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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
新米たち 9
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魔の山の森に入った三人は、呆然としていた。
目の前で、なぜか死闘が繰り広げられている。
髪を短く切り揃えた美形の若者が「行けぇ!」と剣の切っ先を向けて指示を出している。
その刃の向こうには、なぜか冒険者らしき一団が。
火系統の魔法の火球が飛ぶわ、突如土魔法で大地が陥没するわ、という酷い有り様だった。
冒険者二十人ほどの一団は、魔道士を多数含み、美形の若者が指揮する側にその手の存在がいないこともあって、優勢だった。
「ぐわぁあ!」
だが、美形の若者が指揮する側には魔道士がいないだけで、弓兵はいたのだ。
エーデは自分に向かって倒れてきた男を抱きとめる。
「エーデ! 治癒だ!」
ラックがリーダーらしく叫ぶ。
「えっえぇ……!」
まだ魔力が完全に回復していなくて心もとないが、多少なりとも効果はあるだろう。癒やしの奇跡を行おうとしたエーデは、鉄兜から覗く顔を見て、二度目の驚きの声を上げた。
「えっ!?」
「おい、どうした?」
周囲を警戒している仲間二人の声に、エーデはつっかえながら答えた。
「どうしてイーサーさんが!?」
エーデが支えた相手は、髭面の冒険者、エーデたちの指導教官だったイーサーだった。
「あっ。それより今すぐ治癒を……!」
「そこまで!」
いきなり美形の若者が声を張り上げたので、エーデは驚いた。
そして、ピタリと両陣営が動きを止めて、互いに武器を収めたので、なお驚いたのだった。
「えっと……これはいったい……」
矢が当たったはずのイーサーも、エーデの腕の中から立ち上がる。
呆然とするエーデに、「おい、これ」とヤンが矢を見せた。先程の矢だ。鏃にはイーサーの血どころか、そもそも突き刺さるような鋭さがなかった。
丸みを帯びた先端を撫でたエーデは、笑い合う両者を見つめるのだった。
目の前で、なぜか死闘が繰り広げられている。
髪を短く切り揃えた美形の若者が「行けぇ!」と剣の切っ先を向けて指示を出している。
その刃の向こうには、なぜか冒険者らしき一団が。
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「ぐわぁあ!」
だが、美形の若者が指揮する側には魔道士がいないだけで、弓兵はいたのだ。
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「エーデ! 治癒だ!」
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「えっえぇ……!」
まだ魔力が完全に回復していなくて心もとないが、多少なりとも効果はあるだろう。癒やしの奇跡を行おうとしたエーデは、鉄兜から覗く顔を見て、二度目の驚きの声を上げた。
「えっ!?」
「おい、どうした?」
周囲を警戒している仲間二人の声に、エーデはつっかえながら答えた。
「どうしてイーサーさんが!?」
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「あっ。それより今すぐ治癒を……!」
「そこまで!」
いきなり美形の若者が声を張り上げたので、エーデは驚いた。
そして、ピタリと両陣営が動きを止めて、互いに武器を収めたので、なお驚いたのだった。
「えっと……これはいったい……」
矢が当たったはずのイーサーも、エーデの腕の中から立ち上がる。
呆然とするエーデに、「おい、これ」とヤンが矢を見せた。先程の矢だ。鏃にはイーサーの血どころか、そもそも突き刺さるような鋭さがなかった。
丸みを帯びた先端を撫でたエーデは、笑い合う両者を見つめるのだった。
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