20 / 111
第20話 『片角』
しおりを挟む
隊列を組んだ俺達四人は、地底湖の湖畔にいるクオンの元に向かって、ダンジョンの通路をゆっくりと進む。
隊列は先頭から俺、ルナリア、ベルトラント、カエデの順だ。
「カエデさん、さっき出発前に伝えたことの繰り返しになるけど」
後ろを振り返った俺は、ルナリアとベルトラント越しに金髪の女性に話しかけた。
狭い通路にほぼ一直線に並んでいるため、金色のセミロングヘアの半分くらいしか見えない。
「敵を見つけたらすぐ知らせてほしい。槍を持ってもらっているけど、それは戦うためじゃなくて、あくまで牽制するためだ。できるかぎり早く駆けつけるようにするから、無理をせず時間を稼ぐことに徹してほしい」
人は脆い。
一撃で死ぬ危険性がある。
俺の回復魔法は、怪我はもちろん、石化だろうが麻痺だろうが、なんでも『回復』できる。
(――だけど、即死だけはどうしようもないもんな)
ロケットペンダントという無機物に回復魔法を掛けて非常識扱いされた俺だが、さすがに死体に回復魔法を掛けようと思ったことなどない。
「かしこまりました、ヨシュア様」
カエデはメイドらしく優雅に一礼。
まるで俺のことを主人の一人として認めてくれたかのように。
くどいかな、と思いつつも注意を促したが、素直な反応に内心ほっと息を吐いた。
カエデはとても優秀なメイドのようなので、もし屋敷で何か頼み事をしたら問題なく実行できるだろう。
だが、それはあくまで普段通りに振る舞える日常生活でのこと。
(非日常的な戦闘中だと、大切なことでもすっぽり頭から抜け落ちてしまうこともあるからな)
念押ししたからと油断せず、もしもの時はすぐに後ろに駆けつけよう。
俺はカエデからルナリア達に視線を移して話しかける。
「後方に敵が現れた時は、ルナリアさんとベルトラントさんは通路の脇に。通路が塞がっていると、後ろに移動するのに時間がかかりますから」
これもまた一度注意した内容だったが、
「はい。承知いたしました」
「せめて戦闘の邪魔にならないよう、ヨシュア様の言う通りにしますね」
三回りくらい年上だろうと思われるベルトラントも、高貴な身分のルナリアも、しっかりと同時に頷いてくれた。
俺が追放された冒険者パーティー「暁」のメンバーは、リーダーのスヴェンも古参のフォルネウスも、こちらの話などろくすっぽ聞いてくれなかった。
ちゃんと話を聞いてくれる三人に、地味に感動してしまった。
「――俺が敵をすべて倒します」
このダンジョンを根城にしていたのは、俺が所属していた冒険者パーティー「暁」によってすでに討伐された、『片角』の二つ名を与えられたゴブリンロードだ。
「片方の角」を意味する名称を冒険者ギルドが付けたのは、その特徴的なシルエットからだ。
人間の大男に匹敵する体躯に見合った大きな黒鉄の兜。
その黒兜のこめかみからは、牛のような角が二本伸びていたのだ――が、その一本が途中から折られていた。
ゆえに『片角』。
かつては『鎧兜』の二つ名だったらしいが、何者かに一本を折られ、根城をここに移したという話だった。
不思議なことに、角の片方を折り、撃退するという戦果を上げたにもかかわらず、冒険者ギルドに報告に来た者はいなかったらしい。
危険性を周知するために冒険者ギルドが二つ名を付けたモンスターを撃退することは、未踏のダンジョンに挑むことと同様に冒険者にとって誉れなのに、だ。
たまに相打ちになったり、全滅したりして届け出がないケースもあるから、そこまで不思議なことではないのだが……。
「敵を一人で倒すなんて、大言壮語と思われるかもしれませんが、残ったゴブリンは烏合の衆です。もう『片角』はいませんから」
「カタツノ?」
不思議そうなルナリアの声に、俺は地底湖の湖畔までの道すがら、警戒心を高めるためにもゴブリンについて説明することにした。
隊列は先頭から俺、ルナリア、ベルトラント、カエデの順だ。
「カエデさん、さっき出発前に伝えたことの繰り返しになるけど」
後ろを振り返った俺は、ルナリアとベルトラント越しに金髪の女性に話しかけた。
狭い通路にほぼ一直線に並んでいるため、金色のセミロングヘアの半分くらいしか見えない。
「敵を見つけたらすぐ知らせてほしい。槍を持ってもらっているけど、それは戦うためじゃなくて、あくまで牽制するためだ。できるかぎり早く駆けつけるようにするから、無理をせず時間を稼ぐことに徹してほしい」
人は脆い。
一撃で死ぬ危険性がある。
俺の回復魔法は、怪我はもちろん、石化だろうが麻痺だろうが、なんでも『回復』できる。
(――だけど、即死だけはどうしようもないもんな)
ロケットペンダントという無機物に回復魔法を掛けて非常識扱いされた俺だが、さすがに死体に回復魔法を掛けようと思ったことなどない。
「かしこまりました、ヨシュア様」
カエデはメイドらしく優雅に一礼。
まるで俺のことを主人の一人として認めてくれたかのように。
くどいかな、と思いつつも注意を促したが、素直な反応に内心ほっと息を吐いた。
カエデはとても優秀なメイドのようなので、もし屋敷で何か頼み事をしたら問題なく実行できるだろう。
だが、それはあくまで普段通りに振る舞える日常生活でのこと。
(非日常的な戦闘中だと、大切なことでもすっぽり頭から抜け落ちてしまうこともあるからな)
念押ししたからと油断せず、もしもの時はすぐに後ろに駆けつけよう。
俺はカエデからルナリア達に視線を移して話しかける。
「後方に敵が現れた時は、ルナリアさんとベルトラントさんは通路の脇に。通路が塞がっていると、後ろに移動するのに時間がかかりますから」
これもまた一度注意した内容だったが、
「はい。承知いたしました」
「せめて戦闘の邪魔にならないよう、ヨシュア様の言う通りにしますね」
三回りくらい年上だろうと思われるベルトラントも、高貴な身分のルナリアも、しっかりと同時に頷いてくれた。
俺が追放された冒険者パーティー「暁」のメンバーは、リーダーのスヴェンも古参のフォルネウスも、こちらの話などろくすっぽ聞いてくれなかった。
ちゃんと話を聞いてくれる三人に、地味に感動してしまった。
「――俺が敵をすべて倒します」
このダンジョンを根城にしていたのは、俺が所属していた冒険者パーティー「暁」によってすでに討伐された、『片角』の二つ名を与えられたゴブリンロードだ。
「片方の角」を意味する名称を冒険者ギルドが付けたのは、その特徴的なシルエットからだ。
人間の大男に匹敵する体躯に見合った大きな黒鉄の兜。
その黒兜のこめかみからは、牛のような角が二本伸びていたのだ――が、その一本が途中から折られていた。
ゆえに『片角』。
かつては『鎧兜』の二つ名だったらしいが、何者かに一本を折られ、根城をここに移したという話だった。
不思議なことに、角の片方を折り、撃退するという戦果を上げたにもかかわらず、冒険者ギルドに報告に来た者はいなかったらしい。
危険性を周知するために冒険者ギルドが二つ名を付けたモンスターを撃退することは、未踏のダンジョンに挑むことと同様に冒険者にとって誉れなのに、だ。
たまに相打ちになったり、全滅したりして届け出がないケースもあるから、そこまで不思議なことではないのだが……。
「敵を一人で倒すなんて、大言壮語と思われるかもしれませんが、残ったゴブリンは烏合の衆です。もう『片角』はいませんから」
「カタツノ?」
不思議そうなルナリアの声に、俺は地底湖の湖畔までの道すがら、警戒心を高めるためにもゴブリンについて説明することにした。
58
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説


異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる