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スウェントル王国編

14話 大草原でティータイムですわよ

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「天気も良く、風も心地いい、草原の草花も朝露で光って絶好のお散歩日和ですわね。気持ちいいですわぁ。」
「母上、念の為言っておくと、今薬草採取中に魔物に襲われた直後ですからね?」

アクセル達の周りには、黒焦げになったマッドシープ達が横たわっている。

「あぁ…マッドシープの羊毛、黒焦げになっちゃってる。」
「素材が…。」

モニカとポールは遠い目でマッドシープの死骸から、素材が取れないか探していた。


事の経緯は、アクセル達が術式の稽古の傍ら、薬草採取依頼を受けた際にクリスも合流、「図書館でこもるのも肩がこりましたわ。」とクリスの冒険者デビューにもなった。

スウェントル草原のちょっと厄介な魔物の代表がマッドシープで、目から怪光線を出し、その光線を受けたものは混乱して全裸踊りをしてしまい、羞恥で立ち直れなくなるくらいの精神的ダメージを与える。

また、裸踊りをしている間に他の魔物に襲われたらたまったものではない。

マッドシープそのものは強く無く、毛皮が素材として常時取引されている為、見つけたら怪光線にさえ気を付けたらいいのだが、今回、薬草採取中に、運悪くマッドシープが現れた。

運が悪いのはマッドシープの方になるのだが、目から光線を出そうとした瞬間、クリスが扇子を一閃。
電撃がマッドシープを襲い、黒焦げになって絶命したのだった。

そして、冒頭に戻る。


「皆さんごめんなさいね。初めての冒険ではしゃいでいましたわ。次は毛皮を綺麗に残して倒しますわね。」
「母上、そういう事なんですが何かがずれててる事は僕でも分かります。」
「まぁ、ゆっくり薬草探しましょ。」

クリスは扇を片手に、どこからか持ち出した聖宝石が持ち手についた日傘をさして優雅に草原を歩いている。

「あーやっぱり、お散歩日和ですわ。こんなにゆっくり過ごしたの、いつぶりかしらね。」

そう、ゆったりとした雰囲気をまといつつ歩いていると、草原ハイエナがクリスを捕食せんと飛びかかってきた!
優雅な笑みを浮かべつつ、クリスは姿勢を崩す事なく、扇子で草原ハイエナを『ドカン!』と殴りつけた!
草原ハイエナを退治した!

「…クリス様、扇子で魔物を殴った時の音がおかしかった気が…」
「術式が凄いのは知ってたけど、物理もあたし達より強いかも…。」

モニカとポールは、クリスの扇子による物理攻撃を垣間見て、「俺たち、もっと強くならないと、足手まといだぞ」と、暇を見ては訓練に明け暮れようと決意し、こうしてモニカとポールも気がつかないうちに異常に強くなっていく事となる。

ポールは、マッドシープと草原ハイエナの討伐部位と使える素材を剥ぎ取り、覚えたての空間収納に入れる。

「ねぇ、アクセルさん、ちょっとお茶にしません事?」
「ここでですか?」
「えぇ、草花も綺麗で心地よいですし、テーブルと椅子なら四脚程度、すぐに準備しますわ…よっと。」

そう言って、クリスは白い丸テーブルと、四脚の背もたれのついた白いお洒落な椅子を、空間収納から取り出して、一瞬のうちに設置した。

「ほら、モニカさんとポールさんもお座りなさい。使用人とか今は関係なく、お茶の時間にいたしましょう。」

テーブルの上にはいつのまにかティーセットと、お茶菓子が置かれている。

お茶を入れるのは、モニカとポールが当番で入れている。
今日はモニカの番だった。

「このクッキー、森林国家『フェアリア』でしか取れない蜜胡桃が練られているのよ。お茶は、ダロム連邦のお茶の産地『ティーズ』から取り寄せたものですわ。暖かいうちにどうぞ。」

「母上、このクッキー、柔らかいですね。胡桃も凄い濃厚な味なのに、後味に残らない。お茶に凄く合います。」
「このお茶は、花の香りが素敵ですね。落ち着きます。」
「モニカさん、お茶を入れる腕、また上手になりましたわね。」
「ありがとうございます!」

草花咲き誇る草原の真ん中で優雅にお茶をしているクリス一行。

そんな中、若い少年四人組の駆け出し冒険者が、同じく薬草採取で草原に訪れていた。

「なぁ…」
「何も言うな。言わずとも分かる。」
「ここ、魔物はびこる草原だよな?なんで優雅にサロン開いてるんだ?しかもクッキー美味そうだし!」
「おい、聞こえるぞ。あの方々は俺らと同じFランク冒険者のクリスティーナ様御一行だ。」
「え、同じFランクなのに、なんで俺らはこんなぼろぼろ装備で、あっちはキラキラなんだよ?」
「見たら分かるだろ、あんな綺麗な方々にこんなボロ装備着せれるか?」
「…無理だ。」
「俺らは俺らの出来ることをやるぞ…。」

そう言って、薬草を探そうと一歩踏み出した時、四人の少年冒険者の背後からマッドシープが目から光線を出した。

「「「「えぇ!?」」」」

普段なら避ける事も出来るが、クリスティーナサロンを覗いて非日常を垣間見た為、油断してしまっていた。

四人の少年冒険者達は、混乱して全裸踊りを始める。
厄介なのは、踊っている時も記憶が残るところだ。


「アクセル様、視界の隅で、男が四人全裸で踊っているのですが、放置しますか?」
「一応、助けてあげようか。」
「おほほ、むさ苦しいマッチョじゃないだけ、笑い話で済ませれるものですわね。」
「…(ポールのって、標準よりも少し大きめなのかしら?)」
「おい、モニカ!お前は見るな!後クリス様もダメです!穢れてしまいます!」

そう言って、アクセルとポールは全裸の四人に近寄り、アクセルが状態異常回復の術式を展開。

ポールは丁寧に、彼らの装備をまとめて置いてあげた。
その後、影移動でマッドシープの背後に回り、チョークスリーパーの要領で首の骨を折る。
毛皮も汚さずに回収できて、ポールは満足げだ。


「すみません…助かりました…。」
(恥ずかしい…あの綺麗な女性に全裸見られた…)
(この子供、状態異常回復魔法を一瞬で使った?何者?…そんな事より裸踊りしちまった!)

正気に戻った少年達は羞恥による絶望で、四つん這いになり項垂れている。

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。それに、僕たち以外は見ていませんし、気にしなくても良いかと。怪我もしてませんしね。」

「うふふ、誰にでも失敗はあるから、次に活かせたらいいのではなくて?」
日傘を差しながら扇で口を隠しつつ、少年四人組に近づくクリス。

「それに、お子様の裸を見ても、何とも思わないから安心なさいませ。」

少年冒険者達にトドメを刺した瞬間だった。

固まる少年四人組。静かに涙を流して、お互いを慰めあっている。

彼らを背後に、クリス一行はお散歩を続けつつ、薬草採取をするのであった。


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次回も大冒険しますわよ。
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