255 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
新米たち 6
しおりを挟む
「こんにちは。あなた、最近の入居者?」
「い、いえ……」
思ったよりフレンドリーな対応に、エーデはほっと息を吐いた。
「できればそうしたいと思っているんですが、何分、お金もないし、コネもないし、実力もあまりないもので……」
「冒険者?」
「はい。そうです」
「なるほどねえ……」
褐色の少女は、露天風呂から森の方角に視線を向けた。当然のように高い囲いがあり、外は見えない。
けど、背の高い木々の頭のてっぺんくらいなら見えていた。
「この辺りは、まだまだ下では出回ってない貴重な薬草とか、珍しい山菜とかあるしね」
「そうなんです! 宗教都市ロウでは飛ぶように売れる薬草や山菜が、ここでは採り放題って聞いて!」
「まあ、間違ってないけど……けど、やっぱあなたじゃ厳しいんじゃないかな?」
「そ、そうですか……やはり……」
「まずは山歩きに慣れることね。そのくたびれた様子だと、ここまで来るだけで大変だったんでしょ? 一応、ここまでは道を作ってあるけど、その貴重な薬草や山菜があるのは、森の中。つまり、道なんかないから」
「道……あれが……」
エーデはここまでの道中を思い出した。あの獣道も「道だ」と強硬に主張するなら、道といえなくもない。だが、もし宗教都市ロウ近郊であんな場所があれば、間違いなくそれは道などとは呼ばない。森である。樹海である。
「モンスターもある程度排除してあるけど、さすがに森の中の危険性のある生物すべてまでは根絶やしにはしなかったからね、私もアイツも」
その言い方だと、まるで「排除しようとすれば、できた」みたいではないか、と思ったがエーデは黙って聞いていた。
「この『しのびゆ』って高いんですか? 凄く立派な温泉宿みたいですけど」
「んー……安くもないけど、高くもないよ。ツケがきくから、それを理由にここを使うのも結構いるかな」
「なるほど……それで……」
自分がお金を持っていないのにあっさりと利用させてもらえた理由に思い至る。
「でも、大丈夫なんですか?」
「ん?」
「ここっていろいろな種族の人が出入りしているし、その……ツケとか踏み倒すというか、逃げちゃう人もいるんじゃないかと……」
「ここを経営しているのは、フウマなのよ」
「フウマ……!? あの山岳都市ヘブンの都市長ですか!?」
エーデは「そっか……都市長が経営する宿だから踏み倒す人もそうそういないってわけですね」と納得したように頷いているが、褐色の少女はヘンな顔をしていた。
「じゃあ、お先に上がるね」
「あ。はい」
エーデは褐色の少女を見送った。
「……あ、そういえば、名前も種族も聞いてなかったな」と今更ながら思ったが、「ま、いっか」と風呂にゆっくりと体を沈めたのだった。
(あー……あごの辺りまで浸かると、なんだか、体の疲れた抜けるなあ……)
「い、いえ……」
思ったよりフレンドリーな対応に、エーデはほっと息を吐いた。
「できればそうしたいと思っているんですが、何分、お金もないし、コネもないし、実力もあまりないもので……」
「冒険者?」
「はい。そうです」
「なるほどねえ……」
褐色の少女は、露天風呂から森の方角に視線を向けた。当然のように高い囲いがあり、外は見えない。
けど、背の高い木々の頭のてっぺんくらいなら見えていた。
「この辺りは、まだまだ下では出回ってない貴重な薬草とか、珍しい山菜とかあるしね」
「そうなんです! 宗教都市ロウでは飛ぶように売れる薬草や山菜が、ここでは採り放題って聞いて!」
「まあ、間違ってないけど……けど、やっぱあなたじゃ厳しいんじゃないかな?」
「そ、そうですか……やはり……」
「まずは山歩きに慣れることね。そのくたびれた様子だと、ここまで来るだけで大変だったんでしょ? 一応、ここまでは道を作ってあるけど、その貴重な薬草や山菜があるのは、森の中。つまり、道なんかないから」
「道……あれが……」
エーデはここまでの道中を思い出した。あの獣道も「道だ」と強硬に主張するなら、道といえなくもない。だが、もし宗教都市ロウ近郊であんな場所があれば、間違いなくそれは道などとは呼ばない。森である。樹海である。
「モンスターもある程度排除してあるけど、さすがに森の中の危険性のある生物すべてまでは根絶やしにはしなかったからね、私もアイツも」
その言い方だと、まるで「排除しようとすれば、できた」みたいではないか、と思ったがエーデは黙って聞いていた。
「この『しのびゆ』って高いんですか? 凄く立派な温泉宿みたいですけど」
「んー……安くもないけど、高くもないよ。ツケがきくから、それを理由にここを使うのも結構いるかな」
「なるほど……それで……」
自分がお金を持っていないのにあっさりと利用させてもらえた理由に思い至る。
「でも、大丈夫なんですか?」
「ん?」
「ここっていろいろな種族の人が出入りしているし、その……ツケとか踏み倒すというか、逃げちゃう人もいるんじゃないかと……」
「ここを経営しているのは、フウマなのよ」
「フウマ……!? あの山岳都市ヘブンの都市長ですか!?」
エーデは「そっか……都市長が経営する宿だから踏み倒す人もそうそういないってわけですね」と納得したように頷いているが、褐色の少女はヘンな顔をしていた。
「じゃあ、お先に上がるね」
「あ。はい」
エーデは褐色の少女を見送った。
「……あ、そういえば、名前も種族も聞いてなかったな」と今更ながら思ったが、「ま、いっか」と風呂にゆっくりと体を沈めたのだった。
(あー……あごの辺りまで浸かると、なんだか、体の疲れた抜けるなあ……)
0
お気に入りに追加
4,196
あなたにおすすめの小説
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。