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スウェントル王国編

31話 騎士団と衝突

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「あの教会での演劇は楽しかったわね。」
「はい!母上。あの後、色んな冒険者の方たちともお話し出来るようになって嬉しいです!」

教会で演じた魔王役がハマり、市民にクリス一行が親しみを持って話しかけてくるようになった。
今まで全力でお貴族様にしか見えなかったのが、『あれ?意外と面白い人たちなのか?』と認識されたのである。

一度そうなると、後は『クリス一行は貴族に見えるが、実は話せば非常に親しみやすい。』と言う良い噂が流れ出した。

スウェントル王国での市民の評判は上々だ。

あの後、クリス一行と一緒に演じた少年少女達とで打ち上げに参加し、冒険者ギルド併設の酒場で初めてご飯を食べたのだった。

新進気鋭のクリス一行と駆け出し冒険者の組み合わせは、駆け出しの少年少女達が潤滑油となり、今まで遠巻きに眺めていた他の冒険者達がこぞって話しかけてきた。

荒くれ者が集まる冒険者ギルドの酒場でご飯を食べるクリス達は、それはそれは一際異彩を放つ存在だった。
しかし、ほのぼのと返事をする様子は想像していたクリス一行のイメージよりも話しかけやすく、行儀の良さや高貴なオーラはそのままだったが、幾分か冒険者達との距離を縮める事になった。

そうして冒険者達が、クリス達に遠慮しなくなってきたら、色々な情報も手に入れやすくなった。

面白いダンジョンや、他の冒険者達の情報、街の噂話なども含めて有用・無用な物様々あれど、噂話は意外と捨て置く事が出来ないものである。

クリス達にとって、教会の公演は楽しく遊んだだけでなく、様々な副次効果をもたらしたのだった。


さて、希少種ゴーレムを討伐してから10日程過ぎたが、ギルドからの結果報告はあと少し時間がかかるだろう。

高級服の出来上がりも後4日ほどある為、クリスはまた依頼を眺めていた。

その中で気になった依頼を見つけた。

【騎士団と合同討伐】
依頼主:スウェントル王国白銀騎士団
内容:東のヤポン皇国に向かう街道に、Aランクの魔物“グレートオーガ”が10体以上の群れをなして現れた。
騎士団だけでは被害が甚大になる可能性があり、心苦しいが合同で討伐をしてくれないだろうか。
期限:移動含め最大3日 それ以上かかる場合は追加報酬あり
報酬:参加報酬 金貨3枚 討伐報酬 グレートオーガ一体につき金貨5枚
条件:非常に危険な任務となる為、自分に自信のない者は避けてほしい。
ランク:A以上

クリスは以前、王立図書館で魔物図鑑を眺めていた時に、グレートオーガの事も調べた事がある。
実力として、クリス一行であれば軽く退治出来るレベルである。

「…これからの事を考えると、この国の正式な騎士団に恩を売っておくのもいい手かもね。」
「え?…あぁ、そうか。王族や貴族にゴーレムの討伐を疑われる可能性がありますもんね。騎士団に実力を先んじて見せておくことで、実力の証人にすると言う事ですか?母上。」
「うふふ、アクセルさんも、先の事を考えてくれていますね。嬉しいわ。」

そう言って、依頼証を取りながら、アクセルの頭を撫でるクリス。
相変わらずの溺愛っぷりに、モニカとポールも苦笑いだ。

そうして、ナタリーの受付に並ぶクリス。

他の受付だって空いているのに、わざわざナタリーを選んで依頼を受けに行くのは、もはやクリスがナタリーをからかって楽しんでいる様にしか見えない。

ナタリーは、今受付をしていた若い少年冒険者の受付を途中で切り上げ、他の受付のおばさんに交代した。
人気の受付嬢は大変そうだ。
そこで少年冒険者ががっかりするまでがテンプレートである。

「クリスティーナ様、お待たせしました。依頼証を確認しますね。」
そう言って、メガネを中指で押し上げる姿は理知的で仕事が出来る女性だと感じさせる。

「やっとAランク依頼を受けて頂けるのですね!あぁ、こちら、王都のAランク冒険者が『騎士団と合同なんてやりにくい』と、こぞって嫌がった案件なんです。騎士団だけでも被害は多少出ても倒せるだろうとの事でして…。クリス様達以外に受けてくれる方が居なかったのです。」
「騎士団と冒険者って、そりが合わないのかしら?」
「…はい、仲が悪いと言うわけでは無く、騎士団の方々も融通は聞きますし、冒険者の方を下に見ることはありません。ただ、真面目な性格の人が多くて、自由人な冒険者にとっては息苦しさを感じてしまうそうですよ。」
「あら、その程度なのね。なら大丈夫でしょう。」
「はい。うふふ、クリス様なら、きっと問題ないでしょうね。頑張ってください。お気をつけて。」

ナタリーもクリスに慣れてきたのか、少しだけ気安さが出てきた。
クリスはいい傾向だと一人頷いた。

そうして、指定の待ち合わせの宿屋に向かったクリス一行。
そこには、統一された服を着た騎士と思われる男性達が各々ソファに座ったり、壁際にもたれたりしてくつろいでいた。

「ごきげんよう。皆さま。」

クリスが一声かけた瞬間、騎士と思われる男性全員が起立し、気をつけの姿勢でクリスを見た。

「あら、楽になさって。私は貴族ではありません事よ。Aランク冒険者のクリスティーナですわ。合同討伐の依頼を受けましたの。よろしくおねがいしますわね。」

クリスがそう伝えると、一人の30歳前後の男性がクリスに向かって話しかけてきた。

「はじめまして。私は白銀騎士団の団長、ブレイズと申します。クリスティーナ様達のお噂はかねがね。なんでも、FランクからAランクに飛び級で上がり、冒険者ギルドや王国に多大な利益をもたらしたと伺っています。」
「あら、騎士団長様にもお話しが通っていますのね。光栄ですわ。」

そう言って、クリスは優雅な笑みを浮かべ、ブレイズと視線を合わせる。

ブレイズは、真剣な眼差しでクリスに忠告をした。

「どの様な偶然で貴女の様な方がゴーレムの素材を持ち帰れたのか不明だが、今回の任務は遊びではありません。女性と子供しかいないのに、危険だと分かっていて連れて行ける筈が無いのです。申し訳無いが、お引き取り願えますか?」

最初から希少種ゴーレムの討伐を疑ってかかってくるブレイズに対して、クリスは挑発的に返事をした。

「あらあら、聞いていた通り、真面目な方ですのね。でも、人の実力を測ることの出来ない方が騎士団長とは…。大丈夫ですの?はっきり言いまして、私達全員が、貴方達の誰よりも強いですわよ?」

クリスのはっきりとした挑発に、後ろで控えていた騎士達に殺気が宿る。

「…この国を守る騎士として、聞き捨てなりませんな。」
「事実ですわよ?」
「お上品な貴婦人や子供に負ける様な柔な鍛え方はしていない。その様な安っぽい挑発には乗りません。」
「うふふ。本当に、見る目が無いのね。この様な騎士が騎士団長だなんて、この国も大したことありませんのねぇ。」

クリスの余りにも攻撃的な挑発に、アクセルは『母上らしく無い』挑発の仕方をしていると感じた。
クリスなら事実、もっとうまく丸め込む事が出来るはずだと理解しているからである。

クリスの攻撃的な挑発に乗った、ブレイズの後ろに立っていた騎士が大声を上げる。

「なんだと!?俺たちを馬鹿にしているのか!!」
「あらあらまぁまぁ。安っぽい挑発に乗っていますわよ、貴方の部下。で?実力を確かめもせず、人を見た目で判断する様なお馬鹿な騎士様は、言われっぱなしで引き下がるのかしら?」
「…馬鹿だと…?」
「はっきり言って、私にとっては貴方達が足手まといですわ。グレートオーガの群れ程度が、騎士団の方々では荷が重い任務なのでしょう?」
「グレートオーガの群れ“程度”?」
「貴方達に怪我をさせない為にも、私たちだけで討伐して上げてもよろしくってよ?」

ブレイズは、憤る部下を制し、クリスを強い瞳で睨みつける。

「…キースよ、女性や子供に対して剣を抜こうと考えるな。騎士の名折れだぞ…。しかし、随分と思い上がった貴婦人の様ですな。…では、お言葉の通り、貴女達がどこまで出来るのか、お手並み拝見といきましょうか…。」
「えぇ。Aランク“以上”の希少種ゴーレムを無傷で討伐した私たちの実力を近くで見て、お勉強してくださいまし。」
「…どこまでも馬鹿にするつもりか?ただ、自分の発言には責任を持って欲しい。貴女達が危険に晒される様な事が起きても、私たちはギリギリまで手を出さないぞ。」

クリスは優雅な笑みを絶やす事なくブレイズを眺めた。

「うふふ、貴方達の出番はございません事よ。」
「大口を叩く…。しかし、目の前で女性や子供が殺される所は見たくありません。たとえいけ好かなくとも、恐怖に慄いているのを確認できた時は、貴女の暴言を水に流して助けてあげましょう。」
「あらあらまぁまぁ、本当に真面目な方ですのね。見る目の無さ以外のその真面目な性格は、正直好感を持っていますわ。貴方達は、私達の後ろで見守っていてくださいな。ご安心ください。」

クリスにとって、今回の依頼はあくまで騎士団がクリス達の実力を実際に見て、その力の証人となる事が目的である。

多少嫌われようと、討伐の際に余計な手を出されず、全部こちらに任せて欲しかったのだ。
また証人の数は多ければそれだけ説得力も増す。

予想以上に、自分の思い通りに事が運べた事に、クリスは内心ほくそ笑んでいた。
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