宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

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スウェントル王国編

36話 頭頂部をペチン!

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王との謁見が終わった後、クリス達は侍女に各々来賓用の個室を割り振られた。

宿屋とは格の違う非常に豪華な部屋を与えられた事により、クリスやアクセルと違い使用人として生活をして来たモニカとポールは、その豪華絢爛な部屋に恐れ慄いていた。

部屋の等級としてはクリスとアクセルに割り当てられた部屋は全く同じ間取りとなっており、他国の貴賓が寝食をする為の最上級のものにて、その部屋のみでも一市民の家よりも広々としていた。

続いてモニカとポールの部屋もクリス親子の部屋に比べると遠慮した広さではあるが、それでも1人で過ごす広さでは無い。

まさしく最上級の待遇となっており、今後の為のあからさまなご機嫌とりに、クリスは少しだけ苦笑いをした。

現在4人はクリスの部屋に集まって、今後の打ち合わせをしていた。

「さて。皆さん、今回の褒賞についてですが、予想以上の物を用意していただいた事に、私も驚いております。」
「『出来る事なら何でも』とは大きく出ましたよね。ここの国王。」
「えぇ、素材が研究などに回されて、褒賞も一冒険者としては破格な金貨1000枚程と、国から表彰が授与されるだけ位と思っていましたわ。こればかりは、この国の国王が人が良すぎるのか素直すぎるのか。はたまた私達の機嫌とりをしているのか。」

クリスの言った通り、今回の出来事がただのAランク冒険者がクリスと同様の事を万が一にも行った場合は、クリスの言った条件に近い褒賞となっただろうと考えられる。

しかし決して愚王では無いフィクサー王は、クリスに対して正当な評価を与える事で王国への取り込みと、定住を促す目論見がある。

「では皆さんに相談ですわ。どの様な報酬をご希望されるか、皆さんなら何を考えます?」
「はい!母上!金銭には余裕があるため特に不要かと。であれば、丈夫な馬を2頭と馬車を望むのはどうですか?」
「あたしはクリス様とアクセル様のご意見に従います。正直、何も思い浮かばなくて申し訳ないです…。」
「俺もモニカと同意見です。申し訳ありません。」

それぞれの意見を聞いて、クリスも頷いた。

「そうね、アクセルさんの意見も取り入れましょうか。馬車などは町でも購入できますが、王からの褒美で頂いた馬車と言うのは、色々と使いやすそうですね。後、王立図書館の禁書の閲覧権限と、魔導国家ヴェリスへの国王からの紹介状でも書いて頂こうかしらね。」
「母上、なぜ国王からの紹介状がいるのですか?」
「ヴェリスの魔法研究者達への顔合わせが楽になりそうでしょ?初動に大物からの紹介状があれば、色んな情報を集めやすそうですし。」
「さすが母上!使える物は王でも使え、ですね!」
「うふふ、アクセルさん。そうですよ。たとえ立場が上でも失礼にならないのであれば使えば良いのですよ。」

腹黒い事を笑顔で話す親子であった。

「後は…そうですわね。近いうちにフェルナール=コロナ子爵様とお話ししたいですわね。」
「クリス様、それは何故ですか?」

突然、以前の雇い主の名前が出てきた事に驚いたモニカとポール。

「我々が子爵様の子飼いである、と国側が『勝手に勘違い』をして頂けると、色々と行動しやすくなる可能性が高いのですわ。」

クリスは優雅に微笑んで、フェルナール子爵へと改めて面談をする為、文をしたためた。

****

リアム宰相は、今後の予定を話すため、侍女にクリス一行を呼び寄せてもらった。
王城の会議室にあたる部屋で1人でクリス一行を迎えるリアム宰相。

「突然すまんね、クリスティーナ様方。」

リアムの姿を確認するなり綺麗に礼をするクリス達。

「さて、早速なのですが、クリス様と今後のお話をさせて頂きたく、足を運んで頂いた次第です。」
「はい。宜しくお願いします。」

リアムは、先制攻撃とばかりに話し始めた。

「さて、その前にお伺いしたいことがあるのですが、クリスティーナ様。【ゼファー家】というはご存知でしょうか?」

クリスとアクセルは、顔を見合わせた。

「えぇ。よく存じ上げておりますわ。ですから。ダロム連邦の英雄ガノン=ゼファーと血縁関係なのも存じ上げておりますわよ。」
「…さようですか。では、【スカーレット=エイルーク】と呼ばれる女性はご存知ですか?」
「確か、の【魔導国家ヴェリス】の始祖ですわよね。の同盟国にもエイルーク家という貴族がいましてね。面白い偶然ですわ。」

優雅に微笑むクリスティーナ。
宰相は、予想と違う反応に驚いていた。
(…マジで?異世界人である事、隠すつもりないじゃん。クリスティーナ殿、堂々と『』って言い切っちゃってるよ。誤魔化すか何か動揺を得られると思って吹っかけてみたんだけどなぁ…。)

「さて、トルーシン宰相様。それを聞いてきたと言うことは、色々とご存知であるとお見受け致します。」
「…そうですね。クリスティーナ様は、ガノン=ゼファーやスカーレット=エイルークと同じ世界からやってこられた、という事でお間違い無いでしょうか?」
「うふふ、そうですね。間違い無いですわね。」

リアム宰相は、真面目な顔をして、クリス達を見る。

その時、宰相の広く寂しくなってしまった頭頂部に大きめのハエが止まってしまった。
思わず反射的に自分の頭を《ペチン!!》と叩くリアム。

赤くなってハエの死体がこびりついた頭頂部と、手についたハエを凄いしかめっ面で見つめる宰相を見たクリス一行は、一斉に右斜め下に視線をずらし、無表情を貫いている。

その様子を見た宰相は内ポケットからハンカチを取り出し、手と頭頂部を《キュッキュッ!》と拭いた。

クリス達はずっと右斜め下を見つめ、宰相の方を出来る限り見ないようにしている。
ぶっちゃけ、笑いを堪えているのだ。

「ゴホン!笑いたければ笑えばいいと思いますよ。」
「いえいえ、そんな失礼な事できませんわ…」

ハエのお陰で、幾分の緊張感が抜けた雰囲気で、クリス達と宰相の話しが再開されたのであった。

ーーーーーーー

次回に続きます。
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