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魔導国家ヴェリス編

50話 ドナドナ決定盗賊団

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  盗賊団の拠点である洞窟の奥にある牢屋で、エイルーク家の家紋を身につけた少年が縛られ横たわっているのを見つけたクリスとアクセルは、取り急ぎ牢屋を壊し、少年を助け出した。

  手足を縛っていた縄をほどき、猿轡を外した後、全身を見たところやや衰弱している様子ではあったが大きな外傷も無く、一先ずは安心したクリス親子は、少年に回復術式を展開して様子を見るも、まだ目が醒める気配が無かった為、アクセルがその少年を横抱きにして洞窟を後にした。

  洞窟を出ると、先程まで感電していた盗賊達が一部目を覚ましていた為、クリスが状況を確認する為、尋問を始めた。

  「あら、そこの盗賊の貴方。この少年をどこで捕まえたのか、何を理由に捕らえていたのか、私に教えてくださいな。」
  「…」

  目を逸らし、だんまりを決め込む盗賊の男達だが、もちろんそれを許すクリスではない。
  目を細め、冷たい笑みを浮かべながらも、再度男達に同じ質問を投げかける。

  「お し え て く だ さ い な?」
  「…!!お…お前達は、何者なんだよ…?」
  「…今、貴方達は、ご自分の状況を理解なさっているのかしら?私が質問をしていますのよ?誰が問いに問いで返しても良いと許可をしたのかしらねぇ。物分かりの悪い方は、私嫌いですの。貴方は、私の問いかけに答えるだけで宜しくてよ?簡単でしょう?難しい事は聞いておりませんでしょう?この子を何の目的で捕らえていたのか、…答えなさい。」

  クリスとアクセルの顔から笑みが消え、2人の背後から濃厚な魔力が放たれそれが重圧となって盗賊達に襲いかかる。

  盗賊達は恐慌状態に陥り、失禁するものも現れたが、盗賊団の頭領と思われるガタイの良い男が、震えながらもクリスに返事をする。

  「わ…分かった…。分かったから、その…魔力の重圧を…お、抑えてくれ。た、頼む…!」
  「あらあら、まぁまぁ。最初から素直に答えておけばよろしいのに。ねぇ、アクセルさん。」
  「はい、母上。…貴方達、良いですか?僕達を女・子供だと思って舐めた態度を取った瞬間、胴体から首が飛んでいると思って下さいね。」
  「うふふ、アクセルさんったら。アクセルさんの手を汚す必要などありませんわ。ふざけた回答をしたら、この者達の身体中に蜜を塗って、森の中で逆さずりにするだけで宜しい。そうすれば、虫がたかって痒い思いをしつつ、そのうち野生動物や魔物が勝手に処分してくれますもの。」
  「あぁ、さすが母上。参考になります。」

  これは勿論クリス親子の演技だが、盗賊達の心を折るには充分な脅しとして効果てきめんだった。

  「話す!話します!だから、待って、待ってください!」
  「早くお話なさいな。アクセルさんの腕が疲れるでしょう?」
  「はい!すみません!そ、そのガキはヴェリスの第五王子だって言っていました!それが本当かどうかは分かりませんが、覆面をつけた、やたらと仕立てのいい服をきた男と女が、突然俺らの前に姿を見せて、一週間このガキを預かった後に、ヴェリス王宮へ身代金を請求したら、間違いなく大金が入るって言われて…。その男と女もついでに襲おうとしたら、とんでもない魔法使いだったもんで、逆に言うことを聞かなければ、俺らを炭にするって脅されたんです!」
  「…その男と女の特徴は覚えていらっしゃる?」
  「顔は分からないですが、男も女もガキと同じ肌の色をしてた…魔族の特徴だったと思います。でも、耳は丸かったので、半魔族じゃないかと…。髪は2人共黒かった…です。声は、魔法で変えていたのか、妙にエコーがかかっていて分からなかったです。」
  「少年を貴方達に預けたのはいつのお話なのかしら?」
  「三日前…です。その間、便所以外、動かして無いっす…。臭いのは俺らも嫌なんで。飯も…水しかやってない…必要ないって、男が。」

  しどろもどろになりながらも、状況を説明する盗賊団の男。クリス親子は、冷静に男の様子を見て、嘘はついていないと判断した。

  「…ふーん。嘘はついてない様ですね、母上。」
  「えぇ、それにこれ以上の事も知らなさそうね。ねぇ、貴方達、他に何か言っていなかったかしら?」
  「身代金の請求方法についてはガキを預かってから一週間後、ヴェリスの門番に文矢でも撃てば良いだろうとしか…。受け渡し場所は、俺らで考えろって…下手をすれば騎士団に捕まるから気をつけろとだけ無責任に言われてました。」
  「じゃあ、捕らえていて、身代金の請求までがその男女からの命令だったわけなのね?」
  「はい…。それ以降の事は、好きにしろと…。」

  クリスはアクセルが抱いている少年の顔を横目で見てみる。非常に整った顔立ちで、美白金髪の美少年アクセルが、褐色金髪の美少年を横抱きにしている姿は、一枚の絵画の様に美しいもので、クリスの胸の中の何か変なスイッチが入りそうになったが、慌てて抑える。

  (今は変な事を妄想している時ではありませんわよ、クリスティーナ。)

  と、息子を媒体とした貴腐人化を未然で防いだクリスは、冷静に盗賊達へ無情な言葉を言い放つ。

  「貴方達、綺麗に利用されてますわね。どのみち将来有りませんでしたわよ。」
  「は?どう言う事で…?」
  「まず、第五王子を誘拐したと、身代金を請求した場合、貴方達が想像している以上の騎士団が動きますわ。間違いなく。そして、貴方達程度の盗賊団なんて、瞬殺ですわよ。実際、私達に瞬殺されている訳ですし。」
  
  その言葉に、悔しそうに俯く盗賊の男達。

  「そして、その騒ぎに便乗して、不幸な事故としてこの第五王子を始末するつもりだったのでしょうね…。」
  「な…なんで?」
  「そんなもの、権力争いや、派閥争いの他、個人的な恨みや、将来的にこの少年がなんらかの影響を周りに与える可能性があるなど含めて、色々と考えられますわよ。はぁ、こんなちっぽけな盗賊団に第五王子を預けるとは、逆に子賢しいわね…。普通気付かれないわ。」
  「…じゃあ、俺たちは、どうしたら良かったんだ…?」
  「いや、その明らかに身分の高い、実力差のある男女に目をつけられた時点で、貴方達は詰んでいたのですわ。それに、どっちにしても今日、私達が貴方達を潰してますので、貴方達に未来は無いのですよ。」
  「ふざけるな!俺たちがお前に何をした!」
  「私達にしていなくても、今まで何人もの人間を殺し、犯し、奪ってきたのでしょう?それだけで害悪ではありませんか。洞窟の中に血濡れた金目のものなどが、沢山有りましたしねぇ。」
  「くっ…。」

  どう転んでも、自分達に未来は無いと悟った盗賊達は、絶望の顔を浮かべ、俯いていた。
  これまでも、弱そうな商隊や旅人を選んで襲い、隠れ家も見つけにくいところにして上手いことやってきたつもりだったが、自分達が狩られる側になって、恐怖を感じ、無様にも命乞いをしそうな勢いで地面に頭を擦り付けて懇願しているものもいた。

  「さて、貴方達は、この次の街まで引っ張っていきますわ。馬車で引きずると、死んでしまうかもしれませんねぇ…。逃げられても、面倒ですし…。」
  「母上、もう徒歩でもいいでしょう。どのみち二十人の盗賊なんて載せれる馬車などそうそうありませんし。」
  「はぁ、また到着が遅れますが、まぁ仕方がないですわね。ほら、立ち上がれるでしょう?付いてきなさい。」

  そう言って、クリスは器用にロープを術式で操作して、手を固結びにし、盗賊達を二列に並べて、全員が一本のロープで繋がるようにきつく結びつけ、ゾロゾロとクリス親子の後ろをついてくるのであった。

  「あ、そうそう。逃げようと思わない事ですわ。どうせ逃げられない上に、お仕置きが待っていますからね。別に、一人だけ残してあとは死体でも良いのですから。」

  クリスが盗賊達にそう言い放つと、泣き出す男まで現れる始末。

  「今まで散々人殺しをしておいて、自分が死ぬかも知れなくなると、泣くだなんて、都合のいい方々ですわね。精々これまでの悪事を反省しつつ、街の憲兵に引き渡されるまでの間、束の間の外の空気をお楽しみなさい。」

  クリスやアクセルは元々貴族としての誇りを持ち、民草を守るべき立場にあるため、その民草を無条件に危険に晒す盗賊に嫌悪感を覚えていた。

  魔導国家ヴェリスが圧政を敷いているという話は聞かなかった為、好きこのんで盗賊に落ちた堕落者達に、情け容赦を与える訳が無いのであった。



  クリス親子は、モニカとポールが待機している馬車の元へと戻っていった。

  ゾロゾロとクリスの後ろを付いて来ている盗賊達と、アクセルの腕の中で気を失っている高貴な少年の姿を見たモニカとポールは、盗賊達を捕まえて連れてくる事はある程度予想していたので、動揺する事なく盗賊達を誘導して適当な場所に固めてすわらせた。

  ただ、アクセルの抱えている少年を見た瞬間に(あ、厄介事だなこれ)と即座に判断するも、今は深くは聞かずに少年を馬車の中に寝かせ、起きるのを待つこととした。
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