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第1話 追放とポーション
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「ヨシュア……てめえはクビだ」
Sランク昇格直後の冒険者パーティー「暁」、その初クエスト。
ダンジョンを根城にしていたゴブリンロードの討伐を終えた俺を待っていたのは、そんな台詞だった。
辺りにはゴブリンの死骸と折れた剣などが散乱している。
どれほどの死闘かわかるというものだ。
先程の発言の主、「暁」リーダーのスヴェン・ヴォルトナーは、ハスキーボイスで続ける。
「『回復術師』なんて聞き慣れない職業だからどんな力があるかと思ったが、結局のところ、完全にポーションの下位互換じゃねえか」
血まみれの鎧をまとった長身の美青年スヴェンが、ぐいっと口元を拭う。
その手には半分程飲まれたポーションの小瓶があった。
先程まであったスヴェンの傷口が瞬く間に癒えていくのが、俺の目にも見えた。
「ポーションは魔力が切れて回復できないなんて言い訳をしない。無駄飯を食わない。目障りにちょろちょろせず邪魔にならない。……まさにリーダーの言う通りポーションの下位互換と呼ばざるを得ないと、わたくしフォルネウスも同意いたします」
長い杖を右手に持つ眼鏡の優男フォルネウスが、左手の中指でくいっと神経質そうに眼鏡の位置を直した。
王都高等魔術学院出身の高学歴のインテリらしい仕草だった。
「加えて、ポーションの材料となる薬草は至るところにあります。大都会などの一部を除き雑草のごとく生えています。ポーションが安価で、小さな村でも売っているのはそのため。……ポーションは便利ですからね、戦闘中うろちょろと近づいてきて傷を癒やす誰かさんと違って。――ねえ、レイルさんもそう思うでしょう?」
魔術師フォルネウスが視線を投げかけたのは、バンダナとスカーフで目元以外を隠した盗賊レイル。
「……………………」
寡黙なレイルは肯定も否定もしなかった。
「ヨシュア……おめえは無能じゃねぇ。少なくとも『回復』はできるみたいだからな」
残りのポーションを一気に飲み終えたスヴェンは、立ち尽くす俺に近づき、囁くように告げた。
「だが、――ポーション以下だ」
空のポーションの小瓶を握るスヴェンの手が素早く上下した。
カッ――シャァァ……ァァン、と。
砕け散ったポーションの小瓶が、残響を伴ってダンジョンの床に散乱する音が響き渡った。
ショックで残響が何度も響き渡る幻聴に苛まれる中、彼らは無言で去っていった。
あとに残されたのは散乱したゴブリンの死骸と折れた剣などだけ。
俺は重く感じる頭を巡らし、なんとか血に濡れていない地面を探し、そこに腰を下ろした。
(はぁー……疲れた……)
思わずため息が漏れた。
疲れ切っていた。
魔力は精神力。
魔力ゼロとは精神力ゼロということだ。
一方的にクビを言い渡されたにもかかわらず反論できなかったのは、彼らを守るためにぎりぎりまで心身を酷使した結果だった。
空洞になったような頭の中、「暁」加入直後のことが思い出された。
まだ当時Cランクだった「暁」は、フォルネウスが言うところの「安価なポーション」の購入ですら惜しむ傾向があった。
リーダーのスヴェンの鎧やフォルネウスの杖などの購入のためには、爪に火を灯すような節約を必要としていたのだ。
そもそも冒険者が使うポーションは高品質な分、値段もそれなりにする。
やがて順調に昇格していき、彼らの装備も整い、つい先日Sランクに上り詰めたばかりだった。
(……役目が終わった、ってことかな)
パーティーから追放された衝撃からなんとか立ち直り、そのことに気づいた。
今の彼らはポーションを湯水のように使うことだってできる。
ポーションの代わりはもう必要ないのだ。
Sランク昇格直後の冒険者パーティー「暁」、その初クエスト。
ダンジョンを根城にしていたゴブリンロードの討伐を終えた俺を待っていたのは、そんな台詞だった。
辺りにはゴブリンの死骸と折れた剣などが散乱している。
どれほどの死闘かわかるというものだ。
先程の発言の主、「暁」リーダーのスヴェン・ヴォルトナーは、ハスキーボイスで続ける。
「『回復術師』なんて聞き慣れない職業だからどんな力があるかと思ったが、結局のところ、完全にポーションの下位互換じゃねえか」
血まみれの鎧をまとった長身の美青年スヴェンが、ぐいっと口元を拭う。
その手には半分程飲まれたポーションの小瓶があった。
先程まであったスヴェンの傷口が瞬く間に癒えていくのが、俺の目にも見えた。
「ポーションは魔力が切れて回復できないなんて言い訳をしない。無駄飯を食わない。目障りにちょろちょろせず邪魔にならない。……まさにリーダーの言う通りポーションの下位互換と呼ばざるを得ないと、わたくしフォルネウスも同意いたします」
長い杖を右手に持つ眼鏡の優男フォルネウスが、左手の中指でくいっと神経質そうに眼鏡の位置を直した。
王都高等魔術学院出身の高学歴のインテリらしい仕草だった。
「加えて、ポーションの材料となる薬草は至るところにあります。大都会などの一部を除き雑草のごとく生えています。ポーションが安価で、小さな村でも売っているのはそのため。……ポーションは便利ですからね、戦闘中うろちょろと近づいてきて傷を癒やす誰かさんと違って。――ねえ、レイルさんもそう思うでしょう?」
魔術師フォルネウスが視線を投げかけたのは、バンダナとスカーフで目元以外を隠した盗賊レイル。
「……………………」
寡黙なレイルは肯定も否定もしなかった。
「ヨシュア……おめえは無能じゃねぇ。少なくとも『回復』はできるみたいだからな」
残りのポーションを一気に飲み終えたスヴェンは、立ち尽くす俺に近づき、囁くように告げた。
「だが、――ポーション以下だ」
空のポーションの小瓶を握るスヴェンの手が素早く上下した。
カッ――シャァァ……ァァン、と。
砕け散ったポーションの小瓶が、残響を伴ってダンジョンの床に散乱する音が響き渡った。
ショックで残響が何度も響き渡る幻聴に苛まれる中、彼らは無言で去っていった。
あとに残されたのは散乱したゴブリンの死骸と折れた剣などだけ。
俺は重く感じる頭を巡らし、なんとか血に濡れていない地面を探し、そこに腰を下ろした。
(はぁー……疲れた……)
思わずため息が漏れた。
疲れ切っていた。
魔力は精神力。
魔力ゼロとは精神力ゼロということだ。
一方的にクビを言い渡されたにもかかわらず反論できなかったのは、彼らを守るためにぎりぎりまで心身を酷使した結果だった。
空洞になったような頭の中、「暁」加入直後のことが思い出された。
まだ当時Cランクだった「暁」は、フォルネウスが言うところの「安価なポーション」の購入ですら惜しむ傾向があった。
リーダーのスヴェンの鎧やフォルネウスの杖などの購入のためには、爪に火を灯すような節約を必要としていたのだ。
そもそも冒険者が使うポーションは高品質な分、値段もそれなりにする。
やがて順調に昇格していき、彼らの装備も整い、つい先日Sランクに上り詰めたばかりだった。
(……役目が終わった、ってことかな)
パーティーから追放された衝撃からなんとか立ち直り、そのことに気づいた。
今の彼らはポーションを湯水のように使うことだってできる。
ポーションの代わりはもう必要ないのだ。
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