宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

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魔導国家ヴェリス編

55話 新たな旅の仲間として

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  ポールが王宮仕えの影と接触した翌朝、一行はクリスの部屋に集まり、今後の相談をしていた。

  「さて、皆さん、ヴェリスの魔法研究者から接触してくれたのは本来の目的からすると僥倖です。しかし、ラファエル様の件も考えると迂闊な行動はできません。よって、これからは慎重に行動をして、我々とラファエル様双方に利が出る行動を考えなければいけませんわ。」

  クリスが開口一番にそういうと、ラファエルはクリスへ頭を下げる。

  「本当に迷惑をおかけして申し訳無いです。どこか身を隠せる場所にしばらく置いて頂いて、どこかのタイミングで隣国のフェアリアやスウェントル王国へと亡命出来ればと考えているのですが…。」
  「現時点で王族のラファエル様が、そうやすやすと頭を下げるものではありません事よ。あと、物事はそう単純には進まないものですわ。隠れている間に見つかったらどう言い訳なさいます?亡命した先で見つかれば全てが水の泡ですわ。良いですかラファエル様。より確実かつ、周りへの影響を最小限に抑えて自分の要望を叶えるには、どうすれば良いのか、考える事が必要です。王宮や異母兄姉から逃げたいという感情だけで行動しますと、結果的に辛い思いをする可能性もございますのよ。」
  「…はい。勉強になります!」

  ラファエルは、王宮の教育者達は自分に腫れ物に触るかの様に接してくる事しかなかった為、クリスの様に正論かつ、前を見据えた指導を受けた事がなかった。
  クリスは、『死にたく無い、窮屈な王宮から逃れたい、助けてほしい』という、受け身で逃げの感情では失敗すると教えてくれたのだ。

  「失礼な物言いで申し訳無いですわ。さて、ここで、ラファエル様の今後によって、取るべき行動は変わってきます。」
  「はい。」
  「ラファエル様には、複数の選択肢がございますわ。」

  そう言って、クリスは指を一本立てる。

  「一つ、ここで私達が王宮からの呼び出しを断り、一旦スウェントル王国へと戻ります。スウェントル王国の魔法研究者の元で身を隠しながら今後を過ごすという方法ですわね。伝手がございますので、ラファエル様の内包魔力があれば間違いなく雇って頂けますわ。安全、安心かつ王宮からも手が出しにくい場所ですので、おススメですわね。その場合、ただのラファエルとして生きて行く事となり、魔導国家ヴェリスには二度と立ち入ることは出来ない他、研究施設からもおいそれと外出しにくい可能性がありますが、衣食住は完備です。」

  二本目の指を立てて、クリスは真剣な表情でラファエルを見る。

  「二つ、私達と共に王宮へと赴き、自分の気持ちを再度訴えかける事。私達が後ろ盾となり、継承権放棄へと導いて差し上げます。ただ、その場合は双子の兄妹殿下が仕出かした罪を明らかにするのも一つ、ラファエル様が自ら王宮を出た事にして、双子の兄妹殿下に温情を与えるのも一つ。そうして、自らの感情にしっかりと蹴りをつけ、臣籍降下し、この国で魔法研究者となるもよしですわね。私達が付いていますから、どうとでもして見せます。このメリットは、ラファエル様が自ら前を向いて今後生きていける所ですが、周りの視線に耐えれるかどうかですわね。」

  三本目の指を立て、優しい笑みを浮かべてラファエルを見つめるクリス。

  「三つ、二つ目の継承権放棄までは一緒ですが、適当な理由をつけて、私達の旅に同行しても構いません事よ。アクセルさんの、初めての同い歳で気の許せるお友達みたいですし。アクセルさんの母としての提案ですわね。ただ、今は詳しくはお話出来ませんが、将来的には魔導国家ヴェリスには戻って来れなくなるものと考えて下さいまし。を一緒に見て回る、というのも楽しいかもしれませんわね。まぁ、その場合はラファエル様にも色々とお仕事をして頂きますが。」

  そこまで言った後、クリスは黙り、静かにラファエルを見つめた。
  ラファエルのとなりに座っているアクセルも、そっとラファエルの左手の上に右手を乗せて、軽く握ってあげる。

  アクセルに握られた左手から勇気を貰った気がして、ラファエルは覚悟を決めたかのように顔を上げて、クリスを力強く見つめ返した。

  「…クリス様、僕の為に、そこまで真剣に考えて頂いて、ありがとうございます。」
  「いえいえ、困っているアクセルさんと同い年の王子様を、助けずにはいられないだけですわ。私達に任せて、甘えてくださいまし。」

  クリスは、ラファエルを安心させるように微笑み、小さく頷きラファエルの言葉を促す。

  「昨日会ったばかりなのに、ここまで提案してくれて、本当に嬉しいです…。まだ、皆さんの事を詳しくは知りませんが、英雄と言われる理由が分かります。」
  「あら、やはり私達の事、わかっていらしたのね。」

  ラファエルが、最初に名乗った時から殆ど緊張せず、また面と向かって助けて欲しいとお願いをしてきたのは、クリス達が、スウェントル王国の英雄であると瞬時に理解したからでもある。

  「もちろんですよ。クリスティーナ様の武勇伝は、ヴェリスでも有名です。…僕なんかが、三つ目の案にあるように、皆さんの旅のお邪魔をしても良いのでしょうか?」

  そう言ってクリスを見つめるラファエルの目は、不安に揺れていた。

  「あら、何が不安なのかしら?」
  「正直に言って、そんな提案されるとは思っていなかったのです。その、余りにも、三つ目が僕にとって都合が良すぎて、そんな事が可能なのかと…。僕、皆さんにとって異物でしかないじゃ無いですか。」

  昨日出会ったばかりの魔力が高いだけで戦えるわけでもない、厄介事の塊のような第五王子に、一緒に旅をしようと提案すること自体が、異常なのだとラファエルは理解していた。

  「あら、アクセルさんはラファエル様と一緒に旅できるとしたらどう思います?」

  しかし、クリスは平然としてアクセルに質問を投げかけると、アクセルはやや頬を赤らめつつ、一緒に旅をしたいと肯定を返す。

  「え?その…。はい。僕、昨日、ラファエル君と、一緒にいると楽しかったから。あんな風に楽しかったの初めてなんです。もしこれから一緒に居れるのだったら、嬉しいなぁって…思います。」
  「ほら、アクセルさんが喜ぶなら、私にとって、寧ろお願いしたい所なのですよ。あとはラファエル様の覚悟のみですわ。」

  クリスは、ポールから昨日のアクセルとラファエルが仲良くはしゃいでいた事の報告を受け、衝撃を受けていた。
  アクセルは元の世界では自慢の良い子だったが、それは元来の天真爛漫な性格を押さえつけ、自らを律して良い子でいたのだ。

  それが、この世界に来てからのアクセルは良い意味で自分を出してきていた。
  特にポールと出会ってからは、自らが甘える事の出来る人材を見つけた事により、心に余裕が出てきた様子だった。

  そこから、同い年のよく似た雰囲気のラファエルと出会い、二人とも初めて自分の立場を気にせずに接する事のできる心からの真の友人、ともすれば依存にも近い感情をお互いが持っている様にも見受けられた。

  これにはクリスも予想外で、良い事なのか、悪い事なのか判断がつきかねるところであった。
  ただ、無理して離ればなれにはしたくなく、ラファエルが望むならば、と条件をつけて旅の同行を提案してみたら、案の定食いついてきたのだった。

  この提案も、親バカなクリスがアクセルの為を思っての提案なのである。
  アクセルとラファエルがお互い望むならば、ラファエルを元の世界に連れて行く事もやぶさかでは無い。

  「アクセル君、ありがとう。僕、アクセル君と一緒に居たい。そして、皆さんと旅をしたいです…。僕は本当に、ヴェリスから抜け出せるのでしょうか?」
  「私が可能と言えば、可能になるのですよ。任せて下さいまし。ただし二つ目の臣籍降下の提案と違い、魔導国家ヴェリス側は、最高の内包魔力を持つラファエル様を失うことになります。その対価として、双子の兄妹殿下に少しだけ痛い目にあって貰う事になりますが、そこは冷酷になれますか?自責の念を持たれないよう、強い心で我を通してくださいまし。」

  やや強めの口調で、ラファエルに覚悟を促すクリス。
  だが、ラファエルは双子の兄妹殿下に対して、大ごとにはしたくない様子であった。

  「え…。でも。」

  と、戸惑いのセリフを吐くも、クリスはそれを許さなかった。

  「貴方を亡き者にしようとした兄妹でしょう?過去に同情出来る理由があれど、王族として行動には責任を持って頂かなくてはなりません。そこを突いて、王宮から抜け出す手はずとしますわ。それが出来ないならば、自ずと一つ目か二つ目の提案になりますわね。」

  そう言うと、ラファエルは覚悟を決めた顔をしてクリスを見つめ、左手の上に置かれたアクセルの右手を強く握り返した。

  「分かりました。もう迷いません。」
  「いい目ですわね。あぁ、でもしばらくは魔法研究者と共同研究に従事する事になりますので、予めご理解くださいまし。それが私達のこの国での最大の目的ですのでね。」

  そうして、クリス達はラファエルを新たな仲間として迎える為に、今後の作戦を考えるのであった。
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