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スウェントル王国編
42話 いざ、旅立ちの時
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「申し訳ありません。皆さん、取り乱してしまいました。アクセルさん、袖で顔を拭かないの。ハンカチをお使いなさいませ。」
「はい、申し訳ありません。母上…。ぐすっ…。」
予期せぬところに、突如現れた愛しの家族の顔を見て、号泣してしまった2人。
クリスもアクセルも思ったより心が張り詰めていたようだ。2人とも、今まで表面には出していなかったが、元の世界に戻れるのか、家族にもう一度会う事は出来るのかと不安を抱いていたのだ。
それが、クリスの最初の予想通り、カルロス側で帰還方法を研究してくれているのがわかり、光明が見えた。
こちらの世界と、元の世界では術式研究に開きがある為、完全にカルロスに任せて、迎えに来てくれるまで安全な場所で過ごすのも良いのかもしれないが、その様にただ待つだけの女では無いのがクリスである。
「さて、モニカさん、ポールさん。突然の事で驚きましたわよね。」
「はい、でもおおよその事は想像がつきます。」
「クリス様の旦那様が、元の世界で頑張ってくれているという事ですよね?」
モニカとポールは、突然の出来事に驚いたが、クリス達の事情を知っている為、即座に状況を理解していた。
「はい。私の自慢の旦那様ですわ。」
「僕の尊敬する父上です!もちろん、母上も同様に尊敬しています!」
「うふふ。私も、アクセルさんと向こうに残しているケヴィンさん、2人の母になれて自慢しきりですわ。」
「母上…。うぅ~。」
「ほら、アクセルさん、そろそろ泣き止みなさいまし。目の周りが赤くなっていますわよ。」
仕切り直しとばかりに、クリスは真面目な顔をして、全員を見渡した。
「さて、まだまだ帰還には遠いでしょうが、カルロスさんに全てを任せっきりでは、妻としての名折れですわ。私達も、行動に移しましょう。」
「「「はい!」」」
今までの下地を元に、この世界を旅するだけの資金を得たクリス達。それに伴ってついて来た名声がやや足枷となりつつあったが、モニカとポールの元勤め先であるフェルナール子爵家という緩衝材が、うまい具合に影響して後腐れ無く旅立てる雰囲気を作ってくれている。
後は行動するのみとばかりに、クリスはリアム宰相と話し合いの場を設け、その後国王夫妻とも話し合い、クリス達は王城を後にする事が決まったのである。
もちろん、これまでの報酬を受け取ってからである。
その話し合いの時に、フィクサー王から本気の引き抜きにあった事は、クリスの想像通りだった。
しかし、最終的にはクリスの神々しいまでの笑顔を持って、国王も王妃も爽やかな笑顔で旅立ちを認めてくれたのは僥倖だった。
隣で、リアム宰相が残念な目つきで国王夫妻を見つめていたのも、今となってはご愛嬌だろう。
王城出立の日。クリス一行は準備を終え、王より褒賞として頂いた立派な馬車に乗り込もうとしている。
御者は、モニカとポールが交代で行う予定だ。アクセルも御者の経験をしてみたいと言っている為、ポールが余裕のある時に教える事になっている。
なお、旅の準備は王城に留まっている間に、市井の道具屋で済ませておいた。
城門には、これまで世話になった魔法研究者達や騎士団の一員達、リアム宰相が見送りに来てくれていた。
「皆様、今まで王宮に滞在させて頂き、とても良い経験となりました。わざわざお見送りに来ていただき、心より感謝申し上げますわ。」
そう言って、綺麗なカーテシーでお礼を伝えるクリス。
クリスの背後には、アクセルと従者の2人も綺麗にお辞儀をしていた。
「クリスティーナ殿、貴殿はスウェントル王国の英雄じゃ。また王国に立ち寄った際には、この王城にてもてなそう。是非にもその時は声をかけてくだされ。冒険者ギルドか、フェルナール子爵家が窓口となろう。」
リアム宰相が、王城でもてなすと言う一冒険者には絶対にかけない言葉を、クリス達にかけたのは、それだけ彼女達がこの国での重要人物である事を認めるものであった。
「ありがたきお言葉。またスウェントル王国に立ち寄った際には、どうぞよろしくお願いします。」
そう言って、馬車に乗り込むクリス達。そのまま、馬車が出発し、馬車が見えなくなるまで見送りに来ていた人たちはその後ろ姿を見つめていた。
騎士団長ブレイズも見送りに来ていた1人である。彼は騎士団のアイドルであるアクセルとポールがいなくなった後の、騎士団員のモチベーション維持をどうしようかと考えていたが、この1カ月少し、アクセルとポールに鍛えられた騎士団員達は良い意味で柔軟性が出てきて、確実に良い方向へと進んでいると実感していた。
(寂しくなるな…)と、感慨深い気持ちになりつつも、しっかりと見送るブレイズ。
馬車の中から見せたアクセルの綺麗な笑顔を瞳に焼き付け、我々も負けていられないと気合を入れ直したのであった。
リアム宰相は(フィクサー王とジェニファー王妃、立場的に見送りに来ることが出来なかった事、悔やんでたなぁ~、あとで慰めておくか…。)と、人の良い国王夫妻を思い浮かべた。
クリスが居なくなった後の王城は、以前の状態に戻るだけなのにどこか物足りない雰囲気を醸し出していた。
ーーーーーーーーー
スウェントル王国編 【完】
後、何話かですが【スウェントル王国~番外編~】で、クリス達以外の人をメインとしたお話を上げてから次の章へと進みます。
これからも宜しくお願いします!
「はい、申し訳ありません。母上…。ぐすっ…。」
予期せぬところに、突如現れた愛しの家族の顔を見て、号泣してしまった2人。
クリスもアクセルも思ったより心が張り詰めていたようだ。2人とも、今まで表面には出していなかったが、元の世界に戻れるのか、家族にもう一度会う事は出来るのかと不安を抱いていたのだ。
それが、クリスの最初の予想通り、カルロス側で帰還方法を研究してくれているのがわかり、光明が見えた。
こちらの世界と、元の世界では術式研究に開きがある為、完全にカルロスに任せて、迎えに来てくれるまで安全な場所で過ごすのも良いのかもしれないが、その様にただ待つだけの女では無いのがクリスである。
「さて、モニカさん、ポールさん。突然の事で驚きましたわよね。」
「はい、でもおおよその事は想像がつきます。」
「クリス様の旦那様が、元の世界で頑張ってくれているという事ですよね?」
モニカとポールは、突然の出来事に驚いたが、クリス達の事情を知っている為、即座に状況を理解していた。
「はい。私の自慢の旦那様ですわ。」
「僕の尊敬する父上です!もちろん、母上も同様に尊敬しています!」
「うふふ。私も、アクセルさんと向こうに残しているケヴィンさん、2人の母になれて自慢しきりですわ。」
「母上…。うぅ~。」
「ほら、アクセルさん、そろそろ泣き止みなさいまし。目の周りが赤くなっていますわよ。」
仕切り直しとばかりに、クリスは真面目な顔をして、全員を見渡した。
「さて、まだまだ帰還には遠いでしょうが、カルロスさんに全てを任せっきりでは、妻としての名折れですわ。私達も、行動に移しましょう。」
「「「はい!」」」
今までの下地を元に、この世界を旅するだけの資金を得たクリス達。それに伴ってついて来た名声がやや足枷となりつつあったが、モニカとポールの元勤め先であるフェルナール子爵家という緩衝材が、うまい具合に影響して後腐れ無く旅立てる雰囲気を作ってくれている。
後は行動するのみとばかりに、クリスはリアム宰相と話し合いの場を設け、その後国王夫妻とも話し合い、クリス達は王城を後にする事が決まったのである。
もちろん、これまでの報酬を受け取ってからである。
その話し合いの時に、フィクサー王から本気の引き抜きにあった事は、クリスの想像通りだった。
しかし、最終的にはクリスの神々しいまでの笑顔を持って、国王も王妃も爽やかな笑顔で旅立ちを認めてくれたのは僥倖だった。
隣で、リアム宰相が残念な目つきで国王夫妻を見つめていたのも、今となってはご愛嬌だろう。
王城出立の日。クリス一行は準備を終え、王より褒賞として頂いた立派な馬車に乗り込もうとしている。
御者は、モニカとポールが交代で行う予定だ。アクセルも御者の経験をしてみたいと言っている為、ポールが余裕のある時に教える事になっている。
なお、旅の準備は王城に留まっている間に、市井の道具屋で済ませておいた。
城門には、これまで世話になった魔法研究者達や騎士団の一員達、リアム宰相が見送りに来てくれていた。
「皆様、今まで王宮に滞在させて頂き、とても良い経験となりました。わざわざお見送りに来ていただき、心より感謝申し上げますわ。」
そう言って、綺麗なカーテシーでお礼を伝えるクリス。
クリスの背後には、アクセルと従者の2人も綺麗にお辞儀をしていた。
「クリスティーナ殿、貴殿はスウェントル王国の英雄じゃ。また王国に立ち寄った際には、この王城にてもてなそう。是非にもその時は声をかけてくだされ。冒険者ギルドか、フェルナール子爵家が窓口となろう。」
リアム宰相が、王城でもてなすと言う一冒険者には絶対にかけない言葉を、クリス達にかけたのは、それだけ彼女達がこの国での重要人物である事を認めるものであった。
「ありがたきお言葉。またスウェントル王国に立ち寄った際には、どうぞよろしくお願いします。」
そう言って、馬車に乗り込むクリス達。そのまま、馬車が出発し、馬車が見えなくなるまで見送りに来ていた人たちはその後ろ姿を見つめていた。
騎士団長ブレイズも見送りに来ていた1人である。彼は騎士団のアイドルであるアクセルとポールがいなくなった後の、騎士団員のモチベーション維持をどうしようかと考えていたが、この1カ月少し、アクセルとポールに鍛えられた騎士団員達は良い意味で柔軟性が出てきて、確実に良い方向へと進んでいると実感していた。
(寂しくなるな…)と、感慨深い気持ちになりつつも、しっかりと見送るブレイズ。
馬車の中から見せたアクセルの綺麗な笑顔を瞳に焼き付け、我々も負けていられないと気合を入れ直したのであった。
リアム宰相は(フィクサー王とジェニファー王妃、立場的に見送りに来ることが出来なかった事、悔やんでたなぁ~、あとで慰めておくか…。)と、人の良い国王夫妻を思い浮かべた。
クリスが居なくなった後の王城は、以前の状態に戻るだけなのにどこか物足りない雰囲気を醸し出していた。
ーーーーーーーーー
スウェントル王国編 【完】
後、何話かですが【スウェントル王国~番外編~】で、クリス達以外の人をメインとしたお話を上げてから次の章へと進みます。
これからも宜しくお願いします!
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