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スウェントル王国編

2話 やっぱり異世界転移でしたわ

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「ごきげんよう。」
「!!は…はい!お越しいただき、ありがとうございます!ギルドマスターは不在にしておりますが?アポを取られておりましたでしょうか?」

  クリスとアクセルは、街の人間に話を聞き(話しかけられた人は萎縮してしまっていたが)物品を売るにはどこがいいか聞いたところ、商業ギルドに案内してもらった。

  そのまま商業ギルド内へと足を運び、ギルド内の職員が二人の存在を確認しただけで、ザワザワしていた建物内が突如静寂を持って、二人を迎えいれたのだ。

  その静寂は、どう見ても上位貴族にしか見えない美しい顔立ちの二人が、商業ギルドという貴族が直接は足を運ばないところに現れた為であり、何かの監査か、それとも大口の商談かと勝手に勘違いをしたためである。

  クリスとアクセルは、貴族と勘違いされている事に気がついているが(正確な意味では貴族だが、こちらの世界で貴族であると証明ができないため)、勘違いされていても特に問題は無いと判断し、そのまま受付へと進んでの冒頭の会話である。


「あら、ギルドマスターとお話しなんて、特にありませんわよ。」
「え…で、では本日は何かご依頼で?」
「依頼という程でも無いのですが、この商業ギルドでは、物品の買取は実施しているのかしら?」
「は、はい。それはもちろんです。鑑定士も常駐しているので、街の道具屋よりも安定した買取をさせて頂いています。」

  クリスとアクセルは軽く頷きあい、街の道具屋よりも、ギルドという街の商業の中心部が一番安心して買取の話ができると判断した。

「では、買取をお願いしたいの。どの様な手続きをすれば宜しいかしら?」
「で、で、では個室を準備致しますので、付いてきてくだヒャい!」

  クリスが微笑みながらギルド職員に聴くと、ギルド職位は顔を赤くしながら慌てた様子で、クリス達を立派な客室へと誘導した。
  そのまま職員がお茶の準備をし、二人で座って待っている状態となった。

「あら、随分と待遇が良いわねぇ」
「母上、お人が悪い。あちらが勝手に勘違いをする様な行動や表情をしていらしたでしょう?」
「おほほほ。なんのことかしら?」

  お茶を飲み、ソファに座った事で、幾らかの緊張感は溶けた様子で二人は鑑定の担当者を待つ事数分。
  モノクルをつけた、いかにもな鑑定士と思われる初老の男性と、目眼をかけた穏やかな表情を浮かべた30台半ばくらいの男性が客室に入ってきた。

  眼鏡の男性から自己紹介が始まる。

「どうも、はじめまして。私、スウェントル王国商業ギルドのサブマスターである、ベインと申します。」
「儂は、商業ギルド専属鑑定士のギャラガと申します。よろしくお願いしますじゃ。」

  予想以上に低姿勢かつ、現在ギルドに滞在している最高責任者まで出てきた事に、クリスは内心ほくそ笑みながらも、穏やかな笑みを浮かべつつ返答をする。

  スウェントル王国という国等聞いたことがないな、と母子ともに思い、間違いなく異世界へと転移していると確信が取れた瞬間でもあった。

  驚愕してもいいはずなのだが、既に二人とも別世界だと感じていたため、それが確信に変わっただけであった為、驚きを表情に出さず見事にポーカーフェイスを貫いている。
  アクセルもまだ13歳にもかかわらず、貴族としての精神を身につけている様で、クリスは内心愛しい次男の成長を垣間見て、重ねて喜びを噛み締めてもいた。

「はじめまして。私はクリスティーナと申します。クリス、と気軽に呼んで頂いて結構ですわ。」
「僕は、クリスティーナの息子に当たる、アクセルと申します。よろしくお願いします。」

  サブマスターのベインが、クリスとアクセルが姉弟ではなく母子であった事に驚き、ギャラガ爺さんも目からモノクルが落ちそうになっていた。

「親子、だったのですか。クリス様が非常にお若いので、勝手に姉弟と勘違いしておりました。申し訳ありません。」
「うふふ。賛辞の言葉と受け取っておきますわ。ありがとうございます。」
「いえいえ、さて、商品の買取希望と伺っておりますが、クリス様は何か貴族証明の印等、身分が分かるものをお持ちでしょうか。」

  貴族印とは、手持ちの小剣や扇子、小物などに貴族である家紋を印字したものである。
  もちろん、クリスもアクセルも元の世界の家紋は持ち歩いているが、こちらの世界で通用するわけが無いと理解していた。

  しかし、勘違いしている人間に、何も見せないのは余計に話がややこしくなる事も自明の理。
  ダメで元々、クリスは聖宝石が家紋の形で散りばめられたブレスレットを、アクセルは上着の裏側に銀糸で刺繍された家紋をそれぞれ見せて、二人の様子を伺う事とした。

「おぉ…なんと美しいブレスレットじゃ。これは、魔道具か?見たことのない家紋じゃが、非常に高貴な方とお見受けいたします。」
「…なんと、力の持った宝石でしょう。魔石の一種でしょうか。ここまで強い魔石は見たことが…この銀糸の家紋も魔力が込められていますね…」

  悪くない反応だとクリスは思い、また聖宝石の事を知らず、代わりに魔石や魔力と言った言葉が出てきた事に、世界の違いを感じた。

「見たことの無い家紋でしょうね。実は、今日、私達はこの国に着いたのです。」
「は、はぁ…?国外のお貴族様で?」
「詳しいことは省かせて頂きますわ。なお、家名は、ロゼルナ。一応爵位はが、この国に限っては一旅行者と考えて頂いて結構ですわ。」
「し…しかし、何か国内であった場合の外交問題等を考えると身分を明かして頂くのが…」
「大丈夫ですわ。身分の無い、流れの旅人だと考えていただけたら。」

  ベインは、そんな風に考えられるわけねぇだろ!と思いつつも、

「家名がありました?と言うのは…」
「…詳しいことは省かせて頂きます、と言いましたわよね?」
「も…申し訳ございません。」

  クリスから笑顔で有無を言わせない圧力を感じたベインは、跪きたくなる気持ちを抑え、謝罪をした。

  これで、勝手に色々と自分たちの都合のいい様に考えてくれて、動きやすくなると腹黒い母子は内心ハイタッチをし合っていた。

  貴族然した雰囲気の意味と、身分が無いことの意味を勝手に想像してくれるのだ。本当の事を話すのはリスクがあるため、嘘と本当を混ぜてそれらしく誘導したのである。
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