宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

文字の大きさ
上 下
10 / 84
スウェントル王国編

10話 冒険者になりますわよ!

しおりを挟む
「さて、皆さん、行きますわよ!!」
「「「ハイ!!」」」

  何をそんなに気合を入れているのかというと、今から冒険者ギルドへと、冒険者登録をしに行くのである。昨日買ったフル装備にて、準備もバッチリだ。

「そうそう、確か、冒険者ギルドへと登録する時は、洗礼の儀があるのですって?」

  突如よく分からないことを言い出すクリス。

「え?俺、この国は、受付時に、血を一滴垂らして、自分専用のカードを発行させていただくだけだと、聞いたことがありますよ?」
「ハイ。あたしも、その様に聞いてます。だからそんな物騒な儀式は無いかと…」

  クリスは手にしていた扇子を口に当て、
「いえいえ、ほんの冗談なんですよ。でも、冒険者ギルドに初めて登録する時は、必ず先輩冒険者が絡んで来るのがテンプレートだとか。そして、その新人冒険者が先輩冒険者を軽くあしらって、ギルドの方々に驚かれる。迄が一連の様式美らしいですわよ。おほほ。」
  と軽く笑い流した。

「あ、母上。僕も元の世界でその様な物語を読んだことがあります!」
「あの、クリス様、確かにこの世界の物語でも使い古されたパターンではありますが、実際のところそんなものは起きないと思いますよ。」
「でも、クリス様やアクセル様に、喧嘩を吹っかけて来る勇者がいたら、逆に可哀想ですよね」

  楽しげに話しをしながら、モニカとポールが冒険者ギルドの扉を左右から開き、クリスとアクセルが入り口に立った瞬間、ギルド内にいた冒険者達が『ポカン』とした表情でクリス一行を眺めていた。

  そのままクリスを先頭に、受付へと足を進める。

  冒険者ギルドは、食堂や酒場も併設しており、非常に広く、さまざまな人種の冒険者が昼間から酒を飲んでいたり、情報交換をしたり、依頼用掲示板の前でたむろしていたりと常に賑やかな場所だ。

  しかし今、ギルド内に漂う空気は、謎の緊張感。

  冒険者達は、「大口の依頼か?」「繋がり持って、専属冒険者になれたら…」などと小声で囁きあっている。どこかの貴族が依頼をしに来たと勘違いしているのだ。

  クリスとアクセルは商業ギルドでも似たような空気になってたなと、デジャビュを感じていた。

  冒険者同士の牽制をよそに、受付に着いたクリスと、対面する受付嬢。受付嬢は、歴戦の猛者なのか、クリスやアクセルの美貌に狼狽えることなく、クリスに問いかけた。

「本日はどの様なご用件でしょうか?ご依頼ですか?ご指名でしょうか?」
「依頼では無くてよ。私達、4人は冒険者登録をしに来ましたの。」

  耳を澄ませていたギルド内の冒険者が声を揃えて「「「「は?」」」」と言った瞬間だ。

「…冒険者登録でございますね。スウェントル王国での冒険者登録となりますと、各人銀貨1枚が登録手数料として必要になります。」
「はい。こちらに。」
「冒険者登録やギルドの仕組みの説明はご入用でしょうか?」
「お願いしますわ。」
「では、ご説明させていただきますので、こちらの客席へどうぞ。4名様、客席へご案内いたします。」

  通常、冒険者ギルドの登録は、受付カウンターで実施するのだが、ギルド内の空気がクリス達四人に飲まれて、異様な雰囲気を醸し出しており、このままだと業務に支障が出ると判断した受付嬢は機転を利かして客室へと誘導した。

  所謂、ギルド内の人間の目から隔離したのだった。受付嬢が4人を部屋へと案内した瞬間、ギルド内はざわざわと落ち着きが無くなった。

  ヤベェオーラ出てたぞ?戦えるのか?でも後ろの獣人2人も雰囲気あったよな。あの美少年とお知り合いになりたい!冒険のお手伝いって事で、仲良くしとく?

  などなど…

  客室へ行ったクリス達の事で持ちきりになっている。しかも、なぜ客室へ行ったのか?という疑問はなく、客室で受付するのが当然でしょ、と言わんばかりの空気だ。

  客室では、クリスとアクセルが椅子に座り、モニカとポールは後ろに並んで立っている。

「モニカさん達もお座りなさったら?」
「いえ、あたし達は、あくまでもクリス様達の使用人兼、奴隷です。こういう場では立場を明確にしておく必要がございます。」
「ふふ、真面目ね。そこまで気にされなくても良いのだけど。でも、お気遣いありがとう。」

  そうこうしているうちに、受付嬢がお茶を持ってきた。
  4人分あるが、モニカとポールは、あくまでも使用人然として、手をつけようとしない。

「はじめまして、私、スウェントル冒険者支部で受付をしております、ナタリーと申します。」

  クリス一行も各々名乗り、また客室へ招いていただいた事にお礼をいう。

「いえ、クリス様一行は雰囲気がありますので、あのまま受付をすると、皆がクリス様達に注目してギルドの機能が停止してしまっていましたので。」
「あらあら、まぁまぁ。なんだか迷惑かけたみたいでごめんなさいね?」
「いえ、クリス様一行が悪い訳では無いので、気にされずにお願いします。さて、冒険者ギルドの登録ですね。ご説明させていただきます。」

  これまでも、貴族相手に冒険者登録をした事があるらしいが、ギルド内があのような空気になったのは初めてであったとのこと。

  受付嬢のナタリーは、有り体に言うと仕事の出来る女性だった。柔らかい色の茶髪に短めのポニーテール、メガネをかけて生真面目そうだが綺麗な顔立ちをしている。冒険者に言い寄られているのだろうなと、ポールやモニカは何と無くではあるがそう感じた。

  それはさておき、ナタリーから聞いた冒険者ギルドの決まりはざっくり言うと以下の通りとなる。

  冒険者ランクがあり、新人冒険者はFからスタート。
  依頼の数をこなし、完了報告の際に指定のポイントがカードに入る。
  依頼はギルド内の掲示板や、指名依頼などであればギルドからお願いする事もある。
  一定のポイントが貯まれば、冒険者のランクアップ試験に参加でき、合格者が上のランクに上がる事が出来る。
  試験は毎月10日、20日、30日の三回、受けることが可能。
  依頼の失敗があれば、基本ペナルティとして、ポイントのマイナスと状況によってはランクダウンもあり得る。
  内容によっては罰金もあり得るとのこと。
  最大ランクはSランク。スウェントル王国では10名しかいない。
  国家より英雄扱いされるなどの特別受勲が有ればSSランクもあるが現在は一人も居ない。
  冒険者同士の争いにギルドは介入は基本的にはしない。
  冒険者の素行に問題がある場合、ギルドカード剥奪などもある。
  国からの指定依頼はAランクからとなっている。

  などなど説明を受け、クリス一行のギルドカード発行となった。

ーーーーーーーーーーー

またも説明回。
次回に続きます。
誤字脱字があれば、感想欄へお願いします。
お付き合い頂きありがとうございます。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

俺の番が見つからない

Heath
恋愛
先の皇帝時代に帝国領土は10倍にも膨れ上がった。その次代の皇帝となるべく皇太子には「第一皇太子」という余計な肩書きがついている。その理由は番がいないものは皇帝になれないからであった。 第一皇太子に番は現れるのか?見つけられるのか? 一方、長年継母である侯爵夫人と令嬢に虐げられている庶子ソフィは先皇帝の後宮に送られることになった。悲しむソフィの荷物の中に、こっそり黒い毛玉がついてきていた。 毛玉はソフィを幸せに導きたい!(仔猫に意志はほとんどありませんっ) 皇太子も王太子も冒険者もちょっとチャラい前皇帝も無口な魔王もご出演なさいます。 CPは固定ながらも複数・なんでもあり(異種・BL)も出てしまいます。ご注意ください。 ざまぁ&ハッピーエンドを目指して、このお話は終われるのか? 2021/01/15 次のエピソード執筆中です(^_^;) 20話を超えそうですが、1月中にはうpしたいです。 お付き合い頂けると幸いです💓 エブリスタ同時公開中٩(๑´0`๑)۶

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...