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第14話 雰囲気
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ゴブリン達の食料庫の中、ルナリアに掛けた回復魔法の淡い光が徐々に弱まっていく。
ルナリアを回復し終えた俺は、彼女の肩先にちょこんと触れていた指先を離した。
「ありがとうございました……」
ルナリアは先程俺に平手打ちをしてしまったことを思い出したらしく、赤面して頭を下げた。
「いや、こっちこそごめん……冒険者をやっていた弊害ってやつかな……」
「……?」
長いストレートの黒髪を不思議そうに傾げるルナリアに、俺は簡単に説明した。
「冒険者っていろいろとブラックなんだ……」
「ブラック、ですか? ブラック労働という意味ですよね」
問い返すルナリアのそばで、ベルトラントは納得がいったように小さく幾度か頷いた。
元冒険者の彼はさすがに事情をよく知っているのだろう。
これ以上傷の回復を待たせないために、俺は話しながら回復魔法を行使していくことにする。
カエデに了解を得てから彼女の肩先に触れた。
二十代後半の落ち着いた雰囲気のメイドなら、いきなり触れても平手打ちはしないだろうけど。
一応マナーとして。
再び淡い光が倉庫内を照らし出す。
「例えば冒険者同士で、回復魔法を使う際に接触する時、いちいち断ったりしないんだ。他にも、汗まみれのタオルを貸したり水筒を回し飲みしたりも普通にする」
もっとも「暁」は後者については例外だった。
特に盗賊レイルが嫌がったし、魔術師フォルネウスも潔癖症の気があったためだ。
「それは……」
うら若い乙女であるルナリアは困惑顔になった。
「お嬢様、それだけではございません。場合によっては――同衾することもございます」
生真面目な口調のベルトラントに、ルナリアは顔を勢いよく向けた。
可愛い顔がわずかな間に真っ赤になっていた。
「――どっ、同衾!? 冒険者の方々は日常的にそのようなことをっ!?」
破廉恥なと言いたげな令嬢の顔に、ベルトラントは朗らかに笑いかけた。
「あっ! ――からかったのですね!」
「いえいえ滅相もございません。わたくし、お嬢様に嘘を申し上げたことなど一度もございませんよ?」
「ヨシュア様! 本当なのですか!?」
にわかに騒がしくなったゴブリンの食料庫の中、ルナリアは勢いよく俺に向き直る。
ベルトラントはその隣で「やれやれ、お嬢様の信頼を失ってしまいました……」とわざとらしく肩をすくめて見せた。
ちょうどカエデの回復が終わった俺はルナリアに答えた。
「ああ。ベルトラントさんの言ったことは本当だよ」
「――――!」
目を見開いたまま口をぱくぱくとするルナリアの反応を見て、俺も思わず微笑んでしまった。
ベルトラントがからかうのも無理はない。
ルナリアの反応は面白くて可愛らしかった。
カエデから手を放す瞬間、「お嬢様が元気になって良かったです……」としみじみとした彼女の呟きが耳に入った。
(そっか……ベルトラントさんは暗くなりがちな状況を明るくしようと――)
冒険の最中、意外と人間関係の雰囲気は大事なのだ。
最悪な雰囲気で何度も冒険したことがある俺には、それがよくわかった。
「冒険者がブラックだって言われる理由はいくつもあるんだ。危険、汚い、きつい、帰れないなど」
俺の言葉に、頭の回転は良いらしいルナリアはすぐに納得した。
「なるほど。このようなダンジョン内にいれば、回し飲みなど気にしていられないし、場合によっては……その……同衾も……――」
ちらっ、とこちらを見たルナリアの顔はまだほんのりと赤く、次第に視線が下にそれていった。
「心配しなくてもできるかぎり早く街に送り届けるよ」
ルナリアを回復し終えた俺は、彼女の肩先にちょこんと触れていた指先を離した。
「ありがとうございました……」
ルナリアは先程俺に平手打ちをしてしまったことを思い出したらしく、赤面して頭を下げた。
「いや、こっちこそごめん……冒険者をやっていた弊害ってやつかな……」
「……?」
長いストレートの黒髪を不思議そうに傾げるルナリアに、俺は簡単に説明した。
「冒険者っていろいろとブラックなんだ……」
「ブラック、ですか? ブラック労働という意味ですよね」
問い返すルナリアのそばで、ベルトラントは納得がいったように小さく幾度か頷いた。
元冒険者の彼はさすがに事情をよく知っているのだろう。
これ以上傷の回復を待たせないために、俺は話しながら回復魔法を行使していくことにする。
カエデに了解を得てから彼女の肩先に触れた。
二十代後半の落ち着いた雰囲気のメイドなら、いきなり触れても平手打ちはしないだろうけど。
一応マナーとして。
再び淡い光が倉庫内を照らし出す。
「例えば冒険者同士で、回復魔法を使う際に接触する時、いちいち断ったりしないんだ。他にも、汗まみれのタオルを貸したり水筒を回し飲みしたりも普通にする」
もっとも「暁」は後者については例外だった。
特に盗賊レイルが嫌がったし、魔術師フォルネウスも潔癖症の気があったためだ。
「それは……」
うら若い乙女であるルナリアは困惑顔になった。
「お嬢様、それだけではございません。場合によっては――同衾することもございます」
生真面目な口調のベルトラントに、ルナリアは顔を勢いよく向けた。
可愛い顔がわずかな間に真っ赤になっていた。
「――どっ、同衾!? 冒険者の方々は日常的にそのようなことをっ!?」
破廉恥なと言いたげな令嬢の顔に、ベルトラントは朗らかに笑いかけた。
「あっ! ――からかったのですね!」
「いえいえ滅相もございません。わたくし、お嬢様に嘘を申し上げたことなど一度もございませんよ?」
「ヨシュア様! 本当なのですか!?」
にわかに騒がしくなったゴブリンの食料庫の中、ルナリアは勢いよく俺に向き直る。
ベルトラントはその隣で「やれやれ、お嬢様の信頼を失ってしまいました……」とわざとらしく肩をすくめて見せた。
ちょうどカエデの回復が終わった俺はルナリアに答えた。
「ああ。ベルトラントさんの言ったことは本当だよ」
「――――!」
目を見開いたまま口をぱくぱくとするルナリアの反応を見て、俺も思わず微笑んでしまった。
ベルトラントがからかうのも無理はない。
ルナリアの反応は面白くて可愛らしかった。
カエデから手を放す瞬間、「お嬢様が元気になって良かったです……」としみじみとした彼女の呟きが耳に入った。
(そっか……ベルトラントさんは暗くなりがちな状況を明るくしようと――)
冒険の最中、意外と人間関係の雰囲気は大事なのだ。
最悪な雰囲気で何度も冒険したことがある俺には、それがよくわかった。
「冒険者がブラックだって言われる理由はいくつもあるんだ。危険、汚い、きつい、帰れないなど」
俺の言葉に、頭の回転は良いらしいルナリアはすぐに納得した。
「なるほど。このようなダンジョン内にいれば、回し飲みなど気にしていられないし、場合によっては……その……同衾も……――」
ちらっ、とこちらを見たルナリアの顔はまだほんのりと赤く、次第に視線が下にそれていった。
「心配しなくてもできるかぎり早く街に送り届けるよ」
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