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第67話 静謐なる青の世界
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目覚めると、迫るマグマの赤と崩れるダンジョンの騒音とは対極の世界。
青の世界。
静寂の中、青い明かりが壁一面から放たれている。
俺はたった一人で床に寝ていた。
起き上がると、ここがあの古代魔法文明の遺跡だとわかった。
「ルー……ン? ~~ッッ!」
わずかに声を出しただけで、全身が痛い。文字通り全身だ。喉も裂けそうな痛みに、喉元を押さえようとすれば、肩から肘まで痛み、動かした手の平まで痛かった。
「……ッ~~」
声を押し殺して、俺はしゃがみ込む。
(傷は……ないな)
あれほどのあちこちにかすり傷を受けたはずなのに、今は傷一つなかった。
(どうなった……のか?)
痛みに途切れそうになる思考をどうにか繋ぎ合わせる。
(ルナリア達は……)
周囲を見回し、ふいにレイルの服の裾を視界の端に捉えた。
「ヨシュア! 起きたのか!」
レイルが駆けつけてくる。ルナリア達も一緒だ。ちゃんとクオンもいる。全員無事だった。
手には、荷物や食料らしきものを抱えていた。
「悪いな、目覚めた時にすぐそばにいてやれなくて。……どんだけ長期戦になるかわからないし、生き埋めになる可能性もあるから、食えるものは確保しておこうと思ってさ。あのゴブリン達、意外と食料持ってたぜ。全員お揃いのウエストポーチみたいなのつけててさ。あそこまで携行糧食持たせて、しっかりと訓練させてるって、奴らの主、相当凄かったんだろうな」
「待て……待ってくれ、レイル」
いろいろと話してくれるのは、嬉しいが、意識が飛んでからの状況がまったく掴めない。
「窮地は……脱したのか?」
「あーー…………」
レイルは、ロープで一つに縛った頭髪を掻いた。
「どうかなー……この状況を助かった、と言うのかどうか。ダンジョンは崩壊した。もう完膚なきまでに。マジで」
レイルは肩をすくめる。
「一つ下の階層にあるゴブリン達から掻っ払ったついでに、いろいろと調べようとしたんだが……通路とかないんじゃ、盗賊のレイル様の出番はないな」
「……はは、そうか。まあ、回復術師の出番もなさそうだ」
俺は苦笑しながら答えた。
「それで、敵のゴブリン達は?」
俺の質問に、レイルを含む五人はキョトンとした。
「あれって、お前が魔法でやったんだろ?」
「……まぁ、そうだけど……」
何をしたのかわからない。
ただ『回復』の対象がでたらめに広がっていたのだけは自覚していた。最悪の場合、暴走した回復魔法が、ただ単に敵のゴブリン達を癒やして終わり、ということさえあった。
レイルが指を立てながら説明を始めた。
「まず第一に、クオンやルナリア達は、床が修復された結果無事。ついでに傷も回復してた。んで次に、ゴブリン達は、修復された壁だの天井だのに……まあ、ひでえ有り様で死んだな」
よくわからず、俺は首を傾げた。
「例えばさ、天井から落ちた石片――」
レイルが腰のスリングを取り出し、小石を載せて、引っ張ったり、縮めたりした。
「あれが俺のスリング以上の速度で放たれたら……どうなる?」
「痛い、じゃ済まないだろうな」
「そういうことだ。まるで何本もの極小の矢で射抜かれたみたいだった。足元の石片が天井にまで上がり、その間にいたゴブリン達は、ズタズタだよ、ズタズタ」
凄まじい光景を思い出したのか、レイルは身震いした。
「……『回復』の対象を、そうか……」
確かに俺の回復魔法が暴走した結果だった。
「あとは、おんなじだ。どこかの誰かさんが意識を失ってたせいで、運ぶのはちょい大変だったがな」
「……助かったのか」
肩の力が抜け、安堵の息と共にそう言葉をゆっくりと吐き出す。
「そう言ってる」
「そうか、助かったのか」
「うん。お前のお陰だ」
頭をがしがしと撫でてくる荒っぽいレイルの手付きは、『女医』の異名を持つ師匠を思い出した。といっても、似ているのは豪放磊落そうな性格と、男っぽい女性であるという部分だけだが。
俺とレイルの間に割り込むように、ルナリアが近づいてきた。
「その……具合いは悪くありませんか?」
「…………いや。大丈夫だ」
正直、まだ体は痛いが、先程までの激痛ではない。
「本当ですか?」
まったく信じた様子もなく、ルナリアは心配そうにした。
「眠っている間も、苦しそうな顔をしてらっしゃいました」
(そうか……まあ、あれだけ全身に痛みが走れば、当然か……)
「――そうだな、正直言うと、体が少し痛むかな」
過少報告だが、本当のことを答えた。
レイルは「なんか青春だねぇ~」などとよくわからないことを呟きながら小さく笑っていた。
青の世界。
静寂の中、青い明かりが壁一面から放たれている。
俺はたった一人で床に寝ていた。
起き上がると、ここがあの古代魔法文明の遺跡だとわかった。
「ルー……ン? ~~ッッ!」
わずかに声を出しただけで、全身が痛い。文字通り全身だ。喉も裂けそうな痛みに、喉元を押さえようとすれば、肩から肘まで痛み、動かした手の平まで痛かった。
「……ッ~~」
声を押し殺して、俺はしゃがみ込む。
(傷は……ないな)
あれほどのあちこちにかすり傷を受けたはずなのに、今は傷一つなかった。
(どうなった……のか?)
痛みに途切れそうになる思考をどうにか繋ぎ合わせる。
(ルナリア達は……)
周囲を見回し、ふいにレイルの服の裾を視界の端に捉えた。
「ヨシュア! 起きたのか!」
レイルが駆けつけてくる。ルナリア達も一緒だ。ちゃんとクオンもいる。全員無事だった。
手には、荷物や食料らしきものを抱えていた。
「悪いな、目覚めた時にすぐそばにいてやれなくて。……どんだけ長期戦になるかわからないし、生き埋めになる可能性もあるから、食えるものは確保しておこうと思ってさ。あのゴブリン達、意外と食料持ってたぜ。全員お揃いのウエストポーチみたいなのつけててさ。あそこまで携行糧食持たせて、しっかりと訓練させてるって、奴らの主、相当凄かったんだろうな」
「待て……待ってくれ、レイル」
いろいろと話してくれるのは、嬉しいが、意識が飛んでからの状況がまったく掴めない。
「窮地は……脱したのか?」
「あーー…………」
レイルは、ロープで一つに縛った頭髪を掻いた。
「どうかなー……この状況を助かった、と言うのかどうか。ダンジョンは崩壊した。もう完膚なきまでに。マジで」
レイルは肩をすくめる。
「一つ下の階層にあるゴブリン達から掻っ払ったついでに、いろいろと調べようとしたんだが……通路とかないんじゃ、盗賊のレイル様の出番はないな」
「……はは、そうか。まあ、回復術師の出番もなさそうだ」
俺は苦笑しながら答えた。
「それで、敵のゴブリン達は?」
俺の質問に、レイルを含む五人はキョトンとした。
「あれって、お前が魔法でやったんだろ?」
「……まぁ、そうだけど……」
何をしたのかわからない。
ただ『回復』の対象がでたらめに広がっていたのだけは自覚していた。最悪の場合、暴走した回復魔法が、ただ単に敵のゴブリン達を癒やして終わり、ということさえあった。
レイルが指を立てながら説明を始めた。
「まず第一に、クオンやルナリア達は、床が修復された結果無事。ついでに傷も回復してた。んで次に、ゴブリン達は、修復された壁だの天井だのに……まあ、ひでえ有り様で死んだな」
よくわからず、俺は首を傾げた。
「例えばさ、天井から落ちた石片――」
レイルが腰のスリングを取り出し、小石を載せて、引っ張ったり、縮めたりした。
「あれが俺のスリング以上の速度で放たれたら……どうなる?」
「痛い、じゃ済まないだろうな」
「そういうことだ。まるで何本もの極小の矢で射抜かれたみたいだった。足元の石片が天井にまで上がり、その間にいたゴブリン達は、ズタズタだよ、ズタズタ」
凄まじい光景を思い出したのか、レイルは身震いした。
「……『回復』の対象を、そうか……」
確かに俺の回復魔法が暴走した結果だった。
「あとは、おんなじだ。どこかの誰かさんが意識を失ってたせいで、運ぶのはちょい大変だったがな」
「……助かったのか」
肩の力が抜け、安堵の息と共にそう言葉をゆっくりと吐き出す。
「そう言ってる」
「そうか、助かったのか」
「うん。お前のお陰だ」
頭をがしがしと撫でてくる荒っぽいレイルの手付きは、『女医』の異名を持つ師匠を思い出した。といっても、似ているのは豪放磊落そうな性格と、男っぽい女性であるという部分だけだが。
俺とレイルの間に割り込むように、ルナリアが近づいてきた。
「その……具合いは悪くありませんか?」
「…………いや。大丈夫だ」
正直、まだ体は痛いが、先程までの激痛ではない。
「本当ですか?」
まったく信じた様子もなく、ルナリアは心配そうにした。
「眠っている間も、苦しそうな顔をしてらっしゃいました」
(そうか……まあ、あれだけ全身に痛みが走れば、当然か……)
「――そうだな、正直言うと、体が少し痛むかな」
過少報告だが、本当のことを答えた。
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