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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

新米たち 6

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「こんにちは。あなた、最近の入居者?」

「い、いえ……」

 思ったよりフレンドリーな対応に、エーデはほっと息を吐いた。

「できればそうしたいと思っているんですが、何分、お金もないし、コネもないし、実力もあまりないもので……」

「冒険者?」

「はい。そうです」

「なるほどねえ……」

 褐色の少女は、露天風呂から森の方角に視線を向けた。当然のように高い囲いがあり、外は見えない。
 けど、背の高い木々の頭のてっぺんくらいなら見えていた。

「この辺りは、まだまだ下では出回ってない貴重な薬草とか、珍しい山菜とかあるしね」

「そうなんです! 宗教都市ロウでは飛ぶように売れる薬草や山菜が、ここでは採り放題って聞いて!」

「まあ、間違ってないけど……けど、やっぱあなたじゃ厳しいんじゃないかな?」

「そ、そうですか……やはり……」

「まずは山歩きに慣れることね。そのくたびれた様子だと、ここまで来るだけで大変だったんでしょ? 一応、ここまでは道を作ってあるけど、その貴重な薬草や山菜があるのは、森の中。つまり、道なんかないから」

「道……あれが……」

 エーデはここまでの道中を思い出した。あの獣道も「道だ」と強硬に主張するなら、道といえなくもない。だが、もし宗教都市ロウ近郊であんな場所があれば、間違いなくそれは道などとは呼ばない。森である。樹海である。

「モンスターもある程度排除してあるけど、さすがに森の中の危険性のある生物すべてまでは根絶やしにはしなかったからね、私もアイツも」

 その言い方だと、まるで「排除しようとすれば、できた」みたいではないか、と思ったがエーデは黙って聞いていた。

「この『しのびゆ』って高いんですか? 凄く立派な温泉宿みたいですけど」

「んー……安くもないけど、高くもないよ。ツケがきくから、それを理由にここを使うのも結構いるかな」

「なるほど……それで……」

 自分がお金を持っていないのにあっさりと利用させてもらえた理由に思い至る。

「でも、大丈夫なんですか?」

「ん?」

「ここっていろいろな種族の人が出入りしているし、その……ツケとか踏み倒すというか、逃げちゃう人もいるんじゃないかと……」

「ここを経営しているのは、フウマなのよ」

「フウマ……!? あの山岳都市ヘブンの都市長ですか!?」

 エーデは「そっか……都市長が経営する宿だから踏み倒す人もそうそういないってわけですね」と納得したように頷いているが、褐色の少女はヘンな顔をしていた。

「じゃあ、お先に上がるね」

「あ。はい」

 エーデは褐色の少女を見送った。

「……あ、そういえば、名前も種族も聞いてなかったな」と今更ながら思ったが、「ま、いっか」と風呂にゆっくりと体を沈めたのだった。

(あー……あごの辺りまで浸かると、なんだか、体の疲れた抜けるなあ……)
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