36 / 111
第36話 遭遇
しおりを挟む
想像以上に揺れの影響は大きく、ダンジョンの一部が崩れて、迂回しなければならない通路もあった。
「予想より時間が掛かりそうな様子でございますね」
ベルトラントが珍しく後ろから話しかけてきた。
隊列は俺、ルナリア、ベルトラント、カエデ、クオンという順番だ。
振り返った俺は、ベルトラントがかなり汗をかいていることに気づいた。
年の割には張りのあった額に、苦しそうな深い皺が寄り、玉の汗が浮かんでいる。
ルナリアも息が上がっていた。
「…………休みますか?」
古竜の封印された古代魔法時代の遺跡で休憩を取ることにわずかに躊躇したものの、俺はそう二人に向かって質問した。あまり休憩を取りたくない理由は、ゴブリンと古竜、古代魔法時代の遺跡だけではない。断続的な揺れを何度も感じているためだ。
(地震……火山の噴火……それとも古竜の封印が…………)
様々な憶測が脳裏に浮かぶ。
ルナリアが俺に答えた。
「いいえ、ヨシュア様。このまま進みましょう。――そうでしょう、ベルトラント?」
「はい、お嬢様のおっしゃる通りです。どうぞヨシュア様、わたくし達のことはお気になさらないでください」
「でも……」
「ヨシュア様もクオンも優しい人です。それなのに小休止を少し入れた程度で、ここまで急いでいる。それだけの理由がおありなのでしょう?」
つい理由を答えたくなった俺は口を開きかけたが、これ以上負担をかけないために口を閉じた。
(……どうする? 休憩を入れるか?)
二人が倒れるようなことがあっては元も子もない。
「休憩を入れましょう」
俺の提案に、思わずほっとした表情を浮かべたルナリアとベルトラントの様子に微笑みそうになった瞬間、重い足音が聞こえてきた。
俺は刀の柄に手を掛け、背後に手の平を向けて無言で下がるように指示を出す。
クオンは俺に向かって一歩踏み出したが、俺が首を振ると、背後の警戒についてくれた。
ダンジョン内は俺達にとっては迷路だが、ここを棲み処にしているゴブリンにとっては、回り込んで挟撃するなど造作もないだろう。
(二人か……一人は鎧……ゴブリンにしては重い足音なのは、ホブゴブリンが全身鎧を着ているためか?)
だとしたら強敵だ。
はっきり言って逃げ場のない狭い通路で、背後の味方を守りながら、体力と腕力に優れた相手と戦うなど避けたい。
松明の炎をつけたのか、いきなりチカチカと赤色が前方の暗闇に瞬いた。
「――――っ!」
咄嗟に俺は背後に向かって跳んだ。ルナリアとベルトラントを押し倒しながら――
「――伏せろッ!!」
――大声で呼びかける。
火炎系魔法の輝きだと瞬間的に判断して動けたのは、以前所属していた冒険者パーティー「暁」の魔術師フォルネウスの炎に巻き込まれそうになったことが何回もあったためだ。
突然のことに棒立ちになるカエデに、前方から放射される真紅の炎が直撃する――一瞬前にクオンはカエデを押し倒すことに成功した。
ルナリアとベルトラントを地面に押さえつけたままそれを確認した俺は、ほっと息をつきかけたが、後頭部の髪を焼くチリチリとした感触で厳しい現実に引き戻される。直撃ではなく、余波でこの熱。しかも魔法の炎の発現から発射までのタイムラグがほとんどなかった。
(ゴブリン・メイジ!? しかもでたらめに強いぞ!)
ゴブリンの上位種が恐ろしいのは、単体の時ではなく、軍隊になった時だ。例えばゴブリン・ライダーをあっさり倒したが、もし奴らが平原で陣形を組んで襲ってきたら、さすがに対応しきれなかっただろう。
単体でこの強さのゴブリン・メイジなどそれなりに長い冒険者生活でも初めてだった。
(――最悪だ。この通路で火炎の渦を巻き起こせるほどのゴブリン・メイジと遭遇するなんて)
「ちっ!」とどこか聞き慣れた舌打ちが聞こえ、迫ってくる全身鎧の足音。こちらの回避したケースを予測し、火炎の渦の後を追うように迫ってきていたのだろう。
効果的な連携だった。
(まずいっ!)
ルナリアとベルトラントをかばうため、敵に背を向けてうつ伏せに倒れてしまっていた。
武器を敵に向けづらく、背中ががら空きというこれ以上ないほど最悪な体勢だった。
「ヨシュア様ぁあっ!!」
ルナリアの叫びと、剛剣を振り上げる凄まじい風切り音が聞こえたのは同時だった――。
「予想より時間が掛かりそうな様子でございますね」
ベルトラントが珍しく後ろから話しかけてきた。
隊列は俺、ルナリア、ベルトラント、カエデ、クオンという順番だ。
振り返った俺は、ベルトラントがかなり汗をかいていることに気づいた。
年の割には張りのあった額に、苦しそうな深い皺が寄り、玉の汗が浮かんでいる。
ルナリアも息が上がっていた。
「…………休みますか?」
古竜の封印された古代魔法時代の遺跡で休憩を取ることにわずかに躊躇したものの、俺はそう二人に向かって質問した。あまり休憩を取りたくない理由は、ゴブリンと古竜、古代魔法時代の遺跡だけではない。断続的な揺れを何度も感じているためだ。
(地震……火山の噴火……それとも古竜の封印が…………)
様々な憶測が脳裏に浮かぶ。
ルナリアが俺に答えた。
「いいえ、ヨシュア様。このまま進みましょう。――そうでしょう、ベルトラント?」
「はい、お嬢様のおっしゃる通りです。どうぞヨシュア様、わたくし達のことはお気になさらないでください」
「でも……」
「ヨシュア様もクオンも優しい人です。それなのに小休止を少し入れた程度で、ここまで急いでいる。それだけの理由がおありなのでしょう?」
つい理由を答えたくなった俺は口を開きかけたが、これ以上負担をかけないために口を閉じた。
(……どうする? 休憩を入れるか?)
二人が倒れるようなことがあっては元も子もない。
「休憩を入れましょう」
俺の提案に、思わずほっとした表情を浮かべたルナリアとベルトラントの様子に微笑みそうになった瞬間、重い足音が聞こえてきた。
俺は刀の柄に手を掛け、背後に手の平を向けて無言で下がるように指示を出す。
クオンは俺に向かって一歩踏み出したが、俺が首を振ると、背後の警戒についてくれた。
ダンジョン内は俺達にとっては迷路だが、ここを棲み処にしているゴブリンにとっては、回り込んで挟撃するなど造作もないだろう。
(二人か……一人は鎧……ゴブリンにしては重い足音なのは、ホブゴブリンが全身鎧を着ているためか?)
だとしたら強敵だ。
はっきり言って逃げ場のない狭い通路で、背後の味方を守りながら、体力と腕力に優れた相手と戦うなど避けたい。
松明の炎をつけたのか、いきなりチカチカと赤色が前方の暗闇に瞬いた。
「――――っ!」
咄嗟に俺は背後に向かって跳んだ。ルナリアとベルトラントを押し倒しながら――
「――伏せろッ!!」
――大声で呼びかける。
火炎系魔法の輝きだと瞬間的に判断して動けたのは、以前所属していた冒険者パーティー「暁」の魔術師フォルネウスの炎に巻き込まれそうになったことが何回もあったためだ。
突然のことに棒立ちになるカエデに、前方から放射される真紅の炎が直撃する――一瞬前にクオンはカエデを押し倒すことに成功した。
ルナリアとベルトラントを地面に押さえつけたままそれを確認した俺は、ほっと息をつきかけたが、後頭部の髪を焼くチリチリとした感触で厳しい現実に引き戻される。直撃ではなく、余波でこの熱。しかも魔法の炎の発現から発射までのタイムラグがほとんどなかった。
(ゴブリン・メイジ!? しかもでたらめに強いぞ!)
ゴブリンの上位種が恐ろしいのは、単体の時ではなく、軍隊になった時だ。例えばゴブリン・ライダーをあっさり倒したが、もし奴らが平原で陣形を組んで襲ってきたら、さすがに対応しきれなかっただろう。
単体でこの強さのゴブリン・メイジなどそれなりに長い冒険者生活でも初めてだった。
(――最悪だ。この通路で火炎の渦を巻き起こせるほどのゴブリン・メイジと遭遇するなんて)
「ちっ!」とどこか聞き慣れた舌打ちが聞こえ、迫ってくる全身鎧の足音。こちらの回避したケースを予測し、火炎の渦の後を追うように迫ってきていたのだろう。
効果的な連携だった。
(まずいっ!)
ルナリアとベルトラントをかばうため、敵に背を向けてうつ伏せに倒れてしまっていた。
武器を敵に向けづらく、背中ががら空きというこれ以上ないほど最悪な体勢だった。
「ヨシュア様ぁあっ!!」
ルナリアの叫びと、剛剣を振り上げる凄まじい風切り音が聞こえたのは同時だった――。
13
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる