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第59話 ゴブリンロード『心眼』の本心

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「例え、天界に逝ってもお前達の顔は忘れない」

 ゴブリンロード『心眼』のその言葉は、感謝以外の何ものでもなかった。人間から見れば、醜く顔を歪めたようにしか見えないが、そこに浮かぶのは満面の笑みだったのだろう。

「なあ、ヨシュア……もし我が人に生まれていたら、一緒に冒険者パーティーを組みたかった……」

 ゴブリンロード『心眼』はそう零した。本心を打ち明けるように。
 彼は悟っているのだ。
 このままでは俺も落ちる。ルナリアもだ。クオンとベルトラントとカエデの三人がどうにか支えてくれているが、限界は近い。全員が疲労の極地にある。それに女と老人が半数以上だ。無理があった。

「――ありがとう、ヨシュア」

 すべてを悟った、予期した、まさに『心眼』の名に相応しい態度だった。

「手を放せ、ヨシュア」

「できないっ!」

「だろうな。お前はそういう奴だ。……『なぜあのレイルという女を助けに来たのか』……今思えば、なんと、くだらない問いか……」

 ゴブリンロード『心眼』は苦笑した後、満面の笑みを浮かべた。

「良かった。本当に良かったぞ、お前に会えて。……――さらばだ」

 ゴブリンロード『心眼』は、唯一の解決策を――俺達五人の人間が助かる手段を選んだ。

 ゴブリンロード『心眼』は刀を抜いた。
 美しい――そう感じるほどの素早い閃き。

 俺が掴んでいたゴブリンロード『心眼』の腕が、途中で切れた。

 ゴブリンロード『心眼』は自らの腕を叩き斬ったのだ。
 自らの腕を斬る瞬間もゴブリンロード『心眼』は、俺に向かって笑みを浮かべていた。

 俺は――――

 ――――これが『心眼』なのかわからないが、何かを幻視しかけた。

 不思議な感覚に思考が奪われた一瞬後、背後で何か音がした。
 ゴブリンロード『心眼』がゆっくりと落ちていく……。何かを投げた体勢で。
 手に刀はなく、腰に鞘もなかった。先程の音の正体は、鞘に収めた刀を投げた音だと気づいた。

 ちょうど巨大な揺れが起き、クオン達に引っ張られて危険な裂け目から遠ざかった。俺とルナリアの二人だけだったので、なんとか三人でも引き上げられたらしい。

 呆然とした俺は、落ちているゴブリンロード『心眼』の刀に気づいた。
 と、同時に、マグマに何かが落ちる音が聞こえた。

 ベルトラントがわっと泣き出した。
 拳を何度も地面に叩きつける。

「わたくしがもっと早く引き上げようとしていれば……っ!!」

「私も、です。……判断に迷わなければ、あのゴブリンロードを助けられたかもしれません」

 カエデも悲しそうだった。
 彼らがゴブリンロード『心眼』を助けるようにすぐには動けなかったのは、仕方のないことだ。
 人間とゴブリンの確執、これまでの争いの歴史を考えれば、それが普通なのだ。
 自分に言い聞かせるように繰り返し思う。

 俺はゴブリンロード『心眼』の刀を拾った。

 最強のゴブリンロード。
 そして、心優しき異端のゴブリン。自ら死を選んだゴブリン。

「くそっ!!」

 俺は怒鳴り、地面を殴りつけていた。
 言いようのない怒り、悲しみが満ちる。

 ゴブリンだが、確かにわかり合えたゴブリンロードの姿が浮かぶ。包帯を目に巻いたあの姿で。

「くそぉおおお――――!!」
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