追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた

文字の大きさ
上 下
106 / 111

第106話 また共に

しおりを挟む
 豪華客船での船旅は快適だった。
 王都は、運河と龍脈の十字に交わる土地に作られている。
 運河は、王国にとって大事な交易路の一つ。
 そのためその整備も、船もクルーも、あらゆる面で高水準だった。

 やがて数日後、俺達が乗る豪華客船は、例のオーロラ――龍脈上空に溢れたマナによる魔力光のカーテンが見えるという場所に差し掛かった。

 レイルも誘ったのに、甲板にはやってきていない――はずだった。

(何やってるんだ、あいつ……)

 俺とルナリアが二人連れ立って歩く背後に、気配を消して続く盗賊少女。

(護衛のつもりか? だったら一緒に来ればいいのに)

 レイルの不審な行動に訝しんでいると、カップルにぶつかってしまった。謝ると、許してくれた。またカップルにぶつかりそうになる。

(人、多いな)

 甲板には、乗船客のほとんどが出てきたのではないか、と思えるほど人で溢れかえっていた。
 俺はルナリアの手を引いた。

「あ……」

 ルナリアのか細い声が上がる。

「はぐれるとまずいし」

「そうですね」

 ルナリアは微笑んだ。

 実を言えば、今も『心眼』を発動している。
 豪華客船の中、ルナリアはほとんど部屋で過ごしていた。護衛はしやすかったが、レイルは退屈そうで、俺も似たような感じだった。
 手持ち無沙汰だった俺は、自室でほとんど動かずにできる『心眼』のトレーニングに励んだのだった。
 結果、今では、だいぶ使いこなせるようになってきていた。

 黒色や灰色に見える群衆の中、俺はルナリアの手を掴み、オーロラが見やすそうな船首へと進む。

 人々の背中ばかり見ていたからか、船首に出た瞬間、目に飛び込んできた景色の美しさとのギャップに息を呑んだ。

「わぁ――」

 ルナリアと揃って歓声を上げる。
 それほどの光景だった。

 王都は、光り輝く小さな山のように見えた。
 難攻不落の要衝に作られた王都は、色とりどりの明かりが灯っている。
 ここからではまだまだ距離はあるが、水辺に浮かぶ小さな光る山のようで美しかった。
 そして王都の上空に、横切るように走っているのは、龍脈の魔力光――オーロラだった。

「凄い……」

 スケールが違った。

 魔力光は、魔法を発現する際に見えるもの。当然、回復術師の俺もよく見ている。
 見慣れた光のはずだった。
 だが――。

「美しいですね」

 ルナリアの呟きに、ただ黙って頷く。
 ルナリアも返事など求めていないのだろう。その目は一心に夜空を見上げていた。

「このオーロラを見ると、争いとか馬鹿馬鹿しくなるな」

 スヴェンとフォルネウス、レイルと共にダンジョンに潜ったり、深い森を彷徨い歩いていたりした頃には、見られなかった光景だ。
 なぜ人は争うのか? などという普段は考えないような哲学的な問いが浮かぶ。
 今を生きるのに精一杯でそんなことあまり考えたこともなかったのに……。

 そんな興奮した様子のルナリアにふと目を向けると、ルナリアの胸元がつい見えてしまった。
 ドレスの胸元が見えないようにスカーフを巻いていたにもかかわらず、それが緩んでしまっていたのだ。

 ルナリアに小さく呼びかけたが、彼女は瞳を輝かせてオーロラを見上げている。
 なんだか止めるのも悪い気がした。

 スカーフを軽く巻き直してあげようかと、もう一度胸元に視線を向けると、そこに不思議な輝きがあることに気づいた。
 あの上空のオーロラのような青と赤を混ぜたような色――紫の輝き。
 オーロラの色。魔力の色。魔石の色。――――『魔癌』の患部の色。

「――――っ」

 目を見開いた俺に、ルナリアは不思議そうに見上げてきた。

「どうか……されましたか?」

「いや。なんでもない。なんでもないんだ」

 ルナリアがなぜ黙っていたのか、他のフォージュン家の皆がなぜ驚いた様子がなかったのか、いろいろな疑問がぐるぐると頭を回る。

 だが、俺は笑みを作る。今のルナリアと同じように。

「綺麗だよね」

「はい! そうですね!」

(『魔癌』――)

 元々、ルナリアの母を治すつもりだった。そのために、迷宮都市に向かい、情報を集め、もし癒やすアイテムがあるならば手に入れる予定なのだ。
 目的は何も変わらない。
 ここで俺がルナリアの奇病の発病に気づいたと告げても、彼女の顔を曇らせるだけだろう。

「本当に、綺麗だ」

 俺はもう一度、夜空に視線を移した。
 ――このオーロラをもう一度、ルナリアと見よう。
 「はい!」という元気の良い返事を聞きながら、俺は自分自身に誓った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...