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スウェントル王国編

27話 イチャイチャしますわよ!

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「うーん。お茶が美味しいですわ。」
「母上、このタルト、ベリージャムが優しい甘みで、しかし後味は華やかな香りが口の中に広がり絶品です。」
「このキャロットムース…美味しいぃ。クリス様、この護衛任務、最高ですね。」
「んにゃ。あち、あっつ!このココアあつ!美味しいけど舌火傷しちゃった。」

クリス達は、ゴーレム達の結果報告が出るまではスウェントル王国を出ることができない為、Aランク冒険者に上がった事から、何か面白そうな依頼が無いかを探し出したのが、今回の依頼だ。

◆◆依頼内容◆◆
【強盗から守って下さい】
依頼主:パティスリー☆ラブリージューン
内容:最近、店舗界隈で強盗が頻発しています。
強盗からお店を守って下さい。店舗にお客様として座って頂いていて結構です。
期限:最低3日
報酬:強盗討伐時【冒険者ギルドより金貨1枚】+【店舗より銀貨50枚】計:銀貨150枚相当
護衛中報酬【ラブリージューン限定スウィーツ進呈+1日銀貨5枚】
条件:当方女性客メインのスウィーツ店の為、お店のイメージを壊さない方でお願いします。
ランク:D以上

ランクはそこまで高くなく、座ってゆっくりしながら更に限定スウィーツも食せるとあって、選ばない訳が無いとクリスとモニカの女性票で決まった案件だ。

勿論、アクセルもポールも甘味は好きで、普段あまり食す事がない為、渡りに舟であった。

また冒険者ギルドとしても、荒くれ者が多く、女性冒険者などもスウィーツ店に行くのには勇気がいるのか、なぜか報酬も悪く無いのに余っていた内容である。
勿論、店舗側の条件が高く余っていた可能性もある。

今回、店舗側は棚からぼた餅の結果となっており、クリス達の様に美しい集団が店に居るだけで集客が見込める為、『強盗が来たらすぐに動けるように』ともっともらしい理由をつけて、テラス席に座ってもらっている。

人外に見目麗しい女性と、王子様のような美しい少年、ピンクのうさ耳がチャーミングなセクシー少女に、白猫オッドアイな整った顔の少年が四人、テラス席でテーブルを囲んで美味しそうにスウィーツを食しているだけで、集客効果が出て、元々人気店だが、普段の倍以上の集客に成功していた。

しかし、クリス一行は普段の状況を知らない為、すごい人気の店なんだねーと気楽に話しをしている。
自分たちが集客に一役立っている事に気がついていない。

「はい、アクセルさん。あーん。」
「は…母上、恥ずかしいです…。」

美しい親子がイチャイチャするだけで、テラス席周りでその様子を見ていた客が恍惚のため息を吐いていた。

「じゃあ次は僕の番です!母上、はい、あーん。」
「いやん、アクセルさんったら!あーん。」

愛しの息子からの初めての『あーん』に、身悶えるクリス。
元の世界では見せた事がない笑顔でアクセルのスプーンからタルトを食している。

「…」
「…」

モニカとポールは、羨ましそうに親子を見つめていた。
自分たちもやっていいのか?
この空気ならやってもいいんじゃね?
きっと、いいわよね?
と、お互いアイコンタクトで会話をする。

ポールは自分のケーキにスプーンを入れ、おずおずとモニカに差し出した。

「も…モニカ。あーんして。」

ポールの顔は真っ赤になっている。
モニカも、真っ赤になりながらクリスとアクセルをチラ見すると、すごいニヤニヤした二人と目があった。

酷い羞恥に襲われたが、『ポールからのあーんプレイ、逃してなるものか!』と謎の度胸を発揮してポールのスプーンに口をつける。

甘い。心まで甘くなってきた。
とモニカはとろける。

クリスは何も言わないのだから、きっと許してくれているのだろう、この場は無礼講だから好きに行動しても良いと、言質も取っている。

「じゃあ、次はポールに。はい…あ、あー…ん。」

今、モニカの顔は人参のように赤くなっている。

ポールも負けじとあーんでキャロットムースを食す。

「お、美味しいね。モニカ。」
「うん…甘い。」

初々しい恋人同士のやり取りを、クリス親子は何も言わずにニヤニヤと眺めている。

変に見守られているような感覚に羞恥に包まれるが、モニカとポールは、人前でイチャイチャするのも悪くないなと思っていた。

周囲でその様子を見ていた女性客は、ほんわかする客と、「見せつけちゃって…」と歯ぎしりする客に分かれていた。

クリス一行が甘い空気を漂わせながらお茶をしていると、【パティスリー☆ラブリージューン】に向かって凄い勢いで走ってくる黒ずくめの男二人の姿を見た。

男二人は目元だけ穴の開いている黒い仮面をし、手にしている大剣を今にも振り回さんとする雰囲気で店に駆け込み…しようとしたが失敗した。

クリスがお店の内部からは見えないように、店の周りを薔薇の結界で囲ったのだ。
店内からは外の様子が一瞬で見えなくなったが、客や店員も含め薔薇の香りと色とりどりの大輪の薔薇に包まれたのである。

その芸術的なまでに美しい光景は、来店していた客からは感嘆の声が上がった。

その薔薇の結界に阻まれた強盗と思われる男二人組は、結界にぶつかったと同時に茨の蔓で雁字搦めがんじがらめとなり、道端に横たわっていた。

仮面の下にも茨の蔓が入り込み、口を塞いでいるのかくぐもった呻き声が聞こえてくる。
仮面の下から流血しているのが見えて、ややホラーの様相だが、クリスはお構い無しだ。

「うーん。茨だけだと、なんだか拷問してるみたいで美しくないわね。」

クリスはそう呟いた後、蔓を操作して男二人を逆さ吊りにし、蔓の周りに大輪の薔薇を咲かせた。

「うん。これなら、見目麗しいオブジェとして見ることが出来ますわね。」
「いや、母上。無理があります。どう見てもシュールな光景です。」

クリスとアクセルはテーブルに座ってスウィーツを嗜みながら、大輪の薔薇を咲かせまくって逆さ吊りになっている強盗を眺めた。

店の中からは男二人の姿を見えないようにしており、強盗がやってきた事によるパニックは起きていない。

しかし、店の外では今まで頻発していた強盗の特徴を持った男二人が、現実離れした姿で捕らえられているのを遠巻きに眺めるギャラリーがどんどん増えてきた。

【パティスリー☆ラブリージューン】の女性店長が表に出てきて、クリス達に感謝を告げる。

「強盗を捕らえて下さったのですね!お店を守って頂き、ありがとうございます!…しかし、凄い捕獲方法ですね。お店のお客様達も、突然薔薇が咲きほこったのを見て驚いていましたが、お店の雰囲気を壊さず、パニックにならないように計らって頂き、お礼申し上げます!」
「いえいえ。ところで、捕まえた強盗犯はいかがすれば宜しいので?」
「別の店員に憲兵を呼んできて頂いていますので、このままで大丈夫です!」

そうして、やってきた憲兵が現場の状況を見て唖然としたのは別の話。
憲兵は哀れみの目で強盗二人を見下ろし、捕縛の上連れ去っていった。

「あらあら、まぁまぁ。初日で捕まえてしまうだなんて。もう少しこのカフェの特等席で美味しいスウィーツを嗜みたかったですわね。」

舌の肥えたクリスにとっても、この店は当たりだったようだ。

「クリス様、また普通にお店に立ち寄りましょう。あたしもこのお店、好きです。」
「えぇ。そうね。また皆さんと来ましょう。」

クリス達は、他にも面白そうな依頼があれば受けてみましょうね、とほのぼのと優雅に帰っていった。

結界は放置していれば数十分で消滅する為、特に問題は無いのだが、そんな事を知らない【パティスリー☆ラブリージューン】の女性店長が「え?この店の周りに咲きほこった大輪の薔薇はどうしたらいいの?」と少し焦っていたのはご愛嬌。
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