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スウェントル王国編

35話 内心ビビっているのじゃよ…。

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 王城~謁見の間にて~

現在、クリス達は王城にてスウェントル国王と、その王妃に謁見している最中である。

「よい。皆の者。おもてを上げよ。」

フィクサー王が威厳たっぷりにクリス達へと声をかける。

今、クリス達は高級ブティックで購入した本気の貴族服を着用し、どこから見ても高位貴族と従者にしか見えない風態となっていた。

間違っても冒険者には見えない雰囲気である。

跪き、王へと敬意を表す姿勢をとっていたクリス達は、王の言葉で顔を上げる。

「この度は、お主らの活躍を讃えようと、足を運んでもらったのじゃ。」
「ありがたき幸せでございます。」

丁寧に優雅に返答をするクリスは、謁見の間に同席していた高位貴族達からも感嘆の気持ちを持って迎え入れられている。

既に、騎士団長ブレイズが、クリス達の実力は本物であると触れ回っており、ゴーレム討伐に疑いの目を向けるものは皆無となっていた。

その、英傑達を一目見ようと謁見の間に参上していた国の上層部に該当する貴族達は、クリスティーナ達の噂は耳にしていたが、ここまで『本気で貴族』をしているとは考えていなかった。

精々、行儀の良い冒険者で、本物の貴族を見たことが無い市民がはしゃいでいるだけだと思っていたのだ。

「今回のお主らの功績は歴史に残る快挙である!魔物研究や迷宮研究の進歩に役に立つ事ばかりか、その素材の有用性については語るまでも無い。」

フィクサーは、周りにも聞かせるようにクリスを褒め称える。

「そればかりか、街道に集まった驚異のグレートオーガの群れを討伐せしめた、その辣腕。まさしくスウェントル王国の英雄と言っても過言では無かろう。」
「勿体無きお言葉。身に余る光栄でございます。」

一息入れ、間を持たせるフィクサー王。
謁見の間は緊張感に溢れている。

しかし、クリス達は、その緊張感を感じさせない面持ちで堂々としつつも、謙虚な姿勢を崩さない。

その様子を見ている貴族達は、クリス一行は間違いなく場数を踏んで経験豊富な大物貴族に見えた。
その感想は、まさしく的を得ており正解なのだが、その事実を知らない貴族達にとってはクリス達が冒険者であるという違和感に戸惑いを感じていた。

「そこでじゃ、主らには、スウェントル王国より褒美を与えようと思うが、この決定に異議のある者はおらぬな?」

謁見の間は、静まり返っており、異議を唱える者は出てこなかった。

「此度の功績は多大なものである。よって、クリスティーナ一行には、まずは金貨5000枚を進呈する!」

金貨5000枚とは、王都に邸宅を構えてもお釣りが来る金額だ。
クリス達は頭を下げ、静かに続きの言葉を待っていた。

「それだけでは、到底追いつかないのも自明の理。よってじゃ。クリスティーナ殿。お主らの望む物を、出来る限り叶えようではないか。何か望みはないか?」
「…陛下、私共の為ご配慮頂き、心より感謝申し上げます。また、身に余るお言葉に、心が打ち震えております。」

静かに優雅に言葉を綴り、感謝を述べるクリス。

「此度の件ですが、今すぐに回答が出せそうにございません。もし、お許し頂けるのであれば、皆と話し合いとうございます。回答を出すのにお時間を頂けないでしょうか。」

恭しく返事をし、頭を下げる一行。

「ふむ。まぁ、すぐに何か望みはないかと言われても、思いつかぬ事も考えておった。」
「お手間をとらせる事、失礼にあたり申し訳ございません。」
「いやいや、事前に褒美の件を伝えていなかったこちらの不手際じゃ。気にするな。」
「お心遣い、感謝申し上げます。」
「また、儂や王妃からも個人的にお主達にお願いしたい事もある。」
「私共の様な一介の冒険者に、陛下より直接お願い事があるとは。恐悦至極にございます。」
「それは、また後日追って伝えよう。本日は王城に部屋を用意している為、ゆるりと休むが良い。また明日以降の予定を、後ほど宰相のリアムより、直接お主らに伝える事としよう。よいか?」
「かしこまりました。」

天上人にも等しい国王陛下に臆する事なく、まるで台本の読み合わせの様にスムーズに会話をするのを見た周囲の貴族達は、これほど『一介の冒険者』という言葉が似合わない【クリスティーナ様御一行】に驚異を感じた。

「ふむ。では、侍女に客室を準備させてある。本日は下がって良いぞ。」
「恐れ入ります。それでは。本日は失礼致しました。」

侍女に誘導され、謁見の間から出て行ったクリス達。

居合わせた貴族達は、一斉に緊張を解いた。
(年若い貴婦人でありながら、あの荘厳な威圧感。下手すると、どっかの国の王族の可能性はないか?)
(宝石の女神と黄金の精霊か…。綺麗だったな。)
(あの礼儀作法はどこで身につけたのだ?謎だな…。)

等々、小声で囁き合っていると、フィクサー王より解散の旨を伝えられ、貴族達も各々、持ち場や自領へと戻って行った。

人払いを済ませた謁見の間には、王と王妃、宰相の3人だけが残っている。

「ふぃぃ。なんじゃあの御仁は。儂、王族じゃよ!?なんで皆、あんなに堂々としてるの?」
「じわじわ来る謎の威圧感が、自然と周りを従えさせるオーラを放っていましたわ。私には無いものです。羨ましい…あのメンタルが欲しい…。」
「陛下!王妃様!クリスティーナ殿の気迫に負けないで下さい!なんとか王城に泊まっていただく事と、謁見をしたというパフォーマンスを貴族達にも見せる事が出来たので、後は、直接対決です!」

内心ビビっていたフィクサー王とジェニファー王妃。
叱咤激励するリアム宰相は今日も気苦労を重ねている様子だ。

「儂、クリスティーナ殿、怖い…。」
「私も…高貴かつ高級なオーラは私よりも上だもの…。自信無くすわぁ。」
「お2人とも、相手は凄腕ではありますが、この世界では全力で貴族なだけの、冒険者です!しっかりしてー!」

リアム宰相の切実な叫びが謁見の間に響いたのであった。
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