宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

森樹

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スウェントル王国編

5話 荒くれ者は殲滅しますわ。

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「さて、今後の事を話し合いましょうか。」
「そうですね。」

  クリス達は、宿の部屋でくつろいでいた。
  元の世界でも馬車の中で一晩過ごしたり、旅籠で雑魚寝を経験したこともあり、一般的な宿で過ごすのに抵抗は無い。

「まず、当面の資金は何とかなりましたね。」
「えぇ。いざとなれば、他の只の宝石やあまり使っていないネックレスを売ったら、数年は何もしなくても良い金額にはなりますわね。贅沢をせず清貧静謐な生活をすれば、ですが。アクセルさん、大丈夫ですか?」
「はい。これでも、父上と母上の子ですから。」

  お金に関する心配が無くなったが、今後の問題点として、この世界の常識や元の世界との相違点と類似点を把握したいのが本音だ。

「この街の東の方に、王立図書館がありますので、しばらく図書館通いでも僕は問題ありませんよ。」
「それは勿論やりましょう。しかし、誰か、私たちの事情を正確に把握、頭は悪くなく、直接組織に所属していなくて、最低限の道徳観をお持ちで、世話を焼いてくれそうな方を見繕って、色々と教えて頂きたいですわ。」
「そんな好条件な方、そうそういないでしょう。ベイン様やギャラガ様は商人ギルドの方ですし、キャシーさんは頭の方が…その…」
「えぇ、言いたいことは分かります。やっぱり見つけるのは大変ですわね。」

  二人は都合の良い人材については焦らず、まずは図書館で色々と調べようという事に落ち着いた。
  その後、服を買いに行きましょう、武器を見に行きたいです、美味しいご飯のお店はあるかしら、冒険者ギルドの登録を忘れてはいないですか、等々と話を進め、明日以降の大まかな予定を立てたのであった。

  まずは、今日は休み、明日は市井の人間と変わりない服の準備と冒険者ギルド登録、余裕があれば図書館へ行くことになった。

「…母上、地図を見ていると、奴隷商と思われるものが存在しておりますが、ロゼルナ家でも使用人や傭兵で少なくはない奴隷を雇っていましたよね。まともにお給金を渡し、衣食住を整えるだけで恩を感じて、普通に雇うより効率的に働いてくれていた印象があります。」

  クリス達の元の世界にも奴隷という身分があった。
  奴隷術で契約をし、命に別状の無いことであれば従順になるが、クリスの国の法律では奴隷も人として扱うようにされており、暴力や同意のない性行為には罰則が適用され、それらについては奴隷の反撃も可能にしていた。

  しかし、犯罪奴隷については、文官立ち会いのもと、暴力や同意のない性行為にも従順になる奴隷術を施すことを許可しているなど、罰則として出回っている犯罪奴隷は、一部の人間に非常に人気だったりもする。

  クリス達ロゼルナ家は、貧困奴隷しか雇っておらず、手厚く教育と生活のフォローもしていた為、アクセルの言う通り忠誠心が高いため、奴隷に対して嫌悪感や見下す様な心根は持ち合わせていない。

「あぁ、奴隷…ですか。私たちの事情に巻き込んでも問題は起きにくい上に、この世界の常識を人の口からしっかり説明を聞け、私たちが何かしでかした時のフォローも出来ますわね。まとまったお金があるから何とかなりそうですし。でも、うーん、奴隷を購入をすると色々と便利だけど、せっかくのアクセルさんとの二人旅が…。」

  クリスは多少不満があるようだが、より自分達が安全にこの世界で過ごせるようにする為、明日はまずは奴隷商に行って、希望に合いそうな人がいれば購入も視野に入れることとした。

  明日以降の予定が決まった事で、夕食の後をいただく事にした。
  キャサリンの宿屋の食事は確かに美味く、普段の食べているものと比べ質素ではあるが、充分満足できるものだった様だ。

  また、衛生面では、この宿の近くには大衆用の大浴場がある。
  勿論男湯と女湯に別れているのだが、食後にクリスとアクセルが立ち寄った時に、同性にもかかわらず非常に視線を集めたが、二人とも堂々とした態度で体を温めたのだった。
  特にアクセルに至っては、中性的な美少年という事もあり、下品な視線も感じてはいたが、纏っている雰囲気より手を出してくる様な者は居なかった。

  浴場の後、宿に戻る最中、二人は後をつけてくる複数人の気配を感じては居たが、大した事の無いものだった為、素無視をしたが、進行方向の前に回り込まれ、唐突に声をかけられた。
  三人の体格は良いが決して容姿は良いとは言えない、有り体に言うとならず者であった。

「へ…へへ。そこの綺麗な姉ちゃんと僕ちゃんよ、俺たちと一緒に遊ぼうぜぇ。」
「俺、こんな綺麗な姉ちゃん見たことねぇ。さっらさらの金髪じゃん。」
「こんだけ綺麗なガキだったら、男でもいけるぜ。浴場で一目見た時からヤバかったんだよ、こいつの身体。男のガキのくせに妙な色気出しやがって。」

  下卑た笑いを浮かべ近寄ってくる三人だが、クリスもアクセルも無表情で三人を見つめていた。
  それはそれは綺麗な顔が無表情になるだけで、何か恐怖心を煽るものだが、さらに二人から得体の知れない雰囲気を感じ、荒くれ者三人は、下品な会話をピタッと辞め、本能で危機を感じ取った。

  しかし、女・子供に恐怖心を煽られたのが男達のプライドを刺激したらしく、結果、往来で襲いかかる暴挙に出たのだった。

「舐めてんじゃねえぞこの女!」
「攫った後にぶち犯してやらぁ!」
「このガキ、テメーの○○○を見た時からトキメキがとまらねぇんだよぉぉ!」

  一部、より一層危険な発言があったが、三人が飛びかかった瞬間、『バチッ!!』と音がしたと思ったら男達三人は、身体中から煙を上げて、地面に横たわっていた。

「母上、僕、コイツ蹴飛ばしたいのですが良いですか?」
「ダメよ。アクセルさんが汚れてしまいます。既に瀕死の状態ですわ。死にはしないけど、三日は動けないと思いますし捨て置きなさい。」
「…久しぶりに殺意を覚えました。」

  今、何が起きたかというと、クリスが自分たちの周囲に電撃結界を展開していたのだ。
  ならず者達は見えない結界に突っ込み、雷に打たれた様な衝撃に襲われて一瞬で全滅したのだった。

「さて、宿に戻りましょう。」
「はい、母上。疲れたので横になりたいです。」

  荒くれ者達は最初から居なかったかのように立ち去っていくクリス達。公爵家一家は、元の世界で戦力としても実はかなりの実力者だったのだ。
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