宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

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魔導国家ヴェリス編

51話 アクセルとラファエル

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  モニカは、森の中の広場で昼食の準備を5人分進めていた。
  空間収納から、宿場町などで購入したランチ用のパンや肉、惣菜などを並べている。

  クリスは馬車の近くで座りながら、馬車の中の様子を気にかけていた。

  今、アクセルとポールが少年王子の体に異常がないか、確認しに馬車の中に入っている。

  スウェントル国王から提供された馬車は非常に広く、中で人が余裕で10人程度は横になれる広さを誇っており、扉付きで外から中は見えないようになっている。

  そこで、ヴェリスの第五王子を丁重に寝かせ、アクセルが清浄化の術式を展開して王子の体と衣服の汚れを除去した後、少し様子を見ていたのだ。

  その時、王子の足首に、魔力封印のアンクレットが装着されているのを見つけ、アクセルによって解呪済みである。

  アクセルは、王子の目が覚めた時に近くにいる者は女性の方が良いと言って、様子見にモニカを推薦したのだが、同性の歳近い者がいた方が、王族にとって警戒心も薄れやすいというのがクリスの意見であった為、アクセルも自分の身に置き換えて考えるとそれもそうかと納得したのである。

  馬車で横にしてから数分経った頃、王子が身動ぎして薄っすらと目を覚ました時、アクセルとポールはホッと一息ついた。

  大きな怪我は無かったが、やはり心配だったのだ。

  「大丈夫?どこも痛くない?」

  アクセルは王子と分かっていながらも敢えて気安い喋り方を選んだ。そうする方が、より心を開いて警戒心を解いてくれると考えたからだ。

  「…はい。あの…ここはどこ…ですか?僕、盗賊に拘留されていたはずですが…?」

  変声期前の少年特有の高い声は、耳障りが良く、また喋り方から育ちの良さを感じさせる。
  目が覚めた事を知らせに、ポールは馬車から出て、王子の世話は同年代のアクセルに任せる事とした。
  万が一、王子が錯乱などして、アクセルに害を成さないか念のため近くに控えていたのだが稀有に終わったようだ。

  「大丈夫。僕達が盗賊団を退治したよ。今は縄で縛って、近くの木に括りつけてる。ここは、僕達の馬車の中で、スウェントル王国から魔導国家ヴェリスへと向かう途中の森林街道の中にある川辺の広場にいるよ。外には僕の母上と、仲間がいるけど、君が目が覚めた時に沢山人がいるとびっくりするだろうって思って、僕が様子見てたんだ。」

  アクセルが判り易く王子に説明をする。王子はアクセルの顔を見つめ、力なく笑った。

  「君が、助けてくれたの?」
  「うん。僕はアクセル。君は?」
  「僕はラファエル。助けてくれて、ありがとう。もう、僕はこのまま死ぬんだと思って、諦めてたんだ。」

  ラファエルと名乗った王子が、エイルークの名を名乗らなかった事に引っかかりを覚えながら、アクセルはラファエルの髪をとくように撫で付ける。

  「ラファエル君。もう大丈夫だからね。魔法封印のアンクレットは解呪済みだから、安心して。動ける?三日間程、縛られたまま何も食べさせて貰えなかったんでしょう?」
  「封印、解いたんだ…。凄いな…。重ねがさね、本当にありがとう。ちょっと、今はまだ、体を動かしにくい…かな。魔力もまだ、回復してないし…。」
  「じゃあ、起こすの手伝うね。」

  そう言って、アクセルはラファエルの背中に手を差し伸べて、ゆっくりと上体を起こしてあげた。
  ラファエルも自分でゆっくりと体を動かしつつも、固まってしまった体に痛みが走るのか、顔をしかめつつ、アクセルに身を委ねていた。

  「ねぇ、アクセル…君。ごめん、ちょっと、安心したら、涙が出てきちゃって、ちょっとだけ…あの。ごめん。」

  そう言って、アクセルの肩のあたりに顔を埋めて泣き、心を落ち着けようとするラファエルに、アクセルはクリスやポールがかつて自分にそうしてくれた様に、ラファエルを優しく抱きしめてあやす様に頭を撫で付けていた。

  しばらくすると、ラファエルはアクセルの肩から顔を上げ、目は赤くなっていたが、落ち着いた顔をしていた。

  「ごめんね。見苦しいところばかり、見せちゃって。」
  「全然見苦しくないって。むしろ、ずっと縛られて放置されてたのに、そんなに気丈に振る舞えるラファエル君を尊敬するよ。」
  「ありがとう。アクセル君は優しいね。初めてあったのに、すごい安心するな…。」
  「本当?そう思ってくれたなら、嬉しいな。僕の仲間や母上も優しいからね。安心してね。」
  「うん。あ、アクセル君って、何歳なの?僕は13歳なんだけど…。」
  「あ!同い年!僕も13歳だよ。すごいね、仲良くしてね。」

  ラファエルは、無邪気に微笑むアクセルの笑顔を見て、心から安堵した。
  クリスの采配は間違っていなかった様だ。

  ラファエルは、目が覚めた時に、全く知らない空間と、高位貴族を思わせる綺麗な顔立ちをした少年を見て、最初凄く混乱はしたが、手足が自由になっている事で、瞬時に助かったのかと理解をした。

  また、年齢が近く、どこか自分と似たような雰囲気を持つアクセルに警戒心を持つ事も無く、親近感を持って話すことが出来たのだ。

  アクセルは、落ち着いたラファエルに、動けるか聞くも、まだ腰が抜けている様子で立てない様子だったため、連れてきた時の様に横抱きにして馬車を出た。

  ラファエルも、最初は恥ずかしがっていたが、アクセルが身体強化術式を展開した事を感じると、(あぁ、僕程度なら軽々と持てるよね。身を任せてもいいか。)と、開き直り、アクセルに身を委ねた。


  「母上、彼が目を覚ましました。いささか体を動かすのが辛そうですが、目立った外傷はありません。」
  「あら、よかったですわ。初めまして。私、アクセルの母のクリスティーナと申します。お気軽にクリスとお呼び下さいな。」
  「はい。こんな姿勢で申し訳無いです。僕はラファエルと言います。この度は助けていただき、心から感謝申し上げます。」
  「良いのですよ。しかし良かったですわ。休憩がてら、盗賊団が目障りだったので退治に赴いて。おかげでラファエル様をお助け出来たのですもの。」
  「本当にありがとうございます。」

  ラファエルは、アクセルの母と名乗ったクリスを見て、その美しさと気品に驚くも、さすが王宮で過ごしていただけあるのか、すぐに卒のない応対をこなした。

  ただ、それがアクセルの腕の中だというのがラファエル自身が恥じているところだが、体が動かしにくい為、甘えさせてもらう事にした。

  やはり、自然と他人に身を任せる事が出来るのは、王族として他人に世話をやかれる事に慣れているからであろうか。それとも、アクセルの人柄が成せる技なのであろうか。

  ただアクセルもクリスも、素直に身を委ねてくれる方が楽な為、警戒心無くアクセルにもたれかかるラファエルに好感を抱いていた。
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