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第12話 信用
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クオンに回復魔法を使うことを提案した俺は、沈黙が下りる中、ルナリア達の返答を待った。
俺の立場を気遣いながら丁寧に説明してくれたベルトラントには悪いが、部位欠損の回復が可能なのは事実なのだから仕方ない。
(俺の回復がやや特殊なのは、説明するより見せた方が早いからな)
初老の彼は冒険者の経験もあるそうなので、俺の発言はにわかには信じがたい様子だった。
人生経験がある分、常識が邪魔しているのだろう。
だが、若いルナリアはもう少し柔軟なようだった。
「ベルトラント……。ヨシュア様がこうおっしゃってくれているのです。せっかくですからクオンの容態を診ていただきましょう。回復術師の方が来てくださったと知れば、クオンも少しは安心するかもしれません」
窘めるようにルナリアは家臣にそう声を掛けた。
ベルトラントは女主人の意見に「かしこまりました」と一礼した。
「ごめんなさい。否定的なことばかり言ってしまって……」
すがるような表情のルナリアは俺に近づき、俺の片手を両手で包み込んだ。
不安そうに瞳は揺れている。
「――ですが、気持ちとしては私もベルトラントと同じです。ヨシュア様のことを信じておりますが、信じきれないのです。……ここ数年、ずっとお母様のご病気と闘って参りました。遠方から取り寄せた数々のポーションや高名な回復術師の方々……それに薬師ギルドの長にまで頼ったのです。それでも病状が回復することはなく、容態は悪くなる一方で……」
ルナリアが顔を隠すように俯いた瞬間、温かな滴が俺の手に当たった。
(……泣いて、いるのか……)
「その上、信じていた薬師ギルドの長にまで騙されていたのですから……もういったい何を信じていいのか――」
「この山に伝説の霊薬エリクサーがあるという話は……その薬師ギルドの長から?」
冒険者ギルドと薬師ギルドは、ポーションに関して需要と供給の関係で深く結びついている。
だから冒険者ギルドに所属する俺も、薬師ギルドの長と面識はないものの、噂くらいは小耳に挟んでいた。
(やり手の守銭奴って話だけど……)
だが、冒険者ギルドに卸すポーションの数や質などで不正を働いたという話は一度も聞いたことがない。
(伝説の霊薬エリクサーが山に生息する、か……。こんなあからさまな嘘をなんで吐いたんだろう?)
薬師ギルドの長ともあろうものが、伝説上の霊薬のこととはいえ、錬金術で作る霊薬を植物と勘違いしていたなんてことはないだろう。
とりあえずその辺の事情も後で調べてみるといいかもしれない。
「おっしゃる通り、あの誤った情報は薬師ギルドの長から直接聞いたものです」
ルナリアは俯いたまま片手で顔を拭った。
「でも希望が持てました」
俺の手を放して顔を上げたルナリアの意外なセリフに俺は尋ねた。
「というと?」
「ここ一、二年はお母様の治療を薬師ギルドに一任していたのです。……ですが、偽の情報を教えるほどですから、ひょっとしたら治療に手を抜いていた可能性もあります」
「確かにその可能性もなくはありませんね」
一応肯定したものの、薬師ギルドの長の評判から考えるに、その可能性は低そうだった。
「――ヨシュア様。それでは弟のクオンのもとにご案内いたしますね」
俺の立場を気遣いながら丁寧に説明してくれたベルトラントには悪いが、部位欠損の回復が可能なのは事実なのだから仕方ない。
(俺の回復がやや特殊なのは、説明するより見せた方が早いからな)
初老の彼は冒険者の経験もあるそうなので、俺の発言はにわかには信じがたい様子だった。
人生経験がある分、常識が邪魔しているのだろう。
だが、若いルナリアはもう少し柔軟なようだった。
「ベルトラント……。ヨシュア様がこうおっしゃってくれているのです。せっかくですからクオンの容態を診ていただきましょう。回復術師の方が来てくださったと知れば、クオンも少しは安心するかもしれません」
窘めるようにルナリアは家臣にそう声を掛けた。
ベルトラントは女主人の意見に「かしこまりました」と一礼した。
「ごめんなさい。否定的なことばかり言ってしまって……」
すがるような表情のルナリアは俺に近づき、俺の片手を両手で包み込んだ。
不安そうに瞳は揺れている。
「――ですが、気持ちとしては私もベルトラントと同じです。ヨシュア様のことを信じておりますが、信じきれないのです。……ここ数年、ずっとお母様のご病気と闘って参りました。遠方から取り寄せた数々のポーションや高名な回復術師の方々……それに薬師ギルドの長にまで頼ったのです。それでも病状が回復することはなく、容態は悪くなる一方で……」
ルナリアが顔を隠すように俯いた瞬間、温かな滴が俺の手に当たった。
(……泣いて、いるのか……)
「その上、信じていた薬師ギルドの長にまで騙されていたのですから……もういったい何を信じていいのか――」
「この山に伝説の霊薬エリクサーがあるという話は……その薬師ギルドの長から?」
冒険者ギルドと薬師ギルドは、ポーションに関して需要と供給の関係で深く結びついている。
だから冒険者ギルドに所属する俺も、薬師ギルドの長と面識はないものの、噂くらいは小耳に挟んでいた。
(やり手の守銭奴って話だけど……)
だが、冒険者ギルドに卸すポーションの数や質などで不正を働いたという話は一度も聞いたことがない。
(伝説の霊薬エリクサーが山に生息する、か……。こんなあからさまな嘘をなんで吐いたんだろう?)
薬師ギルドの長ともあろうものが、伝説上の霊薬のこととはいえ、錬金術で作る霊薬を植物と勘違いしていたなんてことはないだろう。
とりあえずその辺の事情も後で調べてみるといいかもしれない。
「おっしゃる通り、あの誤った情報は薬師ギルドの長から直接聞いたものです」
ルナリアは俯いたまま片手で顔を拭った。
「でも希望が持てました」
俺の手を放して顔を上げたルナリアの意外なセリフに俺は尋ねた。
「というと?」
「ここ一、二年はお母様の治療を薬師ギルドに一任していたのです。……ですが、偽の情報を教えるほどですから、ひょっとしたら治療に手を抜いていた可能性もあります」
「確かにその可能性もなくはありませんね」
一応肯定したものの、薬師ギルドの長の評判から考えるに、その可能性は低そうだった。
「――ヨシュア様。それでは弟のクオンのもとにご案内いたしますね」
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目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
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