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第25話 古きもの
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あの穴から遠ざかるにつれて、やっと激しくなっていた俺の鼓動が収まり始めた。
安堵した瞬間、冷や汗が全身から噴き出す感覚を覚えた。
(――まさか、あんな存在がいるなんて……)
穴から覗いた存在を思い出すだけで荒ぶる感情で震えが走りそうになる。
それは恐れと憧れ、興奮が入り交じった不思議な感情だった。
(ゴブリン達はあの存在を知っているのだろうか……)
ダンジョンの拡張工事は十中八九、敵対するゴブリンロードの対策のためだろうが、ひょっとしたらあの存在のいる場所からめぼしい物を探すことが最大の目的だったのかもしれない。
穴から覗いた瞬間、最初に目に飛び込んできたのは、ごつごつした岩肌とはまるで違う滑らかな青い壁。
さらに目を凝らせば、そこに青白い光の発生源である模様――古代魔法文字ルーンが刻まれているのが見えたのだ。
古代魔法文字ルーン。
千年以上前に栄えたとされる古代魔法時代、魔術師以外のあらゆる民を支配した特権階級――当時の魔術師達が、魔道具の製作や魔導書の執筆などに使用していた特別な文字らしい。
ルーンは、今では失われた魔法技術の一つだ。
そのルーンが機能していることから考えて、古代魔法時代に作られた遺跡で間違いない。
(ルーンを含む古代魔法は詳しいことは何もわかっていない……。……確か「時間や重力などを制御する魔法もあったのではないか」なんて学説まであるって聞いたことがあるな。俺に回復魔法を教えてくれた師匠は「そんなのありえねー」と笑い飛ばしていたが……)
ちなみに、俺はその学説を聞いた時、「俺こそが時間を制御する失われた魔法の使い手ではないのか!?」と思い、勢い込んで師匠に尋ねて、「思春期らしい痛々しい妄想だ」と笑われたのだ。
――ほら。明日からは専業主婦になる私だって、お前みたいに無機物の『回復』ができる。
――まあ、ガキの頃にはありがちだよ。……自分は特別なんじゃないか! 未来の英雄なんじゃないか! ……ってな。
――ガキはガキらしく、気ままに辺境でスローライフでも送りながら、人々を回復してやれ。……それがお前が望んだことなんだろう?
ぐしゃぐしゃと髪を撫でてきた後、ニカッと微笑んだ師匠は、王都の回復術師ギルドを去っていったのだ。
懐かしい思い出に今の状況を忘れそうになるが、頭を振って回想を打ち切る。
(魔法技術を含むすべてにおいて、現在よりも優れていたとされるのに、なぜか突如として滅び去った文明か……)
滅びの理由がわからない古代文明の遺跡にいるというだけでも気が気でないというのに、その遺跡には信じられない存在がいたのだ。
(運悪く、いや、この場合は運良くというべきか、おそらく最奥の空間と繋がったらしいな……)
もし何も知らずに悠長に行動していたら、最悪の事態になっていた可能性がある。
神聖さを感じさせる青い空間は、等間隔に立ち並ぶ装飾性のある太い柱と、美しいモザイク模様の石畳から見て、おそらく神殿として作られた場所なのだろう。
縮尺がおかしくなったように思えるほど巨大な祭壇の周囲には、半透明の幕のようなものが見えた。
見つめるだけで背筋に冷たいものが走った半透明の幕は、おそらく結界の一種に違いない。
結界を張られた祭壇の中央に――
――その偉大な存在は祭られるように鎮座していた。
まるで眠ったように目を閉じて……。
(敵対すれば、幼竜でさえ都市が陥落してもおかしくないレベル……成竜ともなれば国家存亡の危機だ……ましてそれ以上となれば――)
冒険者の語る実話でもなく、王国史に残る史実でもなく、創作物された御伽話でしか触れたことのない単語が脳裏をよぎる。
――古竜。
永遠の寿命を持つといわれるドラゴンは、千年単位の時間をかけて脱皮を繰り返し、幼竜、成竜、古竜と成長していくという。
成長することはあっても老いることはない――
――ゆえに老竜ではなく、古竜。
いにしえの竜なのだ。
幼竜が最高位冒険者にとって最高の敵であるならば、成竜は王国建国時に英雄達が倒したような伝説の存在。
ならば古竜はといえば――
(神代として扱われる古代魔法時代から生きているのだから、神話の存在とでも捉えるべきなんだろうな……)
あらゆる属性が混ざりあったことを意味する漆黒の鱗と、圧倒的な巨体だったことから推測するに、あれは古竜で間違いない。
古きもの――エンシェントの異名を持つほど長く生きた竜。
その英知は人の賢者では及びもつかないという……。
力と知を兼ね備えた最強の存在。
(最も有名な伝説だと、国祖が倒した成竜の話、あとは御伽話として人気のある英知を授ける古竜の話か……)
そんな伝説や御伽話でしか知られていないような存在が、この地には封印されているようだった。
安堵した瞬間、冷や汗が全身から噴き出す感覚を覚えた。
(――まさか、あんな存在がいるなんて……)
穴から覗いた存在を思い出すだけで荒ぶる感情で震えが走りそうになる。
それは恐れと憧れ、興奮が入り交じった不思議な感情だった。
(ゴブリン達はあの存在を知っているのだろうか……)
ダンジョンの拡張工事は十中八九、敵対するゴブリンロードの対策のためだろうが、ひょっとしたらあの存在のいる場所からめぼしい物を探すことが最大の目的だったのかもしれない。
穴から覗いた瞬間、最初に目に飛び込んできたのは、ごつごつした岩肌とはまるで違う滑らかな青い壁。
さらに目を凝らせば、そこに青白い光の発生源である模様――古代魔法文字ルーンが刻まれているのが見えたのだ。
古代魔法文字ルーン。
千年以上前に栄えたとされる古代魔法時代、魔術師以外のあらゆる民を支配した特権階級――当時の魔術師達が、魔道具の製作や魔導書の執筆などに使用していた特別な文字らしい。
ルーンは、今では失われた魔法技術の一つだ。
そのルーンが機能していることから考えて、古代魔法時代に作られた遺跡で間違いない。
(ルーンを含む古代魔法は詳しいことは何もわかっていない……。……確か「時間や重力などを制御する魔法もあったのではないか」なんて学説まであるって聞いたことがあるな。俺に回復魔法を教えてくれた師匠は「そんなのありえねー」と笑い飛ばしていたが……)
ちなみに、俺はその学説を聞いた時、「俺こそが時間を制御する失われた魔法の使い手ではないのか!?」と思い、勢い込んで師匠に尋ねて、「思春期らしい痛々しい妄想だ」と笑われたのだ。
――ほら。明日からは専業主婦になる私だって、お前みたいに無機物の『回復』ができる。
――まあ、ガキの頃にはありがちだよ。……自分は特別なんじゃないか! 未来の英雄なんじゃないか! ……ってな。
――ガキはガキらしく、気ままに辺境でスローライフでも送りながら、人々を回復してやれ。……それがお前が望んだことなんだろう?
ぐしゃぐしゃと髪を撫でてきた後、ニカッと微笑んだ師匠は、王都の回復術師ギルドを去っていったのだ。
懐かしい思い出に今の状況を忘れそうになるが、頭を振って回想を打ち切る。
(魔法技術を含むすべてにおいて、現在よりも優れていたとされるのに、なぜか突如として滅び去った文明か……)
滅びの理由がわからない古代文明の遺跡にいるというだけでも気が気でないというのに、その遺跡には信じられない存在がいたのだ。
(運悪く、いや、この場合は運良くというべきか、おそらく最奥の空間と繋がったらしいな……)
もし何も知らずに悠長に行動していたら、最悪の事態になっていた可能性がある。
神聖さを感じさせる青い空間は、等間隔に立ち並ぶ装飾性のある太い柱と、美しいモザイク模様の石畳から見て、おそらく神殿として作られた場所なのだろう。
縮尺がおかしくなったように思えるほど巨大な祭壇の周囲には、半透明の幕のようなものが見えた。
見つめるだけで背筋に冷たいものが走った半透明の幕は、おそらく結界の一種に違いない。
結界を張られた祭壇の中央に――
――その偉大な存在は祭られるように鎮座していた。
まるで眠ったように目を閉じて……。
(敵対すれば、幼竜でさえ都市が陥落してもおかしくないレベル……成竜ともなれば国家存亡の危機だ……ましてそれ以上となれば――)
冒険者の語る実話でもなく、王国史に残る史実でもなく、創作物された御伽話でしか触れたことのない単語が脳裏をよぎる。
――古竜。
永遠の寿命を持つといわれるドラゴンは、千年単位の時間をかけて脱皮を繰り返し、幼竜、成竜、古竜と成長していくという。
成長することはあっても老いることはない――
――ゆえに老竜ではなく、古竜。
いにしえの竜なのだ。
幼竜が最高位冒険者にとって最高の敵であるならば、成竜は王国建国時に英雄達が倒したような伝説の存在。
ならば古竜はといえば――
(神代として扱われる古代魔法時代から生きているのだから、神話の存在とでも捉えるべきなんだろうな……)
あらゆる属性が混ざりあったことを意味する漆黒の鱗と、圧倒的な巨体だったことから推測するに、あれは古竜で間違いない。
古きもの――エンシェントの異名を持つほど長く生きた竜。
その英知は人の賢者では及びもつかないという……。
力と知を兼ね備えた最強の存在。
(最も有名な伝説だと、国祖が倒した成竜の話、あとは御伽話として人気のある英知を授ける古竜の話か……)
そんな伝説や御伽話でしか知られていないような存在が、この地には封印されているようだった。
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