上 下
67 / 111

第67話 静謐なる青の世界

しおりを挟む
 目覚めると、迫るマグマの赤と崩れるダンジョンの騒音とは対極の世界。
 青の世界。
 静寂の中、青い明かりが壁一面から放たれている。

 俺はたった一人で床に寝ていた。

 起き上がると、ここがあの古代魔法文明の遺跡だとわかった。

「ルー……ン? ~~ッッ!」

 わずかに声を出しただけで、全身が痛い。文字通り全身だ。喉も裂けそうな痛みに、喉元を押さえようとすれば、肩から肘まで痛み、動かした手の平まで痛かった。

「……ッ~~」

 声を押し殺して、俺はしゃがみ込む。

(傷は……ないな)

 あれほどのあちこちにかすり傷を受けたはずなのに、今は傷一つなかった。

(どうなった……のか?)

 痛みに途切れそうになる思考をどうにか繋ぎ合わせる。

(ルナリア達は……)

 周囲を見回し、ふいにレイルの服の裾を視界の端に捉えた。

「ヨシュア! 起きたのか!」

 レイルが駆けつけてくる。ルナリア達も一緒だ。ちゃんとクオンもいる。全員無事だった。
 手には、荷物や食料らしきものを抱えていた。

「悪いな、目覚めた時にすぐそばにいてやれなくて。……どんだけ長期戦になるかわからないし、生き埋めになる可能性もあるから、食えるものは確保しておこうと思ってさ。あのゴブリン達、意外と食料持ってたぜ。全員お揃いのウエストポーチみたいなのつけててさ。あそこまで携行糧食持たせて、しっかりと訓練させてるって、奴らの主、相当凄かったんだろうな」

「待て……待ってくれ、レイル」

 いろいろと話してくれるのは、嬉しいが、意識が飛んでからの状況がまったく掴めない。

「窮地は……脱したのか?」

「あーー…………」

 レイルは、ロープで一つに縛った頭髪を掻いた。

「どうかなー……この状況を助かった、と言うのかどうか。ダンジョンは崩壊した。もう完膚なきまでに。マジで」

 レイルは肩をすくめる。

「一つ下の階層にあるゴブリン達から掻っ払ったついでに、いろいろと調べようとしたんだが……通路とかないんじゃ、盗賊のレイル様の出番はないな」

「……はは、そうか。まあ、回復術師の出番もなさそうだ」

 俺は苦笑しながら答えた。

「それで、敵のゴブリン達は?」

 俺の質問に、レイルを含む五人はキョトンとした。

「あれって、お前が魔法でやったんだろ?」

「……まぁ、そうだけど……」

 何をしたのかわからない。
 ただ『回復』の対象がでたらめに広がっていたのだけは自覚していた。最悪の場合、暴走した回復魔法が、ただ単に敵のゴブリン達を癒やして終わり、ということさえあった。

 レイルが指を立てながら説明を始めた。

「まず第一に、クオンやルナリア達は、床が修復された結果無事。ついでに傷も回復してた。んで次に、ゴブリン達は、修復された壁だの天井だのに……まあ、ひでえ有り様で死んだな」

 よくわからず、俺は首を傾げた。

「例えばさ、天井から落ちた石片――」

 レイルが腰のスリングを取り出し、小石を載せて、引っ張ったり、縮めたりした。

「あれが俺のスリング以上の速度で放たれたら……どうなる?」

「痛い、じゃ済まないだろうな」

「そういうことだ。まるで何本もの極小の矢で射抜かれたみたいだった。足元の石片が天井にまで上がり、その間にいたゴブリン達は、ズタズタだよ、ズタズタ」

 凄まじい光景を思い出したのか、レイルは身震いした。

「……『回復』の対象を、そうか……」

 確かに俺の回復魔法が暴走した結果だった。

「あとは、おんなじだ。どこかの誰かさんが意識を失ってたせいで、運ぶのはちょい大変だったがな」

「……助かったのか」

 肩の力が抜け、安堵の息と共にそう言葉をゆっくりと吐き出す。

「そう言ってる」

「そうか、助かったのか」

「うん。お前のお陰だ」

 頭をがしがしと撫でてくる荒っぽいレイルの手付きは、『女医』の異名を持つ師匠を思い出した。といっても、似ているのは豪放磊落そうな性格と、男っぽい女性であるという部分だけだが。

 俺とレイルの間に割り込むように、ルナリアが近づいてきた。

「その……具合いは悪くありませんか?」

「…………いや。大丈夫だ」

 正直、まだ体は痛いが、先程までの激痛ではない。

「本当ですか?」

 まったく信じた様子もなく、ルナリアは心配そうにした。

「眠っている間も、苦しそうな顔をしてらっしゃいました」

(そうか……まあ、あれだけ全身に痛みが走れば、当然か……)

「――そうだな、正直言うと、体が少し痛むかな」

 過少報告だが、本当のことを答えた。

 レイルは「なんか青春だねぇ~」などとよくわからないことを呟きながら小さく笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

不遇の天才幻獣テイマー(笑)にざまぁされたほうのパーティリーダーですが、あいつがいなくなったあと別の意味で大変なことになっているんだが?!

あまね
ファンタジー
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 足手まといだからとハシタ金を投げつけられてパーティをクビになった僕は、いらない子扱いされたチビドラゴンを連れてひとり旅に出ました。 そのチビドラゴンはどうやら神龍の子供だったとかで、今は世界に数人しかいない幻獣テイマーとして三食昼寝付きの宮仕えの身です。 ちなみに元のパーティは、僕が置いてきた超低レベルの幻獣すら扱いきれず建物を半壊させて牢屋にブチ込まれたそうですよ? ヤレヤレʅ(◞‿◟)ʃ 〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 ――――というあらすじにでもなるのだろう。 俺、ライアンが解雇を告げたデンスに語らせれば。 しかし残された俺たちからしたらとんでもない。 幻獣テイマーだというのが自称に過ぎないというのは薄々気づいていたが…… ただでさえ金のかかるやつだったのに、離脱後に報奨金の私的流用が発覚! あいつが勝手に残していった幻獣が暴れたことの責任を被らされ!! しかもその幻獣は弱って死にかかっている?!!! おい、無責任にもほどがあるだろ!!!!!!!!!!!!!!!! 無双ものんびり生活もほど遠い堅実派の俺たちだが、このマンダちゃん(※サラマンダー)の命にかけて、お前のざまぁに物申す!

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

求:回復術師 〜絶対見捨てない為に、僕が今できる事〜

まめつぶいちご
ファンタジー
2-3日に1話更新! 【nola縦読み漫画原作大賞にて、優秀賞獲得】 【アルファポリスにてランキング5位獲得】 【DADAN Web小説コンテスト一次選考通過】 未曾有の大災害、医者である主人公は患者を助けるべく奔走するも、命の選択を『見殺し』だと言われ殺されてしまう。 二度と誰も見捨てるもんかと思いながら、回復術師として転生した世界は、回復術師の激減した世界だった。 バレないように回復術師として生きる主人公の冒険をお楽しみください。

その無能、実は世界最強の魔法使い 〜無能と蔑まれ、貴族家から追い出されたが、ギフト《転生者》が覚醒して前世の能力が蘇った〜

蒼乃白兎
ファンタジー
15歳になると、人々は女神様からギフトを授かる。  しかし、アルマはギフトを何も授かることは出来ず、実家の伯爵家から無能と蔑まれ、追い出されてしまう。  だが実はアルマはギフトを授からなかった訳では無かった。  アルマは既にギフト《転生者》を所持していたのだ──。  実家から追い出された直後にギフト《転生者》が発動し、アルマは前世の能力を取り戻す。  その能力はあまりにも大きく、アルマは一瞬にして世界最強の魔法使いになってしまった。  なにせアルマはギフト《転生者》の能力を最大限に発揮するために、一度目の人生を全て魔法の探究に捧げていたのだから。  無能と蔑まれた男の大逆転が今、始まる。  アルマは前世で極めた魔法を利用し、実家を超える大貴族へと成り上がっていくのだった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...