追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた

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第24話 穴

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(統率されているな……)

この士気の高さは「統率されていた」という過去形ではない。

自分達の君主であるゴブリンロードが討たれたと気づいていないケースもあり得るが、この士気の高さから見て、指示を受けた直後という感じがする。
Sランク冒険者としての勘なので確証はないが。

はっきりしているのは、ゴブリンロードが配下のゴブリン達にダンジョンの遭遇戦の対応を指示していたということだ。
ちょうど俺がルナリア達にあらかじめ指示を与えておいたように。

(やはりゴブリンは人間と同程度には厄介だな)

予想以上の士気の高さと、あり得ない兵種がいることから、俺は一つの可能性に思い至る。

『鎧兜』の二つ名で呼ばれていた草原の主だったゴブリンロード。
何者かによって二つ名の由来である兜に突き出た二本の角の片方をへし折られ、『片角』と呼び名が変わり、棲み処を変えたゴブリンの君主。

冒険者の誰一人として『鎧兜』の角を折ったと自慢しなかったことが不思議だと思われていたが――

(――そうか、ゴブリンロード同士の縄張り争いか!)

俺達は、ゴブリンロードにとどめを刺しに来た別のゴブリンロードの軍隊と遭遇するという極めて珍しい事態に陥りつつあるらしい。

「――ヨシュア様!」

素手の俺に、いきなりルナリアの声が届いた。

振り向くと、相棒の刀が放物線を描いて飛んでくる。

カエデとベルトラントはゴブリンのいる方に刃を向けるので精一杯の様子の中、ルナリアだけは冷静に最善の行動を取っていた。

「刀です! 使ってください」

「ありがとう」

刀を握った俺に敵はいなかった。

慌てた最後のゴブリン・ライダーが、おそらくゴブリンロードに報告に行くためだろうが、急転換し走り去ろうとした。

「逃がすか!」

援軍を呼ばせないために追いすがった俺に驚いたらしいゴブリン・ライダーは、

ゴゴン――ッ!

ウルフもろとも壁に激突し、騎乗魔獣とほぼ同時に首の骨を折り、重なり合うように鈍い音を響かせた。

凄まじい衝撃だったようで、元々壁がもろかったのか、拡張工事をしていた途中だったのか、ぼろぼろと壁が崩れ落ちた。

「あれは……」

ゴブリン・ライダーのぶつかった場所に小さな穴が空いた。
拳一つ分くらいのサイズだ。
その向こうが何やらほのかに明るい。
青白い光だ。
明らかに松明の炎の色ではない。

「……向こうにも空間が広がっているのか?」

警戒しつつ小さな穴を覗き込み――

ぴくりとも動かなくなった俺に、

「――あの……ヨシュア様?」

ルナリアは不思議そうに声をかけてきた。

俺は何か返事をしようとしたが、口の中が緊張で乾き、唾を飲み込むことしかできなかった。

「ヨシュア様? どうかされましたか?」

ルナリアの再度の問いかけに、鼓動が早まるのを感じていた俺は、深呼吸を繰り返してから、畏怖によって声が震えないように注意して答えた。

「いや……なんでもない。さあ、行こう」

背後の穴を塞ぐ位置に立ったまま、俺はルナリア達三人に向き直る。

「少しでも早くクオンさんを回復させて、皆でここをすぐ出よう」

「え? ……ええ、そうですね」

唐突ともいえる俺の発言に、ルナリアは一瞬不思議そうにしたが、ゴブリンに襲われた直後ということもあり、すぐに頷いてくれた。

ベルトラントとカエデは、さすがに俺の態度に違和感を覚えたらしく、何か問いたげな視線を向けてきた。
俺はルナリアがそばを離れるまで、背後にある小さな穴を自分の体で隠していたのだから当然だろう。

だが、ベルトラントもカエデも俺のことを信頼してくれているらしく、妙な態度の理由を問い質さないでいてくれた。
隊列を組み直して速やかにクオンの元に急ぐという俺の提案に従ってくれたのだった。
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