追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた

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第104話 見送る者

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 王都に向かって運河を進む船便は、多い。
 貨物船から定期船、豪華客船とその船の種類も様々だ。
 俺とルナリア、そしてレイルの三人は、王都行きの豪華客船の乗船用ゲート前で、カエデやベルトラント、クオン達に見送られていた。

「タジム様も見送りに来てくだされば良かったのに……」

 とルナリアは残念そうに呟いた。
 あの『孔雀』の『劇場』での一件の事後処理を済ませた俺達は、タジムと共にルナリアの家に戻った。
 そこで、ルナリアの母からタジムがいかに献身的に治療しようと努力してくれていたかを聞かされたのだ。

 ルナリアの母は、どうも宮廷での事件で、夫を亡くすような辛い過去があるらしい。
 ぼかして話されたので、俺にはよくわからなかった。
 それでも腹黒い貴族社会を生きてきたからこそ、信じられる相手を見極める能力に優れているというのは伝わってきた。

 実際、タジムのアドバイスのお陰で、暗礁に乗り上げそうだったルナリアの母の治療も、とりあえず一歩前に進むことができたのだ。
 未踏破の迷宮都市リフレインのダンジョンに挑み、『魔癌』を癒せるアイテムか情報を得るという高難易度の方法とはいえ。

「そうだね。タジムさんも来てくれたら、改めてお礼を言えたんだけど……」

 タジムは見送りに行くよりも、ルナリアの母についておくと言ったのだ。実際、こうしてフォージュン家の二人の子供と主な使用人が来てしまっているので、屋敷にはタジム他使用人が数人という状況だった。
 それでもタジムがわずかな見送りの時間さえ作れないというほど忙しいわけではないのだろうけど。

「ああいうのはツンデレって言うんだよ、ツンデレ」

 レイルが笑いながら、

「お前らがあんまりにも感謝したり、疑ったことを誠心誠意謝罪したりを繰り返したらから、恥ずかしくなったんだろ」

「「ツンデレ?」」

 俺とルナリアは首を傾げたが、「似た者同士だな」と苦笑しただけで説明はなかった。
 ちょうど乗船を促す汽笛が鳴り、俺とルナリア、レイルの三人は、乗船ゲートを抜ける。

 ゲートの向こうに立つカエデ、ベルトラント、クオンに順に視線を移す。

「いろいろとありがとうございました」

 俺がクオンに向かって頭を下げると、居残り組の三人は苦笑した。

「世話になったのはわたくし達の方でございます」

 ベルトラントがそう言えば、カエデも続く。

「はい。そのとおりです。……どうか、お嬢様のことをよろしくお願いいたします。ヨシュア様、レイル様」

 俺とレイルはそれぞれ返事を返し、使用人二人と笑い合ったり、別れを惜しんだりしたが、クオンは沈黙していた。

「――クオン?」

 ルナリアはどうもクオンの様子がおかしいことに気づいていたらしく、じっと彼を見つめて不思議そうに問いかけた。

「姉さん、その胸の――――」

 とクオンは何か言いかけたが、ルナリアの強い視線に押し黙った。
 そしてしばらく両目をつむり、ゆっくりと開くと、俺の方に向き直った。
 青と黒のオッドアイの瞳で俺を見つめてから、頭を下げた。

「姉さんのことをよろしくお願いします」

 俺やレイルが返事するよりも早くクオンは、またルナリアを見つめた。
 その唇が何が言いたげに開く。

 だが、そこで再度汽笛が鳴る。
 本当にもう時間がない。
 搭乗ゲートを抜けているし、後は船に乗り込むだけとはいえ、急いだ方がいいだろう。

 長々と鳴り響く汽笛の音がかぶさり、クオンの静かな声はかき消えそうになった。

「姉さん……僕らは『選ばれし民』……だから……」

「クオン。そういった話はまた、いつか……今はお母様の……」

 ルナリアの声も汽笛にかき消えかけた。
 汽笛が終われると同時に、別れを惜しむ大勢の人々の声が豪華客船に向かって投げかけられる。

 クオンの声が、汽笛以上に大きな見送りの歓声にかき消えそうになった。

 俺達は船員達から乗船を促され、船に乗り込んだ。
 クオンの視線がなぜか背中に張り付いているような気がした。

『いつか、って、いつなんだ? 僕らはいつまで待たなければならない。いつかが来ないのなら、自らの手で、そのいつかを手繰り寄せないといけないんじゃないのか?』

 クオンは先程、静かだが、決意の滲む声を投げかけていたのだ。
 周囲の歓声とはまったく違う声音。だからだろうか。その声は、いやに俺の耳に残った。
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