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スウェントル王国編

29話 盛りに盛った頭が少し重いのですわ

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教会主催の演劇当日、今スウェントル王国で一躍有名になったクリスティーナ様御一行が、教会の演劇に参加するという話は、あっという間に広まった。

話題の『宝石の女神』クリスティーナや、その息子『黄金の精霊』アクセルを一目見ようと、小さな教会の広間にかなりの数の人が集まっている。

クリス達が思っている以上に、クリス一行は目立っており、Fランクの頃から漂わせていた威厳と高貴なオーラ、また飛び級で一ヶ月程度でAランクになったその実力は王都で知らないものは居ない。

その為、王都の他のAランクやSランク冒険者にも興味を持たれている状況だ。
それには嫉妬も含まれており、一部のBランク冒険者などはクリス一行を陥れようと画策した事もあったが、クリス一行を一目見たときに『関わると、絶対に危険だ』と本能が告げ、未遂に終わっていたりする。

閑話休題。

公演当日、クリス一行は教会の控え室で、魔王演出の為に着替えていた。

「間違いなく母上が魔王ですよね!僕、演技の中でも魔王の息子を演じます!」
「じゃあ、あたし達は、その部下で、適当に序盤でやられる演出しますね。」
「とりあえず、影移動とか使って派手な演出しますね。勇者側の演者が慌ててグダグダになるのも面白そうですし。」

と、皆結構ノリノリで楽しみにしている。
この様な方法で教会や市民、冒険者との交流を計画するのは確かに良い方法だろう。

クリスは、どこから用意したのか、真っ黒のマントを羽織り、右肩に特大の黒薔薇のコサージュを付け、真っ赤なドレスを身にまとい、以前ダンジョンで入手した赤いピンヒールを履いて身長がより一層高くなっている。

顔には同様にダンジョンで手に入れたレインボーのパピヨンマスクを付け、真っ赤なルージュに髪の毛は盛りに盛って真珠のネックレスを髪に巻きつけている。

渦巻き状に盛りに盛った髪が、元からの長身とヒールを加えてクリスをより一層巨大化させていた。

「どうかしら。魔王っぽさ、出ていますか?」
「…魔王かと言われると…。ただ、迫力は非常にあります。」
「母上!ムチを装備しましょう!」
「あら、それもいいアクセントね。後は、幻影術式で黒羽を生やしましょう。皆さんお揃いで。」
「おぉー、悪役っぽさが増しましたね!」

アクセル、モニカとポールの三人は、黒い燕尾服で赤いネクタイと三人がお揃いの服だ。
黒と赤で統一し、クリスのみを魔王と認識させる為に、他三人は部下と印象付ける為お揃いの服を準備したのだ。

クリス達の控え室の扉がノックされ、クリスが返事をする。
扉が開いて姿を見せたのは、いつぞやの少年四人組だった。

「挨拶にきました。俺、勇者役をします…ってクリスティーナ様御一行が魔王サイド!?」
「まじかよ!?」

とワラワラと控え室を覗いてくる少年達。
少年達は完成しきったクリス達の服装を見て、唖然とすると同時に(威圧感パネぇ!!勝てる気がしねぇ!)と全力で心の中で叫んだ。

クリス達は苦笑を浮かべている。
この子達とは奇妙な縁がある様だ。

「あら、久しぶりね。そういえば、お名前知らないままでしたわ。教えてくださる?」

クリスは、魔王の格好をしたままだが、パピヨンマスクを外して優しげな笑みを浮かべた。
幾分か威圧感が和らいで、少年達は自己紹介を始めた。

「は、はい!えっと、犬の獣人でリーダーをしてます、ヨシュアです。今回、勇者役をします!」
「俺は、魔族のイーサンです。今回勇者の仲間役します…あの、お手柔らかに…。」
「僕は、ハーフフットのビビです。仲間役します…。お手柔らかにお願いします。」
「人族のアーディンです…。同じく仲間役です。その節は、色々とありがとうございました。」

初めて少年達の顔をしっかり見た気がする。
全員素直そうで将来は有望かもしれないと、クリスは思った。

「今日は楽しく演じましょうね。」

と声をかけた時、開いていた扉から、少女二人がひょこっと部屋を覗いてきた。

「あの…今日の公演の共演者の方々ですか?」
「今日はよろしくお願いしまーす!」

と、中を確認せずに元気に挨拶をしてきた少女達は、いつぞやのスライムに捕獲されていた残念エルフと幼女(?)だった。

「あらぁ、あなた達もお久しぶりねぇ」
「えぇ!?クリス様達じゃないですか!?再会できて光栄です!」

幼女(?)が目をキラキラさせながらクリス一行を見つめる。

「やっべぇ!あんた達の格好すっげー!勝てる気しねぇー!あはは、あたいらが女神って、もう存在自体で負け確定じゃねーか!」

と言いながら幼女(?)の頭をグリグリ撫でながら笑い飛ばしている。
残念エルフは、度胸だけはあるのか、クリス達に物怖じはしていない様子だ。

その様子に、少年達は「こいつ何者!?」と呟いている。
因みに、少年達と少女達は既に挨拶済みである。
お互いが年齢も近く同じFランクも理由したのか『なんだか仲良くなれそうだな』と謎の親近感を感じ、すでに薬草採取などを共同で依頼を受けたりもしている。

ポールは、二人の顔を見て、
(ブランケットやったやつらだよな、一応声かけといた方が良いかなぁ)
と気を遣って話しかけた。

「おう!久しぶりじゃん。元気だったか?」
ポールは片手を挙げ、二人に挨拶をすると、二人は顔を赤くしだした。

「おぉぉ、ポールさん!相変わらず素敵だなぁ。クリスティーナ様一行が超素敵なんだけどな。」
と、照れ笑いをしながらも以前のお礼を言う少女達。
そして、自己紹介の流れとなった。

「私、女神役やるハーフフットのミミです!」
「あたいは、同じく女神役のエルフのサーシャだ!」
「今日はよろしくですわ。頑張りましょうね。」

お互いの顔合わせが終わり、演劇の打ち合わせをする。
大立ち回りについては、剣は念のため、教会にあった子供用のおもちゃの剣をお互い使うことになった。

その他、クリスが主導で勇者役や女神役に指示をだす。
たとえ小芝居でも妥協を許さない精神を感じ、少年少女達は、気持ちを引き締めた。

オリバー司祭より、公演の時間が近づいてきたと知らせられ、全員で広場に向かう。
仮設舞台の裏から広場を見ると、予想以上に人が敷き詰めていた。
ざわざわした雰囲気で、少年少女達が緊張で顔色を悪くしている。

「ど…どうしよう、せいぜい20ー30人位だと思ってたのに、数百人単位じゃねーか…。」
「おぉ、あたいでも、これは緊張するぜ…。」

クリスはその様子を見て声をかけようとしたところ、先にアクセルが少年少女達に声をかけた。

「1人でも、100人でも1000人でも、人前で立って何かを成すのは緊張して当然だと思うよ。僕もお兄さん達より歳下だから偉そうな事は言えないけどさ。でもね、こういう経験って滅多に無いから、乗り越えたら心が成長すると思うよ。失敗を怖がらず、笑顔で楽しもう?」

アクセルのキラキラした無邪気な笑顔は、整った顔も相まってそれはそれは神聖な雰囲気を醸し出していた。
クリスは一人アクセルの成長に身悶えている。

少年少女達は全員、アクセルに向かって思わず跪きこうべを垂れ、まるで騎士が忠誠を誓うかの様なポーズをとった。

「はい!クリスティーナ様、アクセル様達と一緒に演劇ができる幸福を胸に抱き、精一杯頑張ります!」
「いや、そんな大げさな…。」

まるで戦場に赴く兵士の士気を鼓舞したかの様な雰囲気になった事に、クリス一行も少し引いてしまった。

そして、いよいよ開演である。

「準備お願いしまーす!」
「「「はい」」」」

***
拡声魔法で、オリバー司祭が朗読をしていく。

「世界は、魔王の一味に征服され、荒れ果てていた。
人々は疲弊しきり、魔王の圧政に苦しめられていた。
そんな時、二人の女神が地上の様子を嘆き、勇者に神託を授けたのだった…。

はい!女神様ご入場ー!!」

歓声と拍手で迎えられる女神役の二人が舞台に出る、

『素朴な女神様達だな!』
『可愛いぞー頑張れー!』

観客からも好意的に迎えられた様だ。
サーシャ達も手を振っている。

オリバーが朗読を続ける。

「勇者よ…魔王を倒し、新しい世界の王となるのだ…
女神の神託を聴いた勇者達は、世界を救うべく立ち上がった!

はい!勇者様ご入場ー!」

再度、歓声と拍手で勇者役の少年達が舞台に出る。
少年達は緊張しながらも、笑顔を振りまいている。

『駆け出し勇者くん、かーわいいー!』
『頑張ってー!』
『勇者なんだから勇気出していけよー!』

素朴な少年達は、観客からの受けも悪く無い様子だ。
得てして勇者とは身近な存在であるべきと言う、物語のセオリーにも乗っ取っているからであろう。

「勇者達は、女神と力を合わせながら、魔王に対抗し遂には魔王城へとたどり着いたのだった。
今日こそ魔王を倒し、平和な世界にするぞ!
魔王、出てこい!と勇者達は声を上げた。

はい!魔王様ご入場ー!」

歓声と拍手がなったが、クリス一行が表舞台に出た瞬間、会場は静寂に包まれた。
クリス達の足音だけが妙に響き渡っている。

正面を歩くアクセルは、黒の燕尾服に黒い翼を生やし、美しい顔で微笑んでいた。
頭のサイドからは、渦巻き状の角が生えていた。
なお、翼も角もクリスの幻影術式で表現している。

アクセルの背後にクリスが立ち、赤いドレスと黒マント、黒薔薇の巨大コサージュがインパクトを与えている。
何より顔のレインボーなパピヨンマスクと真っ赤なルージュが悪役感を一層引き立たせており、圧迫感半端なく、演劇鑑賞している観客達も、クリスの雰囲気に飲まれてしまった。

お揃いの燕尾服を着てクリスの両脇に立っている従者二人が、さらにクリスの存在感を際立たせていた。

なお、全員漆黒の翼を背中につけている。
その統一感が、また綺麗に迫力と圧力を演出していた。

静寂の中、クリスが舞台に到達したと同時に、手にしていたムチをしならせ、《パァン!》と舞台縁を叩いた。
勇者も女神も観客も《ビクッ》としていた。

「おぉーほっほっほっ!
よくここまで来たわねぇ。
勇者の坊や達?なぁに?
私と遊んでくださるわけ?
…面白い冗談ねぇ。うふふ。
さぁ、私達と一緒に
 踊 り ま し ょ う?」

クリスが色気と迫力満点でそう言った瞬間、会場は大歓声に包まれた。

『すげぇぇ!本気の魔王じゃん!』
『きゃー!アクセル様カッコいいー!!』
『あれが、宝石の女神クリスティーナ様か!?美しいのにすっげー強そう』
『つーか、あの迫力何?素朴な勇者君と女神ちゃんには荷が重いだろう!?』

オリバーが朗読を続ける。

「こうして、勇者と魔王の戦いの火蓋は切って落とされたのだった!」

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俺たちの戦いはこれからだ!
次回へ続く!
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