75 / 111
第75話 因果応報ならぬ世
しおりを挟む
俺の訝しむような視線に気づいたらしく、ルナリアが耳打ちしてくれた。
「ヨシュア様」
ルナリアの吐息が耳元にかかる。それほど近い。声は非常に小さかった。
「どうか内密にしてほしいのですが……」
ルナリアの視線が、ほんの一瞬だけレイルを捉えた。
レイルは盗賊だ。視線にも敏感だった。
だが、わざとらしく頭の後ろで腕を組み、口笛でも吹きそうな顔で横を向いている。
(レイル……あいつ、超優秀なのに、演技だけは下手だな……)
だから『渡り鳥』――冒険者をやっているのかもしれない。
ベルトラントのように貴族社会を渡り歩くのも無理だろうし、噂に聞く盗賊ギルドお抱えの詐欺師集団などにも属せないだろう。媚を売るのも苦手だろうから、きっと娼婦とかも無理だ。
「……クオンは、王族なのです」
「え?」
余所事を考えていたせいで、「レイルに盗み聞きされてるかも」と注意するのが遅れた。
一瞬、レイルの下手な口笛でも吹きそうな動きが止まった気がした。たぶん気のせいではない。この距離ならレイルなら聞き逃すことはないだろう。どれほど小声であろうと。
「じゃあ、『選ばれし民』というのは……」
「たぶん……王族のこと……ではないかと…………」
ルナリアは自信なさそうだが、そう判断しているらしかった。
(俺の勘違いか……?)
かなり不穏な気配をクオンから感じたのだが。
それに話の流れ的に、王族関連という感じでもなかったように思う。
だがそんな余所事は、古竜の咳払いで終わりを告げた。
――【では、そろそろ本題に入ろう。――この封印を解いてほしい】
俺はどうすればいいのか、判断に迷った。
出来る限り真摯な表情を浮かべつつ、古竜を見上げる。
残念ながら爬虫類のように顔が鱗に覆われているせいで、表情がわかりづらい。
瞳も人とはまったく違っている。
「封印された理由を聞いても……」
――【くだらぬ問いだ。力持つ者は、同じく力持つ者を恐れる】
俺としてはそう言われてもピンと来なかったが、それは俺だけらしかった。クオン達だけでなく、レイルまで納得した様子だ。
「……あの、こう言っては失礼だと思いますが……俺はてっきり……何か悪事を働き、それで封印されたと……」
――【ぶっわははははっ】
古竜が笑い、いきなり突風が吹き荒れるような感じがした。いや、実際に前髪が揺れ、倒れたフォルネウスのローブなどがはためている。強烈な魔力が波動のように伝わってきているのだ。
――【……はははぁーーっ……ふふふ…………】
古竜は笑い終えても、しばらく思い出し笑いのようなことをしていた。
――【どれほど世代を経ても、変わらんな。お前は……】
どこか愛おしそうに、愚かな子供を不憫がるように、古竜は目を細めて俺の方を見つめた。
――【『追放された回復術師』よ】
「はい」
呼びかけられて、思わず頷いたものの、俺は首を傾げた。
(え? 俺がスヴェン達の冒険者パーティー「暁」を追放されたことをドヴォルザーグは知ってるのか?)
古竜の知覚能力や魔法の限界を知らないので、俺の情報を入手していてもおかしくないのだが、どこか違和感を感じる口調だった。同情するような古竜の視線のためだろうか。
いくらブラックな冒険者パーティーだったとはいえ、いにしえから生きる古竜に同情されるほどではない……と思いたい。
――【追放される理由は、常に正当なものか?】
俺は考え込んでいたので無言だったのだが、古竜は再度呼びかけてきた。
――【『なんでも回復』できる者よ】
とりあえず先程浮かんだ疑問は棚上げした。少なくとも、単純にこの古竜が悪い存在だから封印されたのではない、となんとなくわかっただけで十分だ。
嘘を吐いている――とは思いたくない。仮にそうだとしたら、俺達はこの遺跡の中、生き埋めになるか、全滅するか、そのどちらかになってしまうだろうから。
――【それともまだ自覚はないのか?】
「『なんでも』という意味がいまいちよくわからないのですが」
古竜はどこか遠い目をし、天井の辺りを見上げた。
何かを思い出すような遠い瞳だ。
そんな姿だけは、千年を生きる古竜も人も変わらないようだった。
「ヨシュア様」
ルナリアの吐息が耳元にかかる。それほど近い。声は非常に小さかった。
「どうか内密にしてほしいのですが……」
ルナリアの視線が、ほんの一瞬だけレイルを捉えた。
レイルは盗賊だ。視線にも敏感だった。
だが、わざとらしく頭の後ろで腕を組み、口笛でも吹きそうな顔で横を向いている。
(レイル……あいつ、超優秀なのに、演技だけは下手だな……)
だから『渡り鳥』――冒険者をやっているのかもしれない。
ベルトラントのように貴族社会を渡り歩くのも無理だろうし、噂に聞く盗賊ギルドお抱えの詐欺師集団などにも属せないだろう。媚を売るのも苦手だろうから、きっと娼婦とかも無理だ。
「……クオンは、王族なのです」
「え?」
余所事を考えていたせいで、「レイルに盗み聞きされてるかも」と注意するのが遅れた。
一瞬、レイルの下手な口笛でも吹きそうな動きが止まった気がした。たぶん気のせいではない。この距離ならレイルなら聞き逃すことはないだろう。どれほど小声であろうと。
「じゃあ、『選ばれし民』というのは……」
「たぶん……王族のこと……ではないかと…………」
ルナリアは自信なさそうだが、そう判断しているらしかった。
(俺の勘違いか……?)
かなり不穏な気配をクオンから感じたのだが。
それに話の流れ的に、王族関連という感じでもなかったように思う。
だがそんな余所事は、古竜の咳払いで終わりを告げた。
――【では、そろそろ本題に入ろう。――この封印を解いてほしい】
俺はどうすればいいのか、判断に迷った。
出来る限り真摯な表情を浮かべつつ、古竜を見上げる。
残念ながら爬虫類のように顔が鱗に覆われているせいで、表情がわかりづらい。
瞳も人とはまったく違っている。
「封印された理由を聞いても……」
――【くだらぬ問いだ。力持つ者は、同じく力持つ者を恐れる】
俺としてはそう言われてもピンと来なかったが、それは俺だけらしかった。クオン達だけでなく、レイルまで納得した様子だ。
「……あの、こう言っては失礼だと思いますが……俺はてっきり……何か悪事を働き、それで封印されたと……」
――【ぶっわははははっ】
古竜が笑い、いきなり突風が吹き荒れるような感じがした。いや、実際に前髪が揺れ、倒れたフォルネウスのローブなどがはためている。強烈な魔力が波動のように伝わってきているのだ。
――【……はははぁーーっ……ふふふ…………】
古竜は笑い終えても、しばらく思い出し笑いのようなことをしていた。
――【どれほど世代を経ても、変わらんな。お前は……】
どこか愛おしそうに、愚かな子供を不憫がるように、古竜は目を細めて俺の方を見つめた。
――【『追放された回復術師』よ】
「はい」
呼びかけられて、思わず頷いたものの、俺は首を傾げた。
(え? 俺がスヴェン達の冒険者パーティー「暁」を追放されたことをドヴォルザーグは知ってるのか?)
古竜の知覚能力や魔法の限界を知らないので、俺の情報を入手していてもおかしくないのだが、どこか違和感を感じる口調だった。同情するような古竜の視線のためだろうか。
いくらブラックな冒険者パーティーだったとはいえ、いにしえから生きる古竜に同情されるほどではない……と思いたい。
――【追放される理由は、常に正当なものか?】
俺は考え込んでいたので無言だったのだが、古竜は再度呼びかけてきた。
――【『なんでも回復』できる者よ】
とりあえず先程浮かんだ疑問は棚上げした。少なくとも、単純にこの古竜が悪い存在だから封印されたのではない、となんとなくわかっただけで十分だ。
嘘を吐いている――とは思いたくない。仮にそうだとしたら、俺達はこの遺跡の中、生き埋めになるか、全滅するか、そのどちらかになってしまうだろうから。
――【それともまだ自覚はないのか?】
「『なんでも』という意味がいまいちよくわからないのですが」
古竜はどこか遠い目をし、天井の辺りを見上げた。
何かを思い出すような遠い瞳だ。
そんな姿だけは、千年を生きる古竜も人も変わらないようだった。
12
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
回復しかできない私は需要がありますか?
初昔 茶ノ介
ファンタジー
看護師の山吹 桃(やまぶき もも)はブラック企業に近い勤務のせいで1年目にして心身ともにふらふらの状態だった。
そして当直終わりの帰り道、子供がトラックの前に飛び出したところ助けるため犠牲になってしまう。
目が覚めると目の前には羽が生えた女神と名乗る女性がいた。
若く人を助ける心を持った桃を異世界でなら蘇らせることができると言われて桃は異世界転生を決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる