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スウェントル王国〜番外編〜
47話 今は…泣いてもいいぞ。
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41話直後のカルロスとケヴィンがメインのお話です。
ーーーーーー
「また、暫しの別れだな。達者でな。」
カルロスがそう呟いた後、クリス達が転移した異世界への次元窓が閉じた。
カルロスと、ケヴィンは王城の広間で次元窓を開ける術式を展開し、見事成功したのであった。
「…。クリスティとアクセルは、元気そうにしていたな。」
「…。は…はい…。」
「ケヴィン、よく堪えた。…今は…泣いてもいいぞ。」
「…ちち、うえ…。母上とアクセルに一目会えて…ずっと会いたかった…です。元気、そうに、してましたね…。」
「あぁ…。」
カルロスは、ケヴィンを胸に抱き、頭を撫で付ける。ケヴィンは、物心ついた時から泣かないように心がけていた。
公爵家の跡取りとして周りに弱さを見せないよう、自らを律し、また大きな影響力を持つ父と母の重圧に負けじと力をつけようと努力してきたのだ。
それは、暖かく自分を育ててくれた、尊敬に値する両親の力に少しでもなりたいが故の努力であった。
だが突如、無情にも愛しの家族と離ればなれになり、公爵家として父と2人で母と弟が抜けた隙間を埋める為、奔走し、この2ヶ月間心が休まる暇も無かった。
それは、ケヴィンだけでなく、カルロスも同様であった。目の前で家族が神隠しに会い、無事かどうかも分からない中、ただ無事を祈りつつ、公務とクリス達の居場所の追跡術式の研究に励んでいたのだ。
ケヴィンはカルロスの胸の中で、家族の無事を喜ぶ気持ちと、また暫く会えなくなる悲しみに感情を支配され、声を出さずに静かに泣いている。
物心着いてから初めて父親の前で泣く事に罪悪感や気恥ずかしさなど複雑な思いもあったが、この時ばかりは我慢が出来なかった。
カルロスも又、キツく目を瞑り涙を堪えて、ケヴィンを強く抱きしめていた。
カルロスとケヴィンの周りには、大規模術師団が囲い、大きな術式陣の上に等間隔に並んでいる。しかし、全員が力を使い果たし、ぐったりと座り込んでいる。
そして、カルロスとケヴィンの姿を見て、もらい泣きをする者達も多数いた。
各々が手に持っている聖宝石の輝きも、次元を超える大規模な術式で力を使い果たし、今は僅かな力しか残っていない状況だ。
カルロスとクリスの直接の師匠である、マリナ=マクスウェルは、今は久しぶりに家族に会えた余韻に浸らせておくべきだと、静かに2人を見守っていた。
暫くしてカルロスとケヴィンが落ち着いた頃、マリナがカルロスに声をかける。
「カルロス様。クリスティーナ様とアクセル様が無事である事は確認出来ました。あの2人も、我が国内有数の術式の使い手、あの方達であれば、それはそれは逞しく生活されている事でしょう。」
「ふふ、そうだな。異世界で従者を雇っていた位だ。厚かましくも逞しく、生活しておる事だろう。ひとまず、無事が確認出来ただけでも、本当によかった。」
マリナは、深く頷くも、険しい顔をして手にしている聖宝石を見つめた。
「今後は追跡術での居場所の特定は、手渡したネックレスでおそらく楽になりましょう。ですが…次元転移術に適した聖宝石の開発に力を注がねばなりませぬな…。」
「この度、次元転移に適した聖宝石はどの種類であったかわかるか?」
「クリスティーナ様とアクセル様に渡されたネックレスと同じものになりますな。アレキサンドライトが一番適しております。後は、タンザナイトも適している様子ですが、双方希少宝石故に…。此度の大規模術師団と各々が持った様々な聖宝石の力で、手のひら大の大きさしか開ける事が出来なかったことを考えると、術式陣と術式の効率化、術者の増員と聖宝石の選定など、やらなければならない事は多大にございますぞ。」
カルロス達は、やらなければならない事が沢山あろうとも、やり遂げてみせるという気持ちを瞳に宿し、それぞれ視線を交わらせ、力強く頷きあった。
「大丈夫だ。我々家族の絆と、ここにいる皆の心強い手助けで、乗り切って見せよう。皆の者!今日は心から感謝を申し上げる!力をなくした聖宝石の精神力補充は後日で良い!今日はゆっくり休め。後日、改めて今日の成功報酬を渡そう。そして今後の打ち合わせなども適宜する為、引き続き力を貸してくれ!お主達の力が頼りだ!これからもよろしく頼んだぞ!」
カルロスが術師団の中央で、カリスマ性溢れる激励をし、術師団全員が気合を入れて肯定の返事をする。
その姿を見ていたケヴィンも、この父の様になれる様、もっと精進しなければと心に誓ったのであった。
やらなければならない事は多々あれど、家族が無事でいるという事が分かっただけで、気持ちはいくらか楽になった。
やるべき事の道筋が見えたカルロス達は、家族の為、引いては国の為にもクリスとアクセルを必ず助けることを改めて誓いあったのである。
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「また、暫しの別れだな。達者でな。」
カルロスがそう呟いた後、クリス達が転移した異世界への次元窓が閉じた。
カルロスと、ケヴィンは王城の広間で次元窓を開ける術式を展開し、見事成功したのであった。
「…。クリスティとアクセルは、元気そうにしていたな。」
「…。は…はい…。」
「ケヴィン、よく堪えた。…今は…泣いてもいいぞ。」
「…ちち、うえ…。母上とアクセルに一目会えて…ずっと会いたかった…です。元気、そうに、してましたね…。」
「あぁ…。」
カルロスは、ケヴィンを胸に抱き、頭を撫で付ける。ケヴィンは、物心ついた時から泣かないように心がけていた。
公爵家の跡取りとして周りに弱さを見せないよう、自らを律し、また大きな影響力を持つ父と母の重圧に負けじと力をつけようと努力してきたのだ。
それは、暖かく自分を育ててくれた、尊敬に値する両親の力に少しでもなりたいが故の努力であった。
だが突如、無情にも愛しの家族と離ればなれになり、公爵家として父と2人で母と弟が抜けた隙間を埋める為、奔走し、この2ヶ月間心が休まる暇も無かった。
それは、ケヴィンだけでなく、カルロスも同様であった。目の前で家族が神隠しに会い、無事かどうかも分からない中、ただ無事を祈りつつ、公務とクリス達の居場所の追跡術式の研究に励んでいたのだ。
ケヴィンはカルロスの胸の中で、家族の無事を喜ぶ気持ちと、また暫く会えなくなる悲しみに感情を支配され、声を出さずに静かに泣いている。
物心着いてから初めて父親の前で泣く事に罪悪感や気恥ずかしさなど複雑な思いもあったが、この時ばかりは我慢が出来なかった。
カルロスも又、キツく目を瞑り涙を堪えて、ケヴィンを強く抱きしめていた。
カルロスとケヴィンの周りには、大規模術師団が囲い、大きな術式陣の上に等間隔に並んでいる。しかし、全員が力を使い果たし、ぐったりと座り込んでいる。
そして、カルロスとケヴィンの姿を見て、もらい泣きをする者達も多数いた。
各々が手に持っている聖宝石の輝きも、次元を超える大規模な術式で力を使い果たし、今は僅かな力しか残っていない状況だ。
カルロスとクリスの直接の師匠である、マリナ=マクスウェルは、今は久しぶりに家族に会えた余韻に浸らせておくべきだと、静かに2人を見守っていた。
暫くしてカルロスとケヴィンが落ち着いた頃、マリナがカルロスに声をかける。
「カルロス様。クリスティーナ様とアクセル様が無事である事は確認出来ました。あの2人も、我が国内有数の術式の使い手、あの方達であれば、それはそれは逞しく生活されている事でしょう。」
「ふふ、そうだな。異世界で従者を雇っていた位だ。厚かましくも逞しく、生活しておる事だろう。ひとまず、無事が確認出来ただけでも、本当によかった。」
マリナは、深く頷くも、険しい顔をして手にしている聖宝石を見つめた。
「今後は追跡術での居場所の特定は、手渡したネックレスでおそらく楽になりましょう。ですが…次元転移術に適した聖宝石の開発に力を注がねばなりませぬな…。」
「この度、次元転移に適した聖宝石はどの種類であったかわかるか?」
「クリスティーナ様とアクセル様に渡されたネックレスと同じものになりますな。アレキサンドライトが一番適しております。後は、タンザナイトも適している様子ですが、双方希少宝石故に…。此度の大規模術師団と各々が持った様々な聖宝石の力で、手のひら大の大きさしか開ける事が出来なかったことを考えると、術式陣と術式の効率化、術者の増員と聖宝石の選定など、やらなければならない事は多大にございますぞ。」
カルロス達は、やらなければならない事が沢山あろうとも、やり遂げてみせるという気持ちを瞳に宿し、それぞれ視線を交わらせ、力強く頷きあった。
「大丈夫だ。我々家族の絆と、ここにいる皆の心強い手助けで、乗り切って見せよう。皆の者!今日は心から感謝を申し上げる!力をなくした聖宝石の精神力補充は後日で良い!今日はゆっくり休め。後日、改めて今日の成功報酬を渡そう。そして今後の打ち合わせなども適宜する為、引き続き力を貸してくれ!お主達の力が頼りだ!これからもよろしく頼んだぞ!」
カルロスが術師団の中央で、カリスマ性溢れる激励をし、術師団全員が気合を入れて肯定の返事をする。
その姿を見ていたケヴィンも、この父の様になれる様、もっと精進しなければと心に誓ったのであった。
やらなければならない事は多々あれど、家族が無事でいるという事が分かっただけで、気持ちはいくらか楽になった。
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