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第103話 迷宮都市リフレインへ

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(物質界、精霊界、天界、魔界……)

 古竜ドヴォルザーグは、この世界は物質界だと言っていた。物理現象がほとんど支配しているといっても過言ではない世界だ。

(俺の訪れた精霊界だか天界だかなら、ちょっと話は変わってきそうだが……)

 悩む俺に、タジムは実用的なことを語り出した。

「とりあえず『魔癌』について知っておることを述べよう。あれは、表面的には魔石にそっくりじゃし、わずかに削ってみたが、やはり魔石と成分は類似しておった。そして表面に見えていない部分、内臓の一部などが硬くしこり、触ると患者に痛みが走ったりする」

 ルナリアの母はまだ無事そうだが、もしあの魔石もどきが食道や心臓、脳などにできたら、死んでしまうだろう。

「また、いろいろな病も併発しやすくなる。例えば、マナが乱れ、疲労しやすくなり、ちょっとした風邪でも治りにくくなったりのう」

 ルナリアの母を救うためには、単純な回復魔法では難しそうだった。
 
(俺の魔法も、『なんでも』回復できるという点――物質だろうと肉体だろうと癒せるという点は特殊だが、結局は魔法だからな)

 もしマナが――魔力が『魔癌』に有害だというのなら、強大な魔力を操って発動する『なんでも回復』は、ルナリアの母の弱った心身に止めを刺すことになりかねない。

「じゃが、一つだけ可能性がある」

「それは?」

「先程、古代魔法文明の時代でも、『魔癌』は奇病であり、難病であると言った。そして、治せなかった、と」

「ええ」

「じゃが、無論、古代魔法文明についてすべてがわかっておるわけではない。あくまで現在判明している情報の範囲では、『魔癌』は不治の病だというだけじゃ」

「――不治の、病」

 カエデと共にこちらに来たルナリアは、小さく呟いた。
 
 やはり母親が不治の病に侵された聞いてショックなのだろう。

「古代魔法文明の遺跡、あの王都のストーン・ヘンジの地下に眠る古代魔法文明の遺跡になら、何か情報があるかもしれん。ひょっとしたら、魔癌を完治させるポーションもあるかもしれん」

「おいおい。またタジムの爺さん、軽々しく希望を口にしてるよ。それでルナリアが信じて、突き進んで、ゴブリン共に捕まっちまってたんだぞ?」

「――今度は俺も一緒だから大丈夫だよ」

「まあ、ヨシュアが一緒なら――って! えっ、おい、マジかよ? いまだに、古代魔法文明の時代から誰一人として最深部にまで辿り着いていない王都の迷宮攻略に乗り出すつもりかよ!? 正気か!?」

 レイルがノリツッコミした。珍しい態度だが、よほど驚いたのだろう。

「王都の迷宮リフレインは、そのまま迷宮都市の名になっちまってるほどだぜ? 王都建国以来、いや、以前から存在し、王都の隣に迷宮都市リフレインがずっと存在してるんだぞ。どんだけの冒険者や研究者や調査団が派遣されたと……!」

「――ヨシュア様」

 レイルの話を遮るようにルナリアが俺の手を取った。

「お母様を救うには、その迷宮リフレインを攻略することこそが唯一の鍵になると思います。どうか、お力を……!」

「ああ、大丈夫。俺も一緒に行くよ。乗りかかった船だ」

 ルナリアは、カエデに上着を借りているが、その胸元が見えそうで見えなくてちょっとどぎまぎしそうになってしまった。

 はぁ、というレイルのこれ見よがしな溜息が聞こえたが、なんとなく次の瞬間、彼女がなんというかわかった気がした。
 そしてその予想と寸分違わぬ言葉が俺とルナリアに飛んできた。『心眼』の影響かもしれない。

「依頼料弾めよ? ま、成功報酬でいいぜ」

 今、ルナリアの家は難病の母の長年の治療費で金がない。そして、未踏の古代魔法文明の遺跡ともなれば、成功さえすれば、お宝ざっくざくと言ったところだろう。

 だが、実際のところ、レイルなりの照れ隠しのようだった。

「――ぁんだよ? あたしの顔に何かついてるか?」

「いや、何も」

「いいえ。何もついておりませんわ」

 俺とルナリアの声が重なり、一瞬後軽快な笑い声が上がった。
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