追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた

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第108話 空中都市学派

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 さすがに国王陛下からの勅命と言われれば、一冒険者にできることなどない。素直に銀貨五枚を俺もレイルも支払って許可を得たが、結局問題は残った。

 大通りの人混みの中、レイルはふてくされているような、考え込んでいるような態度で、腕を頭の後ろで組んで最後尾を歩いている。
 俺とルナリアは並んで歩いていた。

「ごめんね、ルナリアさん」

「いえ。……あの、でも……どうしましょう」

 本当はルナリアも一緒に古代魔法文明の遺跡に潜る予定だったのだ。
 暗殺者に襲われたルナリアを宿で留守番させておくのも危険な気がしたし、なんだかんだで火竜山脈ではルナリアに助けられた部分も大きい。

(魔力の回復と増幅効果か……)

 それに、『魔癌』がもし発病しているのであればルナリアを置いかない方が良いと俺は思っていた。手をこまねいて時間をかけるより、ダンジョンに潜り、そこで『魔癌』を癒やす方法なり財宝なりを手に入れて、さっさと回復させるべきだと考えていた。

「とはいえ、許可は……下りない、か――」

 溜息と共に言葉を吐き出す。

「悠長に最下位ランクからBランク以上にまで上がるなんて待ってられないしな」

 レイルの言う通りだ。
 ルナリアは強い魔力があり、先程冒険者ギルドで鑑定を受けた際にも、そのように言われた。
 冒険者ギルドにある鑑定用マジックアイテムでは、測りきれないといわれるほどの強大な魔力があるらしい。
 わかっていたことだが、ただその魔力を放出するだけで、ちょっとした攻撃魔法になるほどだと言われた。
 一応、ルナリアも冒険者登録したが、あまり意味はなさそうだ。

「古代迷宮に挑むには、王家の許可を受けた騎士や学者など、それと冒険者でBランク以上の者に限るんですよね…………」

 ルナリアは溜息を吐き、俺達の雰囲気がやや暗くなった時だった。
 前方の人混みから、ふいに説法のようなものが聞こえてきた。

 どうやら、空中都市学派というべきか、重力制御によって古代魔法文明の遺跡が浮いていたというトンデモ説を語っていた。

 聴衆は、薄笑いを浮かべ、野次を飛ばす者さえもいる。
 名のある学者の有り難い話を聞くという態度ではなく、道化師の大道芸でも見ているような感じだ。

 都会でしか見ない光景だった。

「――ですから、古代迷宮を囲む『迷宮都市のストーン・ヘンジ』の異名を持つ、あの石碑群には深い意味があり――」

 どんな意味だよ、という野次に、学者は詰まった。
 誰かが悪巫山戯で投げた石が学者の額に当たり、血が飛んだ。
 さすがにまずいと思ったらしく、群衆がざわめく。
 
 俺は、割れた額を押さえ膝をついた男に駆け寄った。
 薄くなった髪は黒い色をしている。

 すぐさま回復魔法を使用した俺に、

「おお! ありがとうございます」

 学者は感謝を述べた。

「いえ。大丈夫ですか?」

 ええ、大丈夫です、と答えた学者が歩き出したので、去るのかと思ったら、またも自説を唱え始めた。

「――古代迷宮リフレインにはまだまだわからないことがたくさんあります! だからこそ調査せねばならない。昨今の王家は、その調査を縮小し、拒み、一部の者にのみ開放するという――」

 額にまだ血の跡が残っている学者を唖然として見つめる俺に、レイルが話しかけてきた。

「すげえガッツだな」

「ベルトラントと同じくらいの年齢でしょうか。かなりのお年でしょうに、凄いですね」

 ルナリアは呆れたような感心したような声を上げた。

 その後、王都の宿で一泊した。
 俺はレイルにルナリアの護衛を任せ、久しぶりに王都の回復術師ギルドを尋ねた。「専業主婦になる!」と断言して出ていった師匠が、その後どこにいるのか聞いて回ったが、知っている者がいなかった。
 きっと師匠ならそうするだろうと思っていたので、あまり落胆はない。

 実際、元グランドギルドマスターともなれば、きっと第一線を退いても、職員だの回復術師だのに頼られることも多いだろう。そういうことを避けるためだと思われた。

(まあ、仕方ないか)
 
 宿に戻ろうとした俺は、宵闇に包まれつつある王都の人混みの中、スヴェンとフォルネウスらしき人影を見た気がした。

(……まさか、な)

 まるで先を急ぐかのように冒険者ギルドの中に入っていくところだった。

(わざわざこんなギリギリの時間に?)

 冒険者の仕事は二十四時間休みというものがない。だが、ギルドの受付自体は、早朝から夕方くらいまでと決まっている。

(もしスヴェンとフォルネウスなら、迷宮都市に行くためかな……?)

 各地にいる名だたる冒険者は、誰もが一度は挑むと言われている。実際、見つかった財宝なども破格なものが多い。

(古代迷宮には夜でも潜り込めるけど、許可を得るのは夕方くらいまでだからなぁ)

 ぎりぎりに駆け込む者がいても不思議はなかった。
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