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第48話 誤算
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鞘による俺の一撃を、ゴブリンロード『心眼』は革の肩当てで、避ける素振りも見せず受けた。
ゴブリンロード『心眼』の対応をいろいろと予想していたが、これは予想外だ。
ゴブリンロード『心眼』ならば、攻撃に使われたのが、刀か鞘か瞬時に見抜くとは思っていた。
だが、まったく脅威にも感じていないというような無造作な対応は予想外で、狙いが外れてしまった。
(ちっ――。しくじった)
俺の膂力はスヴェンに比べれば圧倒的に弱い上に、木製の鞘では、ゴブリンロード『心眼』にとって脅威ではないのだろう。
ゴブリンロード『心眼』の反撃をどうにか凌ぐ。相変わらず鋭いが、気迫のない太刀筋だ。
(もう一度――っ!)
次の瞬間踏み込み、鞘を振るう。
ゴブリンロード『心眼』は、鞘の攻撃を無視し、攻撃してくる。俺は刀で、ゴブリンロード『心眼』の刃を受け流す。
単調な攻めと防御が、十合ほど繰り返される。
やがてゴブリンロード『心眼』から間合いを取った。
「――興醒めだな」
一つ目の描かれた包帯の下の口を歪め、吐き捨てるように言った。
「勝てる可能性があると豪語しておいて、その程度か……」
ゴブリンロード『心眼』は、盲目であるはずなのにまっすぐに俺の鞘を指差した。
「鞘を武器とした機転は一応褒めてやろう。鞘を武器として攻め、刀を盾として守る。その上、防御に徹すれば……なるほど、並みのゴブリンロード相手に一対一であれば、時間稼ぎくらいはできるかもしれん」
一転して、ゴブリンロード『心眼』の憤怒が、空間に満ちる。
数百匹のゴブリン達の歓声や怒声が一気に静まり、恐怖に喘ぐような声がいくつも上がる。通常のゴブリンは元より、上位種のゴブリンですら萎縮していた。
凄まじい殺気。信じられないほどの怒りの発露だった。
「――もう……殺す」
いきなりゴブリンロード『心眼』は吐き捨てた。
「戯言をしゃべり、時間稼ぎをし、防御に徹して、またも時間稼ぎをするゴミ屑の如き人間を殺し、ついでに逃げたあの女も男の二人組も、いいや、貴様が助けた元奴隷の人間達も、皆殺しにしてやる」
それは確信を伴った声だった。
確実にできる、と信じているのだろう。
山狩りでもなんでもしそうだった。
「今更追いつけるか? とか思っているか?」
いいや、そんなことは思っていなかった。
このゴブリンロード『心眼』の統率力となれば、不眠不休で追撃くらい普通にこなすだろう。そう確信させるものがあったし、これまでのゴブリン達の様子を見れば、それが容易に想像がついた。
最寄りの村までは遠い。仮に村まで逃げ込めても、その村ごと焼き払いそうな気さえした。
ただ、一つだけ。
たった一つだけだが、ゴブリンロード『心眼』について疑問がずっと燻ぶっていた。
俺は問いかけた。
「なぜだ」
「――――」
ゴブリンロード『心眼』はもう口車にも時間稼ぎにも乗らないというかのように、沈黙したまま刀を構えた。
今までの自然体とは違う。はっきりとした構え。攻撃の意思表示だった。
こちらが質問を続けようが、こちらが応戦の構えを見せまいが、次の瞬間、俺を斬り殺すという明確な意思表示だった。
それでも俺は、疑問を口にすることにした。
答えてほしいという思いが半分、「まだおしゃべりで時間稼ぎをするつもりか」と怒りに我を忘れてくれれば、俺の秘策の成功率がわずかとはいえ上がるという期待が半分。
先程までの冷静なゴブリンロード『心眼』が相手では、奇策の前提条件さえ満たすことができず、起死回生の一撃など狙えなかったのだ。
ゴブリンロード『心眼』の対応をいろいろと予想していたが、これは予想外だ。
ゴブリンロード『心眼』ならば、攻撃に使われたのが、刀か鞘か瞬時に見抜くとは思っていた。
だが、まったく脅威にも感じていないというような無造作な対応は予想外で、狙いが外れてしまった。
(ちっ――。しくじった)
俺の膂力はスヴェンに比べれば圧倒的に弱い上に、木製の鞘では、ゴブリンロード『心眼』にとって脅威ではないのだろう。
ゴブリンロード『心眼』の反撃をどうにか凌ぐ。相変わらず鋭いが、気迫のない太刀筋だ。
(もう一度――っ!)
次の瞬間踏み込み、鞘を振るう。
ゴブリンロード『心眼』は、鞘の攻撃を無視し、攻撃してくる。俺は刀で、ゴブリンロード『心眼』の刃を受け流す。
単調な攻めと防御が、十合ほど繰り返される。
やがてゴブリンロード『心眼』から間合いを取った。
「――興醒めだな」
一つ目の描かれた包帯の下の口を歪め、吐き捨てるように言った。
「勝てる可能性があると豪語しておいて、その程度か……」
ゴブリンロード『心眼』は、盲目であるはずなのにまっすぐに俺の鞘を指差した。
「鞘を武器とした機転は一応褒めてやろう。鞘を武器として攻め、刀を盾として守る。その上、防御に徹すれば……なるほど、並みのゴブリンロード相手に一対一であれば、時間稼ぎくらいはできるかもしれん」
一転して、ゴブリンロード『心眼』の憤怒が、空間に満ちる。
数百匹のゴブリン達の歓声や怒声が一気に静まり、恐怖に喘ぐような声がいくつも上がる。通常のゴブリンは元より、上位種のゴブリンですら萎縮していた。
凄まじい殺気。信じられないほどの怒りの発露だった。
「――もう……殺す」
いきなりゴブリンロード『心眼』は吐き捨てた。
「戯言をしゃべり、時間稼ぎをし、防御に徹して、またも時間稼ぎをするゴミ屑の如き人間を殺し、ついでに逃げたあの女も男の二人組も、いいや、貴様が助けた元奴隷の人間達も、皆殺しにしてやる」
それは確信を伴った声だった。
確実にできる、と信じているのだろう。
山狩りでもなんでもしそうだった。
「今更追いつけるか? とか思っているか?」
いいや、そんなことは思っていなかった。
このゴブリンロード『心眼』の統率力となれば、不眠不休で追撃くらい普通にこなすだろう。そう確信させるものがあったし、これまでのゴブリン達の様子を見れば、それが容易に想像がついた。
最寄りの村までは遠い。仮に村まで逃げ込めても、その村ごと焼き払いそうな気さえした。
ただ、一つだけ。
たった一つだけだが、ゴブリンロード『心眼』について疑問がずっと燻ぶっていた。
俺は問いかけた。
「なぜだ」
「――――」
ゴブリンロード『心眼』はもう口車にも時間稼ぎにも乗らないというかのように、沈黙したまま刀を構えた。
今までの自然体とは違う。はっきりとした構え。攻撃の意思表示だった。
こちらが質問を続けようが、こちらが応戦の構えを見せまいが、次の瞬間、俺を斬り殺すという明確な意思表示だった。
それでも俺は、疑問を口にすることにした。
答えてほしいという思いが半分、「まだおしゃべりで時間稼ぎをするつもりか」と怒りに我を忘れてくれれば、俺の秘策の成功率がわずかとはいえ上がるという期待が半分。
先程までの冷静なゴブリンロード『心眼』が相手では、奇策の前提条件さえ満たすことができず、起死回生の一撃など狙えなかったのだ。
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