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スウェントル王国編

13話 やらかしてますわぁ…

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クリスはこの一週間、スウェントル王国王立図書館に引きこもっていた。

この世界の事を中心に、気になった書物を片っ端から読んでいったのだ。

その中で、特に気になったのが魔法学の書物である。

「…私達の世界、結構関わっているのね。興味深いわ。」

その書物には、この世界に魔法学の基礎を築いたのは、200年程前に建国された魔導国家『ヴェリス』の始祖であるとされている。
その『ヴェリス』の始祖の名は『スカーレット=エイルーク』と言う、女性魔法使いであったと記述がある。

「エイルーク家…同盟国『ヴェリス帝国』保守派筆頭侯爵家の名称と国名が同一なのは…偶然では無いわよね。絶対、エイルーク家の祖先の誰か、迷い込んでやらかしましたわね…。保守派が改革起こしてるって、中々面白い冗談ね。」

直近でスカーレット=エイルークと言う女性が行方不明になったという話も聞かないし、文化レベルは同程度なのに、この世界の魔法が元の世界の100年程遅れているのを鑑みると、エイルーク家の祖先の誰かがこの世界に迷い込んだ時に広まった魔法が、そのまま定着してあまり発展しなかったと見て間違いないだろう。

他にも、スウェントル王国の戦争史をのぞいてみると、クリスは溜息を吐かずには居れなかった。

「スウェントル王国大敗の歴史。王国歴373年、獣人国家『ダロム連邦国』との5年間に渡る戦争に終止符を打ったのは、ダロム連邦に突如として現れた英雄『ガノン=ゼファー』が今までこの世界には無かった新兵器「マンゴネル」や「バリスタ」を発明。攻城兵器として猛威を振るい、スウェントル王国は大敗を期した…。ゼファー家…ね。…まったく…うちの国の辺境伯家じゃない。」

クリスの国『ロズヴィオラ王国』の辺境伯、国の守護者と言われている『ゼファー家』である。
ゼファー家は代々獅子獣人が当主となっており、ロズヴィオラ王国の守護獣のモチーフにもなっている、大貴族だ。
『ガノン=ゼファー』は、150年程前、ゼファー家の長男として生まれ跡取りと決まっていたにも関わらず、謎の失踪をしたとされ、その出来事はゼファー家の災難と言われている。

「…ゼファー家の嫡男まで誘拐してんじゃ無いわよ、影響でかすぎですわよ。しかし、いやねぇ、私達の世界の転移者、やらかしまくってるじゃ無いの。」

言語や文字が一緒だったり、奴隷の取り扱いや法律にも類似性が見られるのは、同じようにクリスの世界から転移してきたものが影響している可能性も十分あり得る事態に、クリスは無意味に頭が痛くなる。

先程のスカーレットやガノンの様に影響が出ていないだけで、実は一般市民などもこの世界に突如迷い込んだ者が恐らく居るであろう事は想像に固く無い。

「でも、パッと見ただけで、こちらの世界の影響がこれだけ出ているのに、その私達の世界…異世界に関する情報が一切見つからないのは、何か隠したい事でもあるのかしら?ガノンもスカーレットも、この世界で子孫を残して往生したみたいですし。何かほのめかしたり、誰かに話していてもおかしくは無いと思うのですが、怪しいですわね。それに、通り道があるのですから、間違いなく帰り道もあるはずなのですが…」

まぁ、考えても仕方ないですわね。と、次は周辺国家とその関係性について調べる。


『スウェントル王国』は、内陸部にある大国で、肥沃な大地と森林に囲まれた恵まれた国だ。
酪農と農業が盛んで、世界的に見ても人種のるつぼと呼ばれるほどに、様々な人種が住んでいる。
また、別名『ダンジョン国家』ともいわれ、あちこちに大小様々なダンジョンがあり、冒険者が一攫千金を目指してやってくる国でもあった。


南には、獣人族が主の『ダロム連邦国家』で、150年程前にスウェントル王国に勝利を収めてからは、友好国として同盟を結んでいる。

元々が地方貴族同士の婚約破棄が原因での小競り合いから発展した戦争だった為、禍根を残さない為にも、原因となったスウェントル王国の地方貴族の首だけで済ませ、ダロム連邦の懐の広さを見せつけた結果であった。

ダロム連邦は、更に南に熱帯雨林と広大な海があり、農業と漁業が盛んで、男女共にエルフと同様に美しいとされる人魚族も多数住んでいるとのこと。
小さな島々も連邦に加入しており、都市国家の集まりにて地方分権が認められている。


東には、人族と鬼人族が大半を占め、独特の文化を築いている『ヤポン皇国』がある。
自国の文化を大切にしており、独特の武芸や、魔法…妖術に近いものを使い、食文化も菜食が主であると記載がある。森林国家『フェアリア』と同盟を結んでいるとの事。


西には鉱山都市『マルカ』があり、ドワーフ族とノーム族が主に住んでいる。
鉄鉱石の産出地となっており、鍛冶産業が盛んで、小人族や人族の商人も多く住み着いているようだ。
山の奥地にはビッグフット(巨人族)もおり、ドワーフと協力関係を築いていると記載されている。


北西には魔導国家『ヴェリス』、北東には森林国家『フェアリア』が隣接している。

魔導国家『ヴェリス』は、まさしく魔法第一主義にて、人族、魔族が魔法の研究に従事し、マルカと共同で魔道具の製作なども盛んに行われている様子だ。

森林国家『フェアリア』は、狩と酪農を主とした国で、森の民エルフと、狩が得意なハーフフット(小人族)が主に住んでいる。
閉鎖的な国で、同盟国のヤポン皇国以外は交流は少ないが、工芸品などは非常に繊細で高値で取引されているとの事だ。


300年程前に、ヴェリスよりも更に北に、宗教国家『アルヴィジョ聖国』があったが、一神教による過激な宗教理論と、人族至上主義による無差別テロにも近い非人道的で愚劣な奇襲による戦争を繰り返し、一時は領土を広げたが、多種族やその考え方に賛同できない多数の人間が一斉に反撃の上、最終的には滅びた国家が存在していたと記載がある。

アルヴィジョ聖国の跡地は戒めの意味も込め放置されたが、年月により遺跡がダンジョン化し、冒険者達の腕試しの場かつ、観光地となっているようだ。


今、このスウェントル王国周辺は大きな争いも無く、種族による差別も殆ど無く国家間も比較的友好的に過ごしているようだ。


「大小様々なダンジョン探索、近隣諸国の情勢視察…もとい観光。やりたい事はたくさんありますわね。」

そう、小さく呟いて、手にしていた本を棚に戻し、王立図書館を後にした。


図書館司書は後にこう語る。

「すっごい綺麗な明らかに高貴な身分なのに、庶民の服着て地味な振りをしようとしていたお貴族様が、凄い勢いで本を見ていたんだ。読む速度が尋常じゃ無くて、でも、目はきっちりと文章を追っている様子でさ…あれ、実在する人間だったのかなって。気がついたら机の上に積まれていた大量の本が、瞬きした一瞬で本棚に戻っていたんだ。俺、見てはいけないものを見てしまったのかも知れない…。」

と、無意味に恐怖を植え付けられた被害者がここに。

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説明臭くなってしまいました。
次回からは冒険…出来たら良いなぁ。
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