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スウェントル王国編

15話 スライムまみれ…ですか。

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「このダンジョンは初心者向けなのですわね。5階層までしか無いとは。」
「僕らの様に、Fランク冒険者のダンジョン練習にうってつけらしいですよ。」

そう言って、クリス一行はスウェントル王国の初心者向けダンジョン【スライム達の宴】に来ていた。

その名の通り、このダンジョンにはスライムしか出てこず、軽い魔法が使えたら直ぐに最下層まで行くことのできるダンジョンだ。

「でも、簡単すぎませんこと?」
「はい。でも少しづつ慣れていくのも良いのではないかと思います。」
「あぁ、アクセルさんが立派になって。そうよ、何事にも慎重に!一番大切ですわ!」

そう言ってクリスはアクセルを抱きしめる。

「母上、恥ずかしいです…。」
「恥ずかしがってるアクセルさんも可愛いですわ~!」

クリスは今日も絶好調の様子だ。

モニカとポールは後ろについて、苦笑いをしている。

「あ、クリス様、アクセル様。宝箱ですよ。しかも4つもあります。」

ダンジョンの不思議だが、ランダムで宝箱が出てくる仕組みとなっており、冒険者がダンジョンに潜る理由の一つである。

一説にはダンジョンにも意思があり、宝箱などで人々を誘導する事で、なんらかのエネルギーを得ているのではないかと、憶測されている。

これも仕組みは解明されていないが、開ける人によって中身が異なるのだ。

「じゃあ、皆さんでいっせーので、で開けてみましょう。」
「はい!楽しみですね!」
「でもアクセル様、初心者向けダンジョンでは良いアイテムなんて出ませんよ。」
「やっぱり~?でもワクワクするじゃん。こういうのって。」
「ほら、行きますわよ。」

珍しくクリスが急かしている。
クリスも実際に宝箱を目の前にして、はしゃいでいるのだ。
何が出てくるかわからないところが、ワクワクする要因なのだろう。

「「「「いっせーのーで」」」」

全員が一斉に宝箱を開ける。

「ロープと蝋燭?」
「僕は…兎と猫のぬいぐるみ?」
「人参模様のクッションって…」
「俺は大き目の猫じゃらし模様のブランケット…。」

と、やはり碌なものが出なかったが、それでもはじめてのダンジョンを楽しく散策していた。

出てくるスライムは、発見次第瞬殺しているため、脅威でも何でも無い。
スライムは討伐部位も無く、ドロップ品も【スライムの涙】と呼ばれる小さな魔石で一般では『屑魔石』と呼ばれ、大した収入にはならない。

特に危険な事もなく、最下層まで到着した時に、女性の叫び声が聞こえて来た。

「あたいをこんな目に合わせるなんて!ちっきしょー!!」
「いやーん!ちょっと離れてよぉー!」

最下層の広場で、駆け出し冒険者の少女と思われるエルフの剣士とハーフフットの幼女(?)レンジャーが、大量のスライムに纏わり付かれている。

うねうね。コポコポ。

スライムの弱酸性粘液が少女二人の肌を潤しつつ、小鼠や小鳥などの小動物なら絞め殺せる勢いで纏わり付くも、人間には縄で締め付けられている程度にしかならない。

「こんな辱めを受けるだなんて!…くっ、殺せ!!」

控えめに見てスライムと戯れているようにしか見えないが、少女達には死活問題の様だ。
なお、直接的な表現をすると、スライム姦・触手プレイに近いものがある。

「…クリス様、どうしましょう?」
「助けを求められたら、助けましょうか。」

クリスの一言で一同は最下層の広場を素通りしようとしたら。

「えぇー!?ちょっと、これ見て素通りする?普通~!!」
「ちょっ、あんたら、助けてくれよ!助けてくれたら何でもするからさぁ!」

と、懇願されたクリス一行は、一瞬でスライムを蒸発させた。
エルフとハーフフットの幼女(?)は、ベトベトになった服を体に貼り付けている。
二人とも見事な絶壁で、アクセルもポールも冷静に対処していた。

「あたい達が手こずった、スライムの群れを一瞬で…だと…」
「ふえぇぇ、助かりましたぁ。ありがとうございますぅ!」

そして…。

「ん?」
「今、何でも」
「するって」
「言ったよね?」

上からクリス、アクセル、モニカ、ポールの順で発言をした。
謎の恐怖心を繰り立てた瞬間だった。

「「ひぃ!」」

エルフとハーフフットの二人は二人で抱きしめ合いながら、クリス達から目を離すことが出来ない。
むしろ、こんな美形の集団に何かされるのであれば『それはそれでアリかも?』と内心思ったりしていた。

「ふふ。冗談でしてよ。貴方達に何かさせるほど、困窮もしておりませんのよ。」
コロコロと楽しそうに笑うクリス。

「迂闊に何でもするって言っちゃダメだよ。悪い人が聞いたらどうなるか。次からは、自分の実力にあったダンジョンに挑みなよ。」
「…(ここ初心者向けダンジョンです、アクセル様!)」
天然で結構辛辣な事を言うアクセルに、内心突っ込むモニカ。

「ほら、風邪引くぞ。これやるから、体冷やすなよ。」
先程手に入れた猫じゃらし模様のブランケットを放り投げるポール。
処分に困っていたのだ。

その間にクリス達は既に最下層一番奥の部屋の帰還魔法陣に乗っていた。

エルフとハーフフットの少女は顔を赤くしてポールを見つめる。

「あ、ありがとう…ございます。」
「ま…またお礼、させて下さい。」

ポールは後ろ手に手を挙げ颯爽と去っていき、クリス一同は魔方陣で帰っていった。

「素敵な人達だったね…」
「何で、こんな初心者ダンジョンにいたんだろ…は、もしやこれは運命の出会い的な!?」

ダンジョンの最下層で運命を叫ぶ残念エルフ達。

一方その頃、ダンジョンから出たクリス一行はというと。

「スライムの粘液ってお肌に良いのかしら?」
「クリス様、やめておいた方が宜しいかと…。」

敢えてスライムまみれになってみようか考えるクリスと、それを嗜めるモニカの姿があったとか。
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