ねましたの。あぁ、スウェントル国王直筆の紹介状もございましてよ。」
「スウェントル国王直筆の紹介状ですと!?」
「えぇ、こちらに。今はまだ手渡ししませんが、ほら、この封蝋、スウェントル王国の国王印でしてよ。」
「では、研究者たち…」
「あ、そうそう。話は変わるのですが、第五王子ラファエル様の居場所は見つかったのかしら?」
「…なぜ、それを?」
「おほほ、不思議ですわねぇ。なぜ私達が知っているのでしょうねぇ。」
ロベルトに喋る暇を与えず、一気に重要な事を言われ、箝口令の敷かれている第五王子の件も知っているとなると、いよいよ自分では力不足であると思うロベルトであった。
「あ、あの、クリスティーナ様。一旦王宮に来ていただいて、お話をしませんか?」
「今すぐはお断りしますわ。」
速攻で断り、相変わらずの貴族スマイルでロベルトを見つめるクリス。
「あの、クリスティーナ様の目的を考えると、王宮に来ていただくのが一番かと…。」
「今すぐに行けない理由があるのですわ。いつ行けるかも分かりませんが、私達、暫くこの宿場町でゆっくりしますの。ロベルト様、この国でそこそこ発言権のあるお方であれば、ぜひ面会をしてお話をしたいものですわね。第五王子様の件然り、異世界転移の件も然り。」
そう言って、クリスは扇子を広げると、口元を隠し冷たい目線をロベルトに向けた。
「つまり貴方よりも上の者を、ここまで連れて来なさいと言っていますの。貴方より立場が上の者で、重要な機密事項を偏見の目無く話せる者に対して、色々と聞きたい事や確認したい事、交渉したい事がございますのよ?」
出来ますでしょう?と優雅に冷たく微笑むクリスを見たロベルトは、自分の手には負えないと、全身から血の気が引いていくのを感じていた。
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