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第2話 ブラック労働からの解放
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しばらく休んで枯渇した魔力が戻ってきた俺は、ダンジョンの床から腰を上げた。
なんだか気分が軽い。
(魔力が回復したせいか……?)
魔力は精神力。魔力の残量は精神に影響する。
しかし……。
(久しぶりに感じる解放感の理由はそれだけじゃなさそうだな……)
少し長く伸びた黒い頭髪をかいていると、ふいに気づいた。
「そうか……清々しているのか」
ぽつりと漏らす。
「生真面目に、初めてのパーティーだから、ってずっとリーダーや古参のフォルネウスに従ってたけど……」
ブラックな労働はいろいろと王国の社会問題になっているが、冒険者パーティーにも当てはまる。
冒険者ギルド側は「最低三年は我慢して所属しろ」と主張し、それが定説となっているが……。
「……どんなことにも例外はあるよな」
それなりに真面目で忍耐強いと思っている俺だが、それでも人間扱いさえされないというのは問題外だった。
ポーションの代用品の立場などあり得ない。
もっともCランクやBランクの頃はそれなりに重宝がられていて、今回みたいに一方的に罵られたのは初めてだった。
ただ、だからこそ冒険者パーティー「暁」に対して、この短時間で未練を振り切れたともいえる。
そう考えると先程の低レベルな罵倒はありがたかった。
リーダーの役目を放棄し、猪突猛進して指揮をしないスヴェン。
かすり傷一つ負うたびに「回復しなさい!」と神経質に叫び、近づけば「魔法の邪魔です」と罵る、どうしようもない魔術師フォルネウス。
正直、盗賊レイルについてはよくわからないが、回復しようと胸や腰に手を当てたら、いきなり引っ叩かれたことが何度かある。
毎度毎度冷や汗をかき、ギリギリのところで敵の攻撃――時にはフォルネウスの魔法やスヴェンの剣も避けながら、彼らを回復する必要はもうないのだ。
「――自由って素晴らしいな」
ブラック労働からついに解放された俺は、ゴブリンの死骸と折れた剣などが散乱する周囲を見回した。
あとは街に戻るだけだが、ゴブリンの残党などに襲われる危険性はゼロではない。
素手で戦うのは御免だ。
俺は、ゴブリンロードの死骸のすぐそばに転がる武器に目をとめた。
反りのある片刃という「斬る」ことに特化した独特の形状。
芸術的価値を見出す貴族もいるという刃紋。
この大陸ではほとんど見かけない武器なので、単純に希少価値も高いという。
「――刀か」
俺は近づいて、ゴブリンロードが使用していた刀を拾い上げた。
乱暴な使い方をしていた上に、手入れもしていなかったのだろう。血にまみれて錆つき、刃こぼれしている。
あげくスヴェンの剛剣を変なふうに受けたので、切っ先が折れているというひどい有り様だった。
「破損してなければ高いだろうな、これ……」
根元に近い刀身の鎬地に、何やら貴族の家名らしきものまで刻まれている。
もし新品で購入すれば、スヴェン達の装備一式より高いかもしれない。
だが、ここまでボロボロでは二束三文。
銅貨数枚で売れたらまだマシという状態だ。
だからスヴェン達は見向きもしなかったのだろう。
「さて、折れた切っ先は……? 直すなら、できれば手元に欲しいしな」
刀の切っ先を探すが見つからない。
ゴブリン達が灯した粗悪な松明だけで暗すぎてよくわからなかった。
「仕方ない、か……」
俺は、刀身に人差し指と中指の二本の指を這わせ――
「ヒール!」
――刀を『回復』した。
呪文とともに刀が光り輝く。
対象は生物ではなく、刀というまぎれもない無機物。
もしポーションを折れた武器にかけて回復させようとする人がいたら、狂人かと疑われるだろう。
刀剣を直すなら鍛冶師。
傷病を治すならポーション。
それが当たり前。
この世の理。
たとえ伝説の霊薬エリクサーをもってしても無機物を『回復』するなど不可能だ。
だが――
ぐぐっ、とゴブリンロードの死骸の頭部がわずかに持ち上がる。
見当たらなかった刀の切っ先が、その頭部から飛び出し、光り輝く刀の先端に向かって飛んでくる。
「なるほど。へし折られた衝撃で口の中に埋まってたのか」
ピタリ、と刀の切っ先は刀の損傷部にパズルのようにはまった。
――ヒールの光が消え去ると、刀は新品同然になっていた。
錆も刃こぼれもなく、折れた部分も修復され、一片の曇りもない美しい輝きを放っていた。
なんだか気分が軽い。
(魔力が回復したせいか……?)
魔力は精神力。魔力の残量は精神に影響する。
しかし……。
(久しぶりに感じる解放感の理由はそれだけじゃなさそうだな……)
少し長く伸びた黒い頭髪をかいていると、ふいに気づいた。
「そうか……清々しているのか」
ぽつりと漏らす。
「生真面目に、初めてのパーティーだから、ってずっとリーダーや古参のフォルネウスに従ってたけど……」
ブラックな労働はいろいろと王国の社会問題になっているが、冒険者パーティーにも当てはまる。
冒険者ギルド側は「最低三年は我慢して所属しろ」と主張し、それが定説となっているが……。
「……どんなことにも例外はあるよな」
それなりに真面目で忍耐強いと思っている俺だが、それでも人間扱いさえされないというのは問題外だった。
ポーションの代用品の立場などあり得ない。
もっともCランクやBランクの頃はそれなりに重宝がられていて、今回みたいに一方的に罵られたのは初めてだった。
ただ、だからこそ冒険者パーティー「暁」に対して、この短時間で未練を振り切れたともいえる。
そう考えると先程の低レベルな罵倒はありがたかった。
リーダーの役目を放棄し、猪突猛進して指揮をしないスヴェン。
かすり傷一つ負うたびに「回復しなさい!」と神経質に叫び、近づけば「魔法の邪魔です」と罵る、どうしようもない魔術師フォルネウス。
正直、盗賊レイルについてはよくわからないが、回復しようと胸や腰に手を当てたら、いきなり引っ叩かれたことが何度かある。
毎度毎度冷や汗をかき、ギリギリのところで敵の攻撃――時にはフォルネウスの魔法やスヴェンの剣も避けながら、彼らを回復する必要はもうないのだ。
「――自由って素晴らしいな」
ブラック労働からついに解放された俺は、ゴブリンの死骸と折れた剣などが散乱する周囲を見回した。
あとは街に戻るだけだが、ゴブリンの残党などに襲われる危険性はゼロではない。
素手で戦うのは御免だ。
俺は、ゴブリンロードの死骸のすぐそばに転がる武器に目をとめた。
反りのある片刃という「斬る」ことに特化した独特の形状。
芸術的価値を見出す貴族もいるという刃紋。
この大陸ではほとんど見かけない武器なので、単純に希少価値も高いという。
「――刀か」
俺は近づいて、ゴブリンロードが使用していた刀を拾い上げた。
乱暴な使い方をしていた上に、手入れもしていなかったのだろう。血にまみれて錆つき、刃こぼれしている。
あげくスヴェンの剛剣を変なふうに受けたので、切っ先が折れているというひどい有り様だった。
「破損してなければ高いだろうな、これ……」
根元に近い刀身の鎬地に、何やら貴族の家名らしきものまで刻まれている。
もし新品で購入すれば、スヴェン達の装備一式より高いかもしれない。
だが、ここまでボロボロでは二束三文。
銅貨数枚で売れたらまだマシという状態だ。
だからスヴェン達は見向きもしなかったのだろう。
「さて、折れた切っ先は……? 直すなら、できれば手元に欲しいしな」
刀の切っ先を探すが見つからない。
ゴブリン達が灯した粗悪な松明だけで暗すぎてよくわからなかった。
「仕方ない、か……」
俺は、刀身に人差し指と中指の二本の指を這わせ――
「ヒール!」
――刀を『回復』した。
呪文とともに刀が光り輝く。
対象は生物ではなく、刀というまぎれもない無機物。
もしポーションを折れた武器にかけて回復させようとする人がいたら、狂人かと疑われるだろう。
刀剣を直すなら鍛冶師。
傷病を治すならポーション。
それが当たり前。
この世の理。
たとえ伝説の霊薬エリクサーをもってしても無機物を『回復』するなど不可能だ。
だが――
ぐぐっ、とゴブリンロードの死骸の頭部がわずかに持ち上がる。
見当たらなかった刀の切っ先が、その頭部から飛び出し、光り輝く刀の先端に向かって飛んでくる。
「なるほど。へし折られた衝撃で口の中に埋まってたのか」
ピタリ、と刀の切っ先は刀の損傷部にパズルのようにはまった。
――ヒールの光が消え去ると、刀は新品同然になっていた。
錆も刃こぼれもなく、折れた部分も修復され、一片の曇りもない美しい輝きを放っていた。
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