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スウェントル王国編

33話 【閑話】スウェントル国王と愉快な仲間たち

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クリスがグレートオーガの合同討伐に参加している頃、スウェントル王城では、国王と王妃、宰相の3人で会議をしていた。

国王、フィクサー=スウェントル。
齢47歳にてロマンスグレー溢れる美丈夫である。
威厳のある風態だが、やや気は弱く、平和なスウェントル王国だからこそ無難に国を運営できている。
貴族からの圧力には威厳のある態度で接し、波風を立たない様にする手腕はあるが、実はいつもビビっているという、隠れヘタレだ。
あと3年後には息子に王位を継承させようと、色々と教えている最中のそこそこ忙しい御仁である。

王妃、ジェニファー=スウェントル。
齢45歳だが、年齢を感じさせない肌の艶がある。
美しい顔立ちは齢を重ね、迫力のある美しさへと変貌…いや、進化していっている。
様々な知識で王を補佐しているが、王と同様に平和主義である。
常に王妃である重圧に負けそうになりつつも、やるべき事はやっている王妃であり、国民からの人気も高い。
王との間に、王太子(既婚)と、既にヤポン皇国の皇子に嫁入りした王女がいる。
王太子には既に子が2人おり、孫が可愛くて仕方ない時期に入っている婆馬鹿でもある。

宰相、リアム=トルーシン。
齢50歳の頭皮が寂しい事になっている気苦労人。
気弱な王と王妃を陰ながら支える敏腕宰相にて、貴族の取りまとめなどもリアムが一手に引き受けている。
なまじ仕事が出来るため、王の信を一身に受けている。
『王と王妃には自分が付いて居なければ!』と言う、親心にも似た忠誠心を持っている。
国王とは子供の頃から付き従っている為、友人のような関係を築き、王とも気安く会話の出来るスウェントル王国一の重要人物である。

国のトップ3人が揃った会議の内容は【クリスティーナ一行】に関してである。

「のう、リアムよ。確かに、クリスティーナ殿は商業ギルドで【ロゼルナ家】と名乗ったのだな?」
「えぇ、商業ギルドのサブマスターであるベイン殿より報告を受けております。」
「ロゼルナ家のぅ…。」
「陛下、ロゼルナ家と言えば、ダロムの英雄【ガノン=ゼファー】が残した日記に記載されていたという、異世界の貴族の名にあったかと。」
「そうなんじゃよな、流石ジェニーちゃん。博識じゃの。」
「いやですわ陛下ったら。」
「陛下、王妃様、今は40過ぎた王族のイチャラブは不要です。」
「リアムよ、お主遠慮せず言うのう。お主でなければ不敬じゃぞ?」
「陛下、話が進みませんので今はクリスティーナ殿の事を話しましょう。」

なお、【ガノン=ゼファーの日記】はダロム連邦国家の禁書とされており、昔に複写されたものがスウェントル王国の王立図書館に禁書指定され保管されている。

クリスが王立図書館で、元の国の痕跡をよく見かけるのに、一切情報が見当たらなかったのは、各国の上層部がその事実を隠している為でもある。

国によって隠匿性の温度感は違うが、市民の混乱を避けるのが第一目的としており、また多大な功績を収めているのが異世界の人間であると知られた場合に、過激派の貴族などがその子孫に対してどの様な行動をするのか予測がしにくい為の安全策でもあった。


話はクリスの件に戻る。

先日、冒険者ギルドから提示された希少種ゴーレムの頭部は、非常に綺麗な状態であり、更にゴーレムの全身を持ち帰ってきているというクリス一行についての情報を、王城では出来る限り早急に集めていた。

信じられない程の魔法技術に、見たことのない魔道具や、非常識な魔力を宿した宝石を全員が身につけているという、おおよそ今の世界の研究員では太刀打ちが出来ない技術能力を持っている事が報告されている。

一部の貴族や騎士などは、クリスの功績に懐疑的な視線を向けているらしいが、疑う余地は無いとフィクサー王は踏んでいる。

また、クリスが希少種ゴーレムを見つけたダンジョンの隠し部屋の扉を開けようと、王都で一番の魔法技術を持つ冒険者と迷宮研究の第一人者を連れて行ったが見たことのない魔法式で封印されており解除する事が出来なかったのである。

そうなると、クリス達の常識外れな力はどこから手に入れた物なのかと、クリスと謁見をする前に調べようとしていたのだ。

「異世界…か。魔導国家ヴェリスの始祖、【スカーレット=エイルーク】も異世界人だと言う話があるな?」
「はい。陛下。ヴェリスでは公然の秘密ですわ。エイルーク王家では今でも異世界転移魔法の研究をしているらしいですが、成功した事は無いと聞き及んでいます。」
「ゼファーにエイルーク…。この伝説の2人、その当時では考えられない技術を持って世界に変革を与えた人物じゃよなぁ。」
「そして、クリスティーナ=ロゼルナ殿の、信じられない程の高位な魔法技術と来ると…自ずと答えが見えてきますね。」
「やっぱジェニーちゃんもそう思うよね?クリスティーナ殿、異世界人決定じゃよね?」

王含む3人は大きなため息を吐いた。

「はぁー、異世界人ということ、きっと隠しているつもりじゃろうから、どうしたものか。」
「謁見は人払いさせて我々3人で行いますか?」
「えぇー?怖くないかの?だって、ゴーレム討伐する貴婦人って意味わからんもん。」
「50近いおっさんが、『わからんもん♡』ってかわいこぶらないで下さい。」
「リアム!ほんとお主、儂に対して遠慮ないのぅ!」

リアムはコホンと咳払いをし、話を本筋に戻す。

「この件は隠し通せる物でも有りません。きっと近いうち、魔導国家ヴェリスにもクリスティーナ殿の情報が行き渡るでしょう。そうなると、考えられるのがクリスティーナ殿の引き抜きです。」
「ヴェリスの魔法研究者ども、きっとあの手この手でクリスティーナ殿に接触を図ろうとするじゃろうな。」

出来る限り、クリス達には様々な情報含め、この国に留まって貰いたいと考える3人。

「クリスティーナ殿含め、彼女たち一行はこの国の、明るい光となって今や街を賑わせていますわ。得難い人材です。」

ジェニファーのその言葉にフィクサーとリアムも頷く。

フィクサー王はリアムに問う。

「希少種ゴーレムの報酬って、どれぐらいかのう?」
「頭部だけで金貨2000枚は下らないですな。全身となると王城を売りに出せるくらいの金額になるかと。破産するレベルです。」
「莫大なクリスタルと金じゃが、研究に持ってかれて素材としては利益が出ないのが痛い。しかし、それはこちらの都合じゃ。しかし、常識はずれな桁になるのじゃ。はっきり言って、そんな貢献をした貴婦人に何を褒美とすれば良いか、思い浮かばんのじゃよ。」
「いっそのこと、クリスティーナ殿に聞いてみるのが一番かと。『叶えられる褒美ならなんでも』と言えば、懐の深さを演じることも出来ましょう。」
「そうじゃな。あとは、しばらく全員王城に留まって貰いたいのう。研究者どもがクリスティーナ殿に早く合わせろと喧しくてな。出来る限り報酬は弾むからと、交渉してみるか。」

そう言ってフィクサーは、リアムに冒険者ギルドへ、クリス達の王城への召喚状を持って行く様に指示をし、会議は解散となった。

「はぁ…クリスティーナ殿、どんな人だろ。絶対普通じゃないよなぁ…めちゃくちゃ綺麗だけどすっげー強いとか、全力で貴族とか色んな報告あるけどさ。久しぶりだなぁ、人と会うのに相手したくないって思うの…。」

リアムは王城の廊下を一人歩きながら、肩を落として呟いた。

その背中は、仕事に疲れた哀愁漂う切ない親父を演出しており、近くを通った城の侍女が思わず二度見をする程であった。
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