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第66話 膨大な魔力を操る声
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「それでいいのです、クオン。助け合って……助け合って生きて、いきましょう」
穴の縁にしゃがんだルナリアは、ロープを掴み、クオンを引っ張り上げようとしていた。 俺とレイルの手が塞がっている今、クオンを助けられるのは、ルナリア達しかいない。
「レイル。俺が矢を防ぐから、その間に」
「無茶言うな! 二人掛かりで矢を払い落として、やっとだぞ? しかも、足音と気配からして、まだまだゴブリン・アーチャーが来るみたいだ」
絶望的な状況だった。
最悪だった。
矢の雨は止まらず、かすり傷が俺とレイルにもどんどん増えていく。
「姉さん! 手を放して! 姉さんの肩の傷が開いて……」
「いやよ! カエデ、ベルトラントもお願い」
ルナリアも怪我をしているが、ベルトラントはかなり重傷だし、傷の位置が腹部とかなり悪い。カエデは矢の生えた足を引きずるようにして、ルナリアの元に急ぐ。
「クソッ――」
ゴブリン・アーチャー達は、この揺れ動くダンジョンの中、手を叩いて喜びの声を上げている。
ダンジョン崩壊の状況を忘れることで、一時の悦楽に浸っているのだろう。俺達が死にそうになっているのを見て、愉悦に浸り、暴力に酔っ払っている。
もし生き残ることを第一に考えるなら、互いに助け合うか、見て見ぬ振りをするのが一番だろうに。
「レイル! もうそろそろ例の古代魔法文明の遺跡だろ? そこにロープを投げてどうにかならないのか!?」
「上に逃げろ、ってか? 無茶言うなよ! ロープによじ登ってるところを狙い撃ちにされて終わりだ!」
ルナリア達三人が一箇所に集まったためだろう。
彼女らの足元で嫌な破砕音が響き、ひび割れが急速に広がっていく。
「――っ!? やべぇ! 逃げろ、お前ら!」
ルナリアの足元が崩壊しそうになる瞬間、俺は回復したわずかな魔力を振り絞って、回復魔法を使っていた。
考えなかったわけではない。
吊り橋を回復したように、足元を回復するという方法を。だが、そんな真似ができるほど、回復していなかったのだ。
(間に合え!)
理論上は、クオンの足元に落ちた床がせり上がるようになり、ルナリア達の崩れる寸前の足場も、元通りに戻るはずだ。
だが、わずかにひび割れが元に戻り、また再度ひび割れが広がっていくだけだった。
(――ダメだ! 全然魔力が……)
俺は、ゴブリンロード『心眼』の刀を握りしめ、念じる。
(頼む! 誰でもいい! 俺にできることなら、なんだってしてやる! だから助けてくれ! 俺に魔力を――!)
――【良いだろう】
ふいに声が聞こえた気がした。
――【代わりに言うことを聞いてもら――】
(――構わない! だからルナリア達を救う魔力を――!)
次の瞬間、俺の体に膨大な魔力が宿ったのを感じた。
それは心地良さとは対極、意識が飛びそうなほどの激痛だった。
もし魂というものがあるのなら、それがあまりの高密度の魔力に融解し、変質し、非可逆的な崩壊をもたらすのではないか、と思えるような強烈な痛みを伴った。
「ぐぅ――――っ!?!」
待ち望んだ魔力だったのに扱いきれない。予想を遥かに上回る尋常ならざる膨大な魔力だった。
(溢れ――)
回復対象が瞬く間に広がっていく。自分の意志を離れ。まるで回復魔法が『回復魔法』という名を持つ生き物であるかのように。
最初に『回復』の対象として指定していた床だけでなく、ルナリア達の傷、あげくゴブリン達の辺りまで「何か」を回復しようとした。何を回復に指定したのか、自分でもわからない。
(まずい――絞れない……もうこのまま行くしか……)
でないと、あまりの高密度の魔力に、俺はどうにかなる、確実にどうにかなってしまう。『心眼』などなくても、はっきりと感じた。
例えるなら、電流を欲し、雷に打たれ続けているような状況なのだ。
「――――ヒールッ!!!」
回復魔法を放った瞬間、大量の魔力が、全身から全方向に放出される感覚が起き、完全に――意識が飛んだ。
穴の縁にしゃがんだルナリアは、ロープを掴み、クオンを引っ張り上げようとしていた。 俺とレイルの手が塞がっている今、クオンを助けられるのは、ルナリア達しかいない。
「レイル。俺が矢を防ぐから、その間に」
「無茶言うな! 二人掛かりで矢を払い落として、やっとだぞ? しかも、足音と気配からして、まだまだゴブリン・アーチャーが来るみたいだ」
絶望的な状況だった。
最悪だった。
矢の雨は止まらず、かすり傷が俺とレイルにもどんどん増えていく。
「姉さん! 手を放して! 姉さんの肩の傷が開いて……」
「いやよ! カエデ、ベルトラントもお願い」
ルナリアも怪我をしているが、ベルトラントはかなり重傷だし、傷の位置が腹部とかなり悪い。カエデは矢の生えた足を引きずるようにして、ルナリアの元に急ぐ。
「クソッ――」
ゴブリン・アーチャー達は、この揺れ動くダンジョンの中、手を叩いて喜びの声を上げている。
ダンジョン崩壊の状況を忘れることで、一時の悦楽に浸っているのだろう。俺達が死にそうになっているのを見て、愉悦に浸り、暴力に酔っ払っている。
もし生き残ることを第一に考えるなら、互いに助け合うか、見て見ぬ振りをするのが一番だろうに。
「レイル! もうそろそろ例の古代魔法文明の遺跡だろ? そこにロープを投げてどうにかならないのか!?」
「上に逃げろ、ってか? 無茶言うなよ! ロープによじ登ってるところを狙い撃ちにされて終わりだ!」
ルナリア達三人が一箇所に集まったためだろう。
彼女らの足元で嫌な破砕音が響き、ひび割れが急速に広がっていく。
「――っ!? やべぇ! 逃げろ、お前ら!」
ルナリアの足元が崩壊しそうになる瞬間、俺は回復したわずかな魔力を振り絞って、回復魔法を使っていた。
考えなかったわけではない。
吊り橋を回復したように、足元を回復するという方法を。だが、そんな真似ができるほど、回復していなかったのだ。
(間に合え!)
理論上は、クオンの足元に落ちた床がせり上がるようになり、ルナリア達の崩れる寸前の足場も、元通りに戻るはずだ。
だが、わずかにひび割れが元に戻り、また再度ひび割れが広がっていくだけだった。
(――ダメだ! 全然魔力が……)
俺は、ゴブリンロード『心眼』の刀を握りしめ、念じる。
(頼む! 誰でもいい! 俺にできることなら、なんだってしてやる! だから助けてくれ! 俺に魔力を――!)
――【良いだろう】
ふいに声が聞こえた気がした。
――【代わりに言うことを聞いてもら――】
(――構わない! だからルナリア達を救う魔力を――!)
次の瞬間、俺の体に膨大な魔力が宿ったのを感じた。
それは心地良さとは対極、意識が飛びそうなほどの激痛だった。
もし魂というものがあるのなら、それがあまりの高密度の魔力に融解し、変質し、非可逆的な崩壊をもたらすのではないか、と思えるような強烈な痛みを伴った。
「ぐぅ――――っ!?!」
待ち望んだ魔力だったのに扱いきれない。予想を遥かに上回る尋常ならざる膨大な魔力だった。
(溢れ――)
回復対象が瞬く間に広がっていく。自分の意志を離れ。まるで回復魔法が『回復魔法』という名を持つ生き物であるかのように。
最初に『回復』の対象として指定していた床だけでなく、ルナリア達の傷、あげくゴブリン達の辺りまで「何か」を回復しようとした。何を回復に指定したのか、自分でもわからない。
(まずい――絞れない……もうこのまま行くしか……)
でないと、あまりの高密度の魔力に、俺はどうにかなる、確実にどうにかなってしまう。『心眼』などなくても、はっきりと感じた。
例えるなら、電流を欲し、雷に打たれ続けているような状況なのだ。
「――――ヒールッ!!!」
回復魔法を放った瞬間、大量の魔力が、全身から全方向に放出される感覚が起き、完全に――意識が飛んだ。
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