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第87話 薬師ギルドの長、タジムの意外な関係性
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「相手はルナリアのお母さんじゃないですよね?」
「ええ。相手は――」
ベルトラントは額に浮かんだ汗をハンカチで拭い、溜息と共に言葉を吐き出した。
「薬師ギルドの長、タジム殿なのです」
ルナリアの母の病の治癒を、ここのところ一手に引き受けていたという回復に関するギルドの二大巨頭の内の一人だった。
もう一つは、言わずと知れた回復術師ギルドの長だ。
薬師ギルドと回復術師ギルドは、似たようなジャンルだが、まったく異なるギルドでもある。
「ふぅん、タジムか……」
レイルも難しそうな顔をしている。
大物なのは間違いない。少なくともSランク冒険者といえど、おいそれと口論に参加できないほどに。
「どうするか」と思案していると、この部屋に向かって来る足音が聞こえてきた。
「――ですから! ヨシュア様なら、きっとお母様の病を――」
「話にならん!!」
ルナリアの発言を一蹴する老人の声。
「儂でも治せぬ病をたかが回復術師の小僧が治せるとでも!?」
「そ、その通りです!」
「ほう……」
ドアの向こうからの声は冷え冷えとしており、老人の姿は見えぬのに睨めつけるような視線がありありと浮かんだ。
「……このタジムですら治せなかった病を? いったいどこの誰じゃったかな、泣きついてきたのは……母を治して、と」
嫌な口振りだった。
だが、相手もこと回復については一家言ある存在だ。
若造の方が信頼できると言われて、引くに引けなくなったのかもしれない。
「でしたらヨシュア様の回復を見てから判断してください!」
「よかろう!」
口論が終息した。
それは互いに納得したというよりも、嵐の前の静けさ。次なる争いの前の準備段階のように感じられた。
緊迫した気配のまま、扉がノックされた。
ベルトラントが扉の向こうを確認し、俺達に入室の許可を求めるような視線を向けてきた。無論、拒絶などできるはずもない。相手は薬師ギルドの長と思しき老人と、この屋敷の主のルナリアなのだ。
入ってきたのは二人だけでなく、クオンとカエデも一緒だった。
正面に立つ老人をソファーに座って見上げてしまっていた俺は、慌てて立ち上がった。
「は、はじめま――」
「ふん。若いな。……Sランクだろうが、なんだろうが…………」
と、そこまで言いかけたが、老人タジムの言葉が窄んだ。
「お主、ひょっとして『女医』のところにいた高弟か?」
「高弟? えっと、まあ、弟子でしたけど」
弟子の中で特に優れた弟子を高弟というが、そもそも「女医」――俺の師匠には弟子はほとんどいなかった。俺が師事した当時は、俺一人だけだった。
そこまで言って、老人は白い顎髭を撫でた。
「……話を聞きたい。まずは、急変したルナリアの母の容態を見ながら話そうではないか」
有無を言わせぬ口調で、歩き出した。ルナリア達も無言で続く。俺はレイルと顔を見合わせたが、状況がわからず肩を軽くすくめて続いた。
「ええ。相手は――」
ベルトラントは額に浮かんだ汗をハンカチで拭い、溜息と共に言葉を吐き出した。
「薬師ギルドの長、タジム殿なのです」
ルナリアの母の病の治癒を、ここのところ一手に引き受けていたという回復に関するギルドの二大巨頭の内の一人だった。
もう一つは、言わずと知れた回復術師ギルドの長だ。
薬師ギルドと回復術師ギルドは、似たようなジャンルだが、まったく異なるギルドでもある。
「ふぅん、タジムか……」
レイルも難しそうな顔をしている。
大物なのは間違いない。少なくともSランク冒険者といえど、おいそれと口論に参加できないほどに。
「どうするか」と思案していると、この部屋に向かって来る足音が聞こえてきた。
「――ですから! ヨシュア様なら、きっとお母様の病を――」
「話にならん!!」
ルナリアの発言を一蹴する老人の声。
「儂でも治せぬ病をたかが回復術師の小僧が治せるとでも!?」
「そ、その通りです!」
「ほう……」
ドアの向こうからの声は冷え冷えとしており、老人の姿は見えぬのに睨めつけるような視線がありありと浮かんだ。
「……このタジムですら治せなかった病を? いったいどこの誰じゃったかな、泣きついてきたのは……母を治して、と」
嫌な口振りだった。
だが、相手もこと回復については一家言ある存在だ。
若造の方が信頼できると言われて、引くに引けなくなったのかもしれない。
「でしたらヨシュア様の回復を見てから判断してください!」
「よかろう!」
口論が終息した。
それは互いに納得したというよりも、嵐の前の静けさ。次なる争いの前の準備段階のように感じられた。
緊迫した気配のまま、扉がノックされた。
ベルトラントが扉の向こうを確認し、俺達に入室の許可を求めるような視線を向けてきた。無論、拒絶などできるはずもない。相手は薬師ギルドの長と思しき老人と、この屋敷の主のルナリアなのだ。
入ってきたのは二人だけでなく、クオンとカエデも一緒だった。
正面に立つ老人をソファーに座って見上げてしまっていた俺は、慌てて立ち上がった。
「は、はじめま――」
「ふん。若いな。……Sランクだろうが、なんだろうが…………」
と、そこまで言いかけたが、老人タジムの言葉が窄んだ。
「お主、ひょっとして『女医』のところにいた高弟か?」
「高弟? えっと、まあ、弟子でしたけど」
弟子の中で特に優れた弟子を高弟というが、そもそも「女医」――俺の師匠には弟子はほとんどいなかった。俺が師事した当時は、俺一人だけだった。
そこまで言って、老人は白い顎髭を撫でた。
「……話を聞きたい。まずは、急変したルナリアの母の容態を見ながら話そうではないか」
有無を言わせぬ口調で、歩き出した。ルナリア達も無言で続く。俺はレイルと顔を見合わせたが、状況がわからず肩を軽くすくめて続いた。
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