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第60話 ダンジョンの崩壊は近く
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(たかがゴブリンが死んだだけだ。これまでに何匹も殺してきた)
自らを偽ってそう思い込もうとしても、一向に気持ちが晴れない。ルナリア達を率いて逃げなければならないのに。
そんな俺に、クオンの冷静な言葉が掛かった。
「逃げましょう、ヨシュア様。……もう脱出は不可能かも知れませんが、それでも」
「…………っ」
俺は、当たり前のことを指摘されただけなのに、八つ当たりしそうになる。なんとかとどまる俺に、クオンが再度話しかけてくる。
「逃げないと」
「クオンは! あいつがゴブリンだから、そんな風に冷静に言えるんだ!」
「ええ。そうです」
「っ!?」
「僕にはできることに限りがある! だから命にだって優先順位をつける!! 僕は姉さんを助けたい。カエデもベルトラントも、命の恩人であるヨシュアのこともだ!! だから今は冷静になって、逃げることを考えるべきだ!」
クオンは初めて呼び捨てにしてきた。
ルナリアが珍しく話に割って入ってきた。
「逃げましょう、ヨシュア様。――私は家に帰らなければなりません。母がいます。重い病で臥せたままの母が。私は助けたいのです!」
「ここにいても、もうできることはございません、どうかヨシュア様冷静に」
「ヨシュア様、どうかお願いします」
ベルトラントとカエデも話に加わる。
やっとその時になって自分が、相当我を忘れているという事実に気づけた。普段できる限り冷静に「回復術師ヨシュア」として振る舞っていたのだ。
回復術師に大切なのは、戦況を読む冷静さ。一歩離れた視点だ。
だが、つい先程までは、「素のままのヨシュア」になっていたのだ。
大きく深呼吸すると、やや冷静になれた。
冷静になって当たりを見回すと酷い有り様だった。
溶岩の水位が上がってきているのか、辺りは徐々に熱くなり、いまだに地割れが続き、天井はぼろぼろと崩れている真っ最中。
間違いなく、覚えたダンジョンのルートは役に立たないだろう。
「逃げるにしても、もう……」
手遅れだと言いたくなるほどの状況だった。
とりあえず二つある出入口のどちらに向かうかという問題もある。
どうするか、と顔を見合わせる俺達。
「片方は、僕らが来た方ですね。もう片方は?」
クオンの問いに俺は、少し考え込んでから答えた。
「――古竜の封印された古代魔法文明の遺跡のある方に繋がってるはずだ。あと、レイルっていう俺のかつての仲間もそっちに逃げた。まあ、今頃は、だいぶ先に進んでダンジョンから脱出できそうになっているかもしれないが……」
「そうなのですね、えっ……古竜? 古代魔法文明の遺跡?」
ルナリアは相槌を打ったが、固まった。
それはそうだろう。クオン以外には説明していなかったのだ。
もう今のような最悪最低な状況になって、情報を伏せておく理由もなかった。むしろ、伝えておいた方が無難だろう。
「……一応、伝えておくと、どっちに進んでも、この壊滅的な状況だと、脱出は間に合わない……と思う」
と思う、などと付け足したが、確信していた。
『心眼』にでも目覚めつつあるのか、うっすらとだが、これからの状況が予測できた。
――どっちのルートを選んでも、「死ぬ」。
まるで書物に描かれた物語を読むように確信が持てるのだ。
「…………」
クオンは必死に考え込んでいる。ベルトラント達もそうだ。
ルナリアだけは俺の顔をじっと見上げていた。
「……とりあえず古代魔法文明の遺跡のある方に向かおう」
俺は、当ても根拠もないがそう提案した。
唯一の理由は、古代魔法文明の遺跡は、千年経っても劣化してようにも見えず残っていたからだ。
あそこなら、ひょっとしたらこのダンジョンの壊滅から免れるかもしれない。
俺を先頭に駆け出した俺達の前に、出入口から影が飛び込んできた。
かなり土埃を被っていたが、それでも見間違えようもない。
「――レイルっ!?」
まさかの再会に俺は驚いた。
自らを偽ってそう思い込もうとしても、一向に気持ちが晴れない。ルナリア達を率いて逃げなければならないのに。
そんな俺に、クオンの冷静な言葉が掛かった。
「逃げましょう、ヨシュア様。……もう脱出は不可能かも知れませんが、それでも」
「…………っ」
俺は、当たり前のことを指摘されただけなのに、八つ当たりしそうになる。なんとかとどまる俺に、クオンが再度話しかけてくる。
「逃げないと」
「クオンは! あいつがゴブリンだから、そんな風に冷静に言えるんだ!」
「ええ。そうです」
「っ!?」
「僕にはできることに限りがある! だから命にだって優先順位をつける!! 僕は姉さんを助けたい。カエデもベルトラントも、命の恩人であるヨシュアのこともだ!! だから今は冷静になって、逃げることを考えるべきだ!」
クオンは初めて呼び捨てにしてきた。
ルナリアが珍しく話に割って入ってきた。
「逃げましょう、ヨシュア様。――私は家に帰らなければなりません。母がいます。重い病で臥せたままの母が。私は助けたいのです!」
「ここにいても、もうできることはございません、どうかヨシュア様冷静に」
「ヨシュア様、どうかお願いします」
ベルトラントとカエデも話に加わる。
やっとその時になって自分が、相当我を忘れているという事実に気づけた。普段できる限り冷静に「回復術師ヨシュア」として振る舞っていたのだ。
回復術師に大切なのは、戦況を読む冷静さ。一歩離れた視点だ。
だが、つい先程までは、「素のままのヨシュア」になっていたのだ。
大きく深呼吸すると、やや冷静になれた。
冷静になって当たりを見回すと酷い有り様だった。
溶岩の水位が上がってきているのか、辺りは徐々に熱くなり、いまだに地割れが続き、天井はぼろぼろと崩れている真っ最中。
間違いなく、覚えたダンジョンのルートは役に立たないだろう。
「逃げるにしても、もう……」
手遅れだと言いたくなるほどの状況だった。
とりあえず二つある出入口のどちらに向かうかという問題もある。
どうするか、と顔を見合わせる俺達。
「片方は、僕らが来た方ですね。もう片方は?」
クオンの問いに俺は、少し考え込んでから答えた。
「――古竜の封印された古代魔法文明の遺跡のある方に繋がってるはずだ。あと、レイルっていう俺のかつての仲間もそっちに逃げた。まあ、今頃は、だいぶ先に進んでダンジョンから脱出できそうになっているかもしれないが……」
「そうなのですね、えっ……古竜? 古代魔法文明の遺跡?」
ルナリアは相槌を打ったが、固まった。
それはそうだろう。クオン以外には説明していなかったのだ。
もう今のような最悪最低な状況になって、情報を伏せておく理由もなかった。むしろ、伝えておいた方が無難だろう。
「……一応、伝えておくと、どっちに進んでも、この壊滅的な状況だと、脱出は間に合わない……と思う」
と思う、などと付け足したが、確信していた。
『心眼』にでも目覚めつつあるのか、うっすらとだが、これからの状況が予測できた。
――どっちのルートを選んでも、「死ぬ」。
まるで書物に描かれた物語を読むように確信が持てるのだ。
「…………」
クオンは必死に考え込んでいる。ベルトラント達もそうだ。
ルナリアだけは俺の顔をじっと見上げていた。
「……とりあえず古代魔法文明の遺跡のある方に向かおう」
俺は、当ても根拠もないがそう提案した。
唯一の理由は、古代魔法文明の遺跡は、千年経っても劣化してようにも見えず残っていたからだ。
あそこなら、ひょっとしたらこのダンジョンの壊滅から免れるかもしれない。
俺を先頭に駆け出した俺達の前に、出入口から影が飛び込んできた。
かなり土埃を被っていたが、それでも見間違えようもない。
「――レイルっ!?」
まさかの再会に俺は驚いた。
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