宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

文字の大きさ
上 下
7 / 84
スウェントル王国編

7話 にょきにょき…ですわ。

しおりを挟む
  クリスとアクセルが、モニカとポールを購入した。提示した金額は確かに適正だったが、もう少し値切られる事も覚悟はしていた。
  だが、あれ以上交渉する事なく、即金で金貨を出してきた事に、只者では無いとマークスは感じた。

  マークスは契約魔法を行使して、クリスとアクセルを二人の主人と設定し、見送った後、人知れずため息を吐いた。

「見たことがないお方達だったが、どこの国のお貴族様だ?欠損のある奴隷を購入するなんて、酔狂も良いとこだが…契約魔法があるとはいえ、モニカとポールに幸多からん事を祈る…。」

  マークスは、若くして手足を失った獣人の若者たちに、嘘ではなく本当に情が出ていたのを自覚している。
  今後売れなかった場合は、この奴隷商の裏方として雇おうかとも考えていたくらいだった。

  ただならぬ雰囲気を持った母子の元に雇われていった二人の無事を、一人祈るマークスであった。

**************

  モニカとポールを購入したクリス達は一旦宿の自分の部屋へと戻った。

  ポールは杖で体を支えながら歩くことは出来るが、モニカがポールを献身的に支えつつ、クリス達もそれを手伝おうとしたが、ご主人様達に負担をかけることは出来ないと、断りを入れ、ゆっくりした足取りではあるが宿の部屋に戻ったのだった。

  実際は、以前に勤めていた貴族の雇い主よりも、より高貴な身分に見える二人に恐縮し、『うわぁ、とんでもない方々に購入されたなぁ…』と内心怯えまくっている二人であるが、恋人と一緒に購入してくれた事に感謝の念を感じている事も確かにある。

  あえて欠損のある自分達を購入した理由もこれから説明をされるのだろう、とモニカとポールは覚悟を決めた表情でクリスを見る。

「さて、モニカさん、ポールさん。これからよろしくお願いしますね。」
「「はい、ご主人様。」」
「そんなに固くならなくても良いわ。言葉遣いも、普段通りでいいからね。」
「僕の事もアクセルって呼んでね。これから一緒に過ごす仲間として、扱わせてもらうよ。今まで辛い事もあったと思うけど、それも無くなるから、安心してね。」

  クリスとアクセルの、神々しいまでに慈愛に満ちた笑顔に当てられ、モニカとポールは無意識に涙ぐんでいた。

「クリス様、アクセル様、今後ともよろしくお願いします。あたし達の様に、使いにくい奴隷を購入いただいた事、感謝します。」
「しかし、なぜ俺たちをお選び頂けたのですか?」

  契約魔法の影響か、普段通りでいいと言った事で、一人称がだいぶ砕けた感じになっているが、クリス達は全く気にしない。

  そして当然の疑問にアクセルが回答する。

「モニカさんとポールさんの、失った手足を生やす事が出来るからだよ。」
「「え!?」」
「本当ですわ。だから、人目のつかない宿の部屋でお話しをしているのですよ。」

  クリスの世界では、治癒の術式が発展しており、宰相であるクリスの夫と共にクリス自身も国内有数の治癒術と結界術の使い手であった。
  他の術式も不得手はなく、特に秀でているのが治癒術、結界術にて、攻撃系の術式も聖宝石を媒体として、非常に強力な術を行使する事が出来る。
  もちろん、息子達も英才教育を受けており、アクセルは剣術を嗜んでいる事から身体強化術式と、武器に属性を付与する付与術式を得意としている。

閑話休題。

  この世界では治癒術というのはなく、回復魔法というのが使われている。しかし、失った手足を復元出来るほどの回復魔法の使い手は、スウェントル王国にはいないとされている。
  世界を探しても一握りと言われており、教会が囲っているため莫大な献金が必要になると言われているのだ。

  クリスの世界でも欠損を元に戻す治癒術師は数は少ない為、奴隷商のいる前で手足を生やすと問題になると言う事は理解できていた。

「さて、じゃあポールさん。」
「は、はい!」
「あなたの、足を治します。違和感が凄いから、ベッドで横になってくださる?」
「いえ、俺なんかがご主人様方の寝具を使う訳にはいかないので、床で大丈夫です。」
「ふふ、本当、よく出来た子ね。貴方達にして良かったわ。」

  ポールはそのまま床に横になった時、クリスがどこからともなく、空中にダイヤモンドの聖宝石を6つ、クリスの周りに浮かべてポールを慈愛の笑みで見つめていた。

  おろしている長い金色の髪が揺らめき、静謐な雰囲気を醸し出して、浮いているダイヤモンドの煌めきが神々しさを演出している。

  さながら女神の様な姿であった。

  クリスがポールの失われた脚の部分に手を当てて軽く人撫ですると、まさしく脚が『生えて来た』のだった。
その様子を目の当たりににし、モニカとポールは驚きを持って迎え入れた。

「お、俺の脚が生えてきた?」
  そう言って、ポールは自分の足でゆっくりと立ち上がる。

「あ、歩ける。歩けるよ、モニカ。俺、脚が治ったよ…。」
「ポール…あぁ、なんて奇跡なの…。」

  二人とも、大粒の涙を流して喜んでるが、あえて空気を読まずに
「次はモニカさんですわ。」
  と、モニカを無理やり床に寝かせて、同じように腕を『生やした』のだった。

「ポール!私の腕、動くわ!」
「モニカ!」

  二人は抱きしめあい、これ以上の幸福は無いとばかり喜んだ後、クリス親子に向かって土下座をし出した。

「俺たちの体を元に戻していただき、なんとお礼を言ったら良いのかわかりません。」
「あたし達は、クリス様とアクセル様親子に、永遠の忠誠を誓います。どれだけ感謝しても足りません。」

  モニカとポールは、お互いの手足が無くなっている事に対して、魔物に襲われた時にお互いがお互いを守り切れなかった事の後悔と、これから別々の主人に買われるかもしれないという、別離の不安をずっと感じて、将来の不安と恐怖に心が折れそうになっていた。

  奴隷商のマークスは良くしてくれたが、やはり不安しかなかった所に、恋人同士購入してくれた高貴な身分の親子。

  それだけでも幸運だったのに、欠損を治すという奇跡を起こした自分達のご主人様へ、永遠の忠誠を持って感謝をする、と二人は心より誓ったのだった。

「あらあら、まぁまぁ、大げさね。これから一緒に過ごすのだから、私に出来ることは当然させて頂きますわよ。」

  そう言って、二人の肩に手を置き、これから色々と宜しくお願いしますわね、とひと笑み。こうして、クリス親子の絶対的忠誠者がこの世界で生まれたのだった。

(やっぱ、母上はすごいなぁ。契約だけじゃなく、心から裏切らない忠臣を転移二日目で手に入れたよ。僕もこんな風になれるかな。)

  アクセルは、自分の母親への尊敬の念を改めて強めたのであった。





ーーーーーーーーーーーーー

メインキャラが揃ったので、彼女達の見た目をここで紹介させて下さい。
文章中でなるべく表現したかったのですが、まとめようと思います。

クリスティーナ=ロゼルナ
年齢不詳
髪色:透き通るような金髪で腰まであるストレートロング。
基本結い上げているが気分でおろしたりもしている。
瞳の色:碧眼
身長:168センチ

アクセル=ロゼルナ
13歳
髪色:クリスと同じ色。刈り上げ騎士スタイル。風が吹くとなびく程度にはある。
瞳の色:碧眼
身長:153センチ

モニカ
17歳
髪色:薄桃色 三つ編みロング。うさ耳
瞳の色:薄紫
身長:155センチ

ポール
16歳、
髪色:白色 ショートウルフ。猫耳
瞳の色:左目→深青  右目→深緑
身長:163センチ

クリス以外、みんなおチビちゃんでした。
アクセルはこれから成長期のはず…
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari@七柚カリン
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...