上 下
86 / 111

第86話 薬草の匂いの立ち込める屋敷

しおりを挟む
 簡単な荷物検査だけで、俺達は都市内に入ることができた。
 他の都市から荷物を持ち込んだりすると、関税がかかるのが一般的だ。

(税を徴収する側のルナリアが問題なしと判断したから、あっさり通されたのかな)

 どこかふわふわとした落ち着かない気分で、俺はルナリアとクオンの後をついていた。
 カエデとベルトラントはダンジョンの中とは違い、主人の横に並ぶなどの無礼な行為は控えていた。
 最後尾を歩く使用人の前を、俺とレイルは並んで歩く。

 ルナリアが「ここが我が家です」と招いてくれた屋敷の門の前に来た瞬間、俺は浮ついた気分が消し飛ぶのを感じた。

(薬草畑……)

 これでも「女医」の異名を持つほどの回復術師を師匠に持ったのだ。師匠は、薬草学にも詳しかった。
 その一部とはいえ伝授されたので、この花壇がすべて薬草畑になっていることは一目で理解できた。
 それに鼻をひくつかせると、屋敷の方から煎じた薬草の濃い臭いが漂ってくる。

(ポーションだけでは無理と判断し、いろいろと試しているのか……)

 屋敷に向かって庭の奥に招かれると、ところどころ普通の花が見えた。色鮮やかな花々と無味乾燥な濃い緑をしている薬草たち。
 そのちぐはぐな花壇の光景は、どこかこの家の差し迫った状況を予感させた。
 手入れが行き届いていないのだ。

 ルナリアの屋敷に入ると、さらに薬草の臭いが強くなった。
 薬草の臭いが染みついている。

 応接室に飾られたアンティークな棚には、オシャレな白磁のティーカップや銀製のスプーンなどだけでなく、乾燥した薬草を詰めた小瓶などが並んでいる。

「想像以上に、いろいろと……」

 ヤバいのかな、と心の中だけで先の言葉を続ける。
 応接室には、俺とレイルだけが座り、他の四人はルナリアの母の元に行った。
 使用人に任せていたとはいえ、娘と義理の息子が、家臣二人と共にいなくなったのだ。当然心配していることだろう。

「今頃感動の再会かねぇ」

 レイルが腕を頭の後ろで組み、だらしなくソファーに座る。かかとを浮かした足をぶらぶらとしていた。

 ふいに、内容は聞き取れないものの、激しい怒声が聞こえてきた。

「ルナリアっ!?」

 声の主は女性のような気がした。
 ルナリアか、カエデか、ルナリアの母か、それとも別の誰かか……。

 少なくともレイルの言うような感動の再会シーンではなさそうだ。

 応接室で待つように言われていたが、「どうしようか」とレイルに視線を送る。
 レイルは真剣な顔をし、「しっ」と人差し指を唇に当てる。

「ただの口喧嘩だ……。ほぼ一対一。相手は老人だな」

「老人?」

「ああ……低い声で聞き取りにくいが……内容も差し迫ってまずい感じじゃない。興奮しているのはルナリアの方だ。他はクオン達も激しく相手を糾弾し始めた。――来る」

 レイルはそれだけ言うと、上げかけていた腰を下ろした。俺もそれに倣い、何も聞いていない風を装う。

「申し訳ございません、ヨシュア様、レイル様。……本来であれば、着替えたお嬢様とクオン様から正式なお礼と共に心ばかりの贈り物を贈らせていただくご予定でしたが……」

「いえ。そんなのはいいですよ」

 もうすでに家宝の刀をもらっているのだ。
 あたしの分まで断るなよ、とレイルは毒づいたが小声だ。きっとレイルも気になっているのだろう。

「一体どうされたんですか? その……帰って早々何か揉めてらっしゃるようでしたが……」

「それが…………」

 ベルトラントは、伯爵家の恥部に該当するとでも思ったのか、言い淀んだが、俺とレイルを見つめ、

「これは内密にお願いしたいのですが、お嬢様とクオン様が糾弾しておいでなのです」

「糾弾……」

 内容は、おそらくルナリアの母親に関することだろう。ルナリアの母に帰宅の挨拶に行った際に起きたのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

不遇の天才幻獣テイマー(笑)にざまぁされたほうのパーティリーダーですが、あいつがいなくなったあと別の意味で大変なことになっているんだが?!

あまね
ファンタジー
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 足手まといだからとハシタ金を投げつけられてパーティをクビになった僕は、いらない子扱いされたチビドラゴンを連れてひとり旅に出ました。 そのチビドラゴンはどうやら神龍の子供だったとかで、今は世界に数人しかいない幻獣テイマーとして三食昼寝付きの宮仕えの身です。 ちなみに元のパーティは、僕が置いてきた超低レベルの幻獣すら扱いきれず建物を半壊させて牢屋にブチ込まれたそうですよ? ヤレヤレʅ(◞‿◟)ʃ 〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 ――――というあらすじにでもなるのだろう。 俺、ライアンが解雇を告げたデンスに語らせれば。 しかし残された俺たちからしたらとんでもない。 幻獣テイマーだというのが自称に過ぎないというのは薄々気づいていたが…… ただでさえ金のかかるやつだったのに、離脱後に報奨金の私的流用が発覚! あいつが勝手に残していった幻獣が暴れたことの責任を被らされ!! しかもその幻獣は弱って死にかかっている?!!! おい、無責任にもほどがあるだろ!!!!!!!!!!!!!!!! 無双ものんびり生活もほど遠い堅実派の俺たちだが、このマンダちゃん(※サラマンダー)の命にかけて、お前のざまぁに物申す!

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

求:回復術師 〜絶対見捨てない為に、僕が今できる事〜

まめつぶいちご
ファンタジー
2-3日に1話更新! 【nola縦読み漫画原作大賞にて、優秀賞獲得】 【アルファポリスにてランキング5位獲得】 【DADAN Web小説コンテスト一次選考通過】 未曾有の大災害、医者である主人公は患者を助けるべく奔走するも、命の選択を『見殺し』だと言われ殺されてしまう。 二度と誰も見捨てるもんかと思いながら、回復術師として転生した世界は、回復術師の激減した世界だった。 バレないように回復術師として生きる主人公の冒険をお楽しみください。

その無能、実は世界最強の魔法使い 〜無能と蔑まれ、貴族家から追い出されたが、ギフト《転生者》が覚醒して前世の能力が蘇った〜

蒼乃白兎
ファンタジー
15歳になると、人々は女神様からギフトを授かる。  しかし、アルマはギフトを何も授かることは出来ず、実家の伯爵家から無能と蔑まれ、追い出されてしまう。  だが実はアルマはギフトを授からなかった訳では無かった。  アルマは既にギフト《転生者》を所持していたのだ──。  実家から追い出された直後にギフト《転生者》が発動し、アルマは前世の能力を取り戻す。  その能力はあまりにも大きく、アルマは一瞬にして世界最強の魔法使いになってしまった。  なにせアルマはギフト《転生者》の能力を最大限に発揮するために、一度目の人生を全て魔法の探究に捧げていたのだから。  無能と蔑まれた男の大逆転が今、始まる。  アルマは前世で極めた魔法を利用し、実家を超える大貴族へと成り上がっていくのだった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...