宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

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スウェントル王国編

18話 モニカ式本気メイクですわよ…!

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宿のロビーで、アクセルとポールはクリス達を待っていた。

「母上、遅いなぁ。そろそろ馬車の時間なんだけど…。」
「まぁ、女性は準備に時間が掛かるものですからね。」

この世界に来てからクリスは髪型に特にこだわりを持たず、軽く結い上げるか、そのまま下ろして流しているかで、メイクも軽くしかしていない。

だからそこまで時間が掛かる事は無かったのだ。

しばらく待っていると、長い髪を聖宝石のバレッタで綺麗にまとめ、パールの聖宝石のネックレスで小綺麗に着飾ったクリスが階段を降りて来た。

服装も、先日購入した白いローブで、冒険者としては高価な服装をしてはいるが、高位冒険者にはいない事は無い格好をしている…のだが。

ロビーは一瞬騒ついた後、突如静寂を迎えた。

ロビーにいた客や、宿屋の従業員、冒険者からたまたま居合わせた子爵領の騎士に至るまで、跪き、こうべを垂れ、王族や高位貴族へと向ける最敬礼を持ってクリスを迎え入れたのだ。

「…あらあら、まぁ。」

流石のクリスも予想外だったらしく、笑みがやや引きつっている。

何がそうさせたのか。
モニカが気合いを入れて、クリスのメイクをした事により、人を跪かせるカリスマ性を表現してしまったのだった。

元々、人外に美しい顔立ちをしたクリスに、更に引き立たせる色合いの口紅と、グラデーションの効いたアイメイクの上に、ラメを重ねてキラキラさせてみたのだ。

「あの、皆さま、頭をあげて下さいな。何か勘違いされているかも知れませんが、私はただの冒険者ですのよ。」

そう言葉をかけられそろそろと頭を上げるも、言葉を発しようとせず、跪いたまま動こうとしないロビーの人々。

「母上、きっと、我々が去るまで、皆さん動く事を躊躇してしまうかと思います。きっと何を言っても誤解されたままですよ。」
「…そうね。モニカ?私の(元の世界の)侍女並みに綺麗にメイクしてもらって悪いけど、今後、普段はもうちょっとナチュラルでお願いしますわ…綺麗にメイクしてもらって嬉しかったんだけどね。こんなに市井の人々に影響を与えるのね…この顔。」
「申し訳ありません…あたしはクリス様を見慣れたため、似合うメイクをと張り切ったのですが、余計な心労を与えたようです…。」
「…(俺も跪きたくなったのは内緒にしとこう…。)」

そう言って、宿を出て行くクリス一行。

パタン…と扉が閉まったのを見て、跪いていた人々は、大きなため息を吐いた。

「おいおい、どこぞの王族か?こんな普通の宿に泊まるようなものでは無いだろうがよ。」
「…冒険者って言っていたけどさ、侍女とか市井の者とか話してたから貴族なのは間違い無いよね。」

しばらく宿のロビーは騒めきが収まらなかった。


冒険者の乗り合い馬車には人が居なかった事が幸いした。
御者の者は恐縮しているがそれは毎度の事なので気にならない。


「はぁ、まともに冒険者として見られる事はあるのかしら…。ランクが上がれば冒険者として見られるかしらね?」
「…クリス様、失礼を承知で申し上げます。どんな格好をしようと、クリス様はお貴族様です。」

モニカも遠慮なく発言出来るようになって来たようだ。
クリスはワザとらしく「えぇ!?」と驚いて、モニカとクスクス笑っている。

宿で同性同士で泊まったのは間違いなくいい方向に転がった様子だ。

ポールとアクセルも女性二人のやり取りを見て、顔を見合わせ楽しそうに笑っていた。


しばらく馬車に揺られる事1刻、目的地であるダンジョンへと到着した。

【木漏れ日と星屑のささやき】という何とも雅やかな名前が付けられている。
ダンジョン内で、所々壁から優しい光が落ちてきていて、幻想的な雰囲気を出している為付けられたらしい。

「さて、目的は万年筆ですが、急ぎではありませんし、ダンジョン踏破も目指しましょうか。それほど強い魔物は出ないとの事ですしね。」
「はい、クリス様。」

「あ、俺冒険者ギルドで地図買ったんで、マッピング不要ですよ。」
ポールが先頭に立ち、索敵と罠解除の役割をかって出た。

このダンジョンは13階層まであり、10階層を超えると流石にそこそこの強さの魔物が出るが、子爵様の下見は、3階層までしか見ていないという。

であれば、3階層迄に落ちているはずである。

さて、いざ出発!という時に、ダンジョンからいつぞやの裸踊りの少年達4人が出て来た。

「5階層からは結構危なかったなぁ…。結局、6階層手前で引き返したし。」
「お前が落とし穴にはまるからだろー。まったく…。ダンジョンに泊まる羽目になっちゃったし。」
「そういうテメーこそ…ふふ。トラップで壁から石が飛んできて顔面キャッチ!鼻血出してたくせに。」
「おいおい、笑い事じゃないぞ。あれが矢だったら、死んでたぞお前~。」

と、ダンジョンの中でもトラップにかかっていた様子だ。

「あら、ご機嫌よう。お久しぶりね。」

本気メイクのクリスが、扇子を閉じて四人の前に立ちはだかった!

「ひぃ!」
クリスを見て叫ぶ剣士の犬耳獣人。尻尾が内側に巻いて怯えている。

「クリスティーナ様御一行!」
何故か土下座する、魔法使いの格好をした魔族の少年。

「す、すみません!」
とりあえず謝るレンジャーのハーフフット(ショタ?)。

「今日は裸踊りしてません!」
咄嗟に股間を抑える槍を持ったの人族の少年。


クリスは首を傾げて、四人に問うた。

「ねぇ、貴方達?このダンジョンへは腕試しで訪れたのかしら?」
「は…はい。」
「万年筆は拾わなかったかしら?」
「え?何で分かったんですか?1階層の広場で拾ったんです。これ。」

そう言って、クリスに万年筆を見せる魔族の少年。

クリスはチラリとモニカとポールを横目で見る。
二人とも頷いているのを確認して、少年達へ改めて話しかけた。

「よかった。その万年筆、私たちの探し物でしたの。お譲り下さるかしら?」

有無を言わせない笑顔を向けられて、魔族の少年はブンブンと首を縦に振りながら、万年筆をクリスへ手渡す。

「良い子は好きよ。」

そう言って少年の頭を撫でる。

「いえいえ!この前助けてもらったお礼です!では!」
「じゃ、じゃあ俺たちはこの辺で!」
「さ、さようなら!また機会があれば!」

四人は、脱兎の如くクリスの前から走り去って行った。
しかし、今後もあの四人とは接点がありそうな気がしてならないクリスであった。

「労せず、依頼完了ですわね。運が良かったわぁ。」
「しかし危なかったですね。タイミング逃してたら絶対に見つからなかったですよ。」

モニカとポールは、いつも子爵様が持ち歩いていた万年筆と同じだと直ぐに気がついた。

「さて、時間も余りましたし、普通にダンジョンを踏破しましょうか。」
「ですね。」

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