追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた

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第64話 油断と崩壊

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「――グギャッ!」

 先頭を走るゴブリンが眉間をスリングで撃ち抜かれたらしく、顔を押さえて倒れた。後方のゴブリンがそれに足を取られる。そのゴブリン達を踏みつけて、圧殺し、どすどすと足音を響かせて、ホブゴブリンが迫ってきた。

 俺は、ルナリア達に下がるように手で示し、前に出る。
 ホブゴブリンの耐久力だと、クオン達の攻撃が決まってもそのまま耐えきって、戦鎚で反撃してくる可能性が高い。そしてその戦鎚の一振りは、ルナリア達の命の灯火を消し去って余りある死の暴風だ。

 その荒れ狂う風のような戦鎚の連撃――。もうゴブリンロードは死んだはずなのに、一時的にでも麾下に入り強化された名残りが残っているらしい。ホブゴブリンの癖に、体力だけでなく、技術も確かにあった。

 だが――。

(――見える)

 恐ろしい暴風といえど、本物の風ではない。
 戦鎚は一本。
 ホブゴブリンの腕はたった二本。

(当たらない。絶対に)

 なぜかそう確信できる。
 眉間の間に、第三の目でも生まれたかのように、あらゆる動きに確信が持てた。

『ホブゴブリンは、一秒後に、二歩詰め寄って、じれたように大振りの攻撃を繰り出す。戦鎚の攻撃を避けているゴブリン達は、勝ちを確信し、無防備な姿をさらす――』

 そんな言葉が、まるで印字された書物の文字のように確実性を持って浮かぶ。

 そしてその通りにホブゴブリンが動いた。

 こちらは当然、大振りの攻撃の隙を突き、首を落とし――さらに後方のゴブリン達に詰め寄る。

 さすがにゴブリン・アーチャーは、上位種なだけあり、弓を放ってきた。
 一射。
 刀で弾く。
 二射目を許すような隙はこちらになかった。

 袈裟懸けに、弓ごと派手に真っ二つに斬り裂く。
 飛び散る緑の血飛沫の中、完全に場の空気に呑まれたゴブリンの残党を素早く狩った。

「――すげぇな、お前。……無茶苦茶腕上がってんじゃん!」

 レイルの称賛の声には、どこか畏怖も混じっていた。

 振り返った俺は、血濡れた刀を血振るいしながら、レイルを見つめた。

 なぜかレイルのいろいろなことまで見えそうな気がして、偏頭痛のようなものを感じ、頭を軽く振る。
 すると、『心眼』の名残りのようなものも完全に消え去った。

(……どうやら、完全に扱えてるわけじゃないみたいだな)

 それに元々『心眼』といえど、抜けている情報があれば、見抜けないこともある。あまり過信はしない方がいいだろう。
 強力な力なのは間違いないが。

 ゴブリンの一団を瞬く間に余裕を持って壊滅させ、レイルという優れた耳を持つ盗賊がいたので、周囲に敵がいないと安心しきってしまっていた。
 ダンジョンで安心など、片腹痛いと知っていたのに。

 次の瞬間、これまでの軽い揺れとは比較にならない大きな揺れが起こった。
 元々、下の階層と繋がるほど床の岩盤が弱くなっていたせいもあって、いきなりクオンの足元が崩れた。

「クオン――――ッ!!」
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