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第44話 なぜなのか?
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「……人間が、興味深いのか?」
俺の問いに、常に余裕の態度を崩さなかったゴブリンロード『心眼』がわずかに驚いたような様子を露わにした。
「……ああ。その通りだ」
ゴブリンロード『心眼』は、額にあった一つ目の描かれた鉢巻きのようなものを、目元に動かした。
まるでその一つ目でこちらを見つめているかのように。
強烈な圧力を感じた。
異常な風体のゴブリンロードだった。
「――人間は、興味深い」
ぞわっとした鳥肌が立つ。
気づけば、俺は後ろに一歩足を動かしていた。
本能的に恐怖を感じたのだと遅れて気づいた。
刀の柄に伸ばした手が、かすかに震えて、カタカタと剣帯が音を立てている。
「――何を見せてくれるのか」
ゴブリンロード『心眼』が一歩踏み込む。
俺は一歩下がる。――そう意識したわけではなく、恐怖やプレッシャーのようなものに押し込まれるように。
「――刀という武器は面白い」
ゴブリンロード『心眼』の話題が飛んだ。気安い口調だ。先程までの鬼気迫る感じがやや薄まる。
「直剣よりも奥が深いと感じた。決して直剣よりも勝っているとは言い切れない。両手剣のような威力は望めないしな」
ゴブリンロード『心眼』がゆっくりと踏み込む。
俺は下がる。
「俺が刀を持っていると配下から聞いたから、一騎討ちの提案をしたのか?」
「――それもある」
ゴブリンロード『心眼』の踏み込むタイミングが早まった。
そして一歩ではなく、二歩、三歩と近づいてくる。
俺は鼓動が早くなり、素早く後ろに下がった。
「――お前は、逃してやった二人組の男ともあの囚われの女とも違う」
スヴェンとフォルネウス、レイルのことだろう。
逃げ切ったのではなく、逃してやった。つまり、スヴェン達は俺をここまでおびき寄せるための撒き餌だったのだ。
そのことに気づき、さらなる恐怖が襲ってくる。恐怖を警戒心と適度な緊張感に昇華する。
どうにか平常心をぎりぎり保てるのは、冒険者生活で極限状況を何度も経験したお陰だろう。スヴェン達に感謝するつもりはないが、それでも彼らとの酷い日々で学んだことは少なくない。
「――なぜ助けに来た? ここが危険な場所だということくらいわかったはずだ。助けるのは難しいと直感していたはずだ」
まるでレイルのようなことを問いかけてくるゴブリンロード『心眼』。
「――なぜ? ――なぜ? ――なぜ? ――な……」
「なぜ」と尋ねるたびに踏み込むゴブリンロードに押され、俺は後ろ歩きしていた。そして、当然のように背中が何かにぶつかる。
壁にぶつかった、と思ったが、振り向くと、それは体長二メートルはありそうな屈強なホブゴブリンだった。
どうやら出入口のそばにまで下がってしまっていたらしい。
ホブゴブリンが戦鎚を両手で振り上げる。
俺の頭上に振り下ろす気なのは、その筋肉が隆々と脈打つように動いた様子でわかった。凄まじい力が籠もっている。
いつもなら回避すべきだと思考するまでもなく、避けるように体が動くのだが、前方にいたゴブリンロード『心眼』が凄まじい速さで踏み込んできたため――
(戦鎚、避け――いや、『心眼』の刀を――)
――混乱してしまった。
場の空気に呑まれてしまっていたのだ。熟練冒険者でも稀に陥る絶対に避けなければならない最大級のミス。
ゴブリンロード『心眼』が残像を残し居合抜きする姿を、なんとか目で捉えることができた――ただそれだけだった。
俺は指一本動かすこともできず、当然そのゴブリンロードの居合抜きを刀で弾くことも、避けることもできなかった……。
俺の問いに、常に余裕の態度を崩さなかったゴブリンロード『心眼』がわずかに驚いたような様子を露わにした。
「……ああ。その通りだ」
ゴブリンロード『心眼』は、額にあった一つ目の描かれた鉢巻きのようなものを、目元に動かした。
まるでその一つ目でこちらを見つめているかのように。
強烈な圧力を感じた。
異常な風体のゴブリンロードだった。
「――人間は、興味深い」
ぞわっとした鳥肌が立つ。
気づけば、俺は後ろに一歩足を動かしていた。
本能的に恐怖を感じたのだと遅れて気づいた。
刀の柄に伸ばした手が、かすかに震えて、カタカタと剣帯が音を立てている。
「――何を見せてくれるのか」
ゴブリンロード『心眼』が一歩踏み込む。
俺は一歩下がる。――そう意識したわけではなく、恐怖やプレッシャーのようなものに押し込まれるように。
「――刀という武器は面白い」
ゴブリンロード『心眼』の話題が飛んだ。気安い口調だ。先程までの鬼気迫る感じがやや薄まる。
「直剣よりも奥が深いと感じた。決して直剣よりも勝っているとは言い切れない。両手剣のような威力は望めないしな」
ゴブリンロード『心眼』がゆっくりと踏み込む。
俺は下がる。
「俺が刀を持っていると配下から聞いたから、一騎討ちの提案をしたのか?」
「――それもある」
ゴブリンロード『心眼』の踏み込むタイミングが早まった。
そして一歩ではなく、二歩、三歩と近づいてくる。
俺は鼓動が早くなり、素早く後ろに下がった。
「――お前は、逃してやった二人組の男ともあの囚われの女とも違う」
スヴェンとフォルネウス、レイルのことだろう。
逃げ切ったのではなく、逃してやった。つまり、スヴェン達は俺をここまでおびき寄せるための撒き餌だったのだ。
そのことに気づき、さらなる恐怖が襲ってくる。恐怖を警戒心と適度な緊張感に昇華する。
どうにか平常心をぎりぎり保てるのは、冒険者生活で極限状況を何度も経験したお陰だろう。スヴェン達に感謝するつもりはないが、それでも彼らとの酷い日々で学んだことは少なくない。
「――なぜ助けに来た? ここが危険な場所だということくらいわかったはずだ。助けるのは難しいと直感していたはずだ」
まるでレイルのようなことを問いかけてくるゴブリンロード『心眼』。
「――なぜ? ――なぜ? ――なぜ? ――な……」
「なぜ」と尋ねるたびに踏み込むゴブリンロードに押され、俺は後ろ歩きしていた。そして、当然のように背中が何かにぶつかる。
壁にぶつかった、と思ったが、振り向くと、それは体長二メートルはありそうな屈強なホブゴブリンだった。
どうやら出入口のそばにまで下がってしまっていたらしい。
ホブゴブリンが戦鎚を両手で振り上げる。
俺の頭上に振り下ろす気なのは、その筋肉が隆々と脈打つように動いた様子でわかった。凄まじい力が籠もっている。
いつもなら回避すべきだと思考するまでもなく、避けるように体が動くのだが、前方にいたゴブリンロード『心眼』が凄まじい速さで踏み込んできたため――
(戦鎚、避け――いや、『心眼』の刀を――)
――混乱してしまった。
場の空気に呑まれてしまっていたのだ。熟練冒険者でも稀に陥る絶対に避けなければならない最大級のミス。
ゴブリンロード『心眼』が残像を残し居合抜きする姿を、なんとか目で捉えることができた――ただそれだけだった。
俺は指一本動かすこともできず、当然そのゴブリンロードの居合抜きを刀で弾くことも、避けることもできなかった……。
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