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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

新米たち 2

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 リノは、自分の手足がすらりと伸び始めていることに嬉しく思った。髪だけではないのだ。〈魔王の素体〉としての力を失った代わりに、リノは成長し――いずれは大地に還る時が来るだろう。それが長過ぎる時を生きた彼女には嬉しかった。

 そんなリノの感慨など当然知らない三人組は、リノが伸びた髪を、大人っぽくなった手で触っているうちにいなくなっていた。
 リノが受付台から身を乗り出すようにして、通りを見ると、三人の背中が見えた。

「さて、イヌガミ。ご利益があるところを見せなくちゃね」

「面倒でありますが、我を崇拝し、信仰し、尊敬するというのであれば仕方ありますまい」

 なんだかよくわからないことを言いながら、それでもイヌガミは、ひょいっと受付台から下りて、三人の後を気ままに追い始めた。

 まだできたばかりの町。
 そして、世界には、まだ大小の小競り合いが満ちている。
 そんな中、あのような十代半ばの冒険者風の若者たちは、命を落とすことも少なくない。
 イヌガミは、そういった者たちを、こうして助けたりしていた。
 お布施をしてくれるからというのも大きな理由だが、最大の理由は、リノもフウマもそれぞれ受付と都市長という仕事に就いていて、散歩にも連れて行ってくれなくなったからであるのは、イヌガミのプライドが邪魔をして、イヌガミ自身が口にすることはなかった。

 けど、イヌガミ自身、あちこちを見聞してきた若者にくっついていくのは、意外と楽しいので、この生活も結構気に入っていた。

(さて。今回はどんな厄介事が起こるでありますかな!)

 確定事項のようにそうイヌガミが思うのも無理はない。
 よそとは比較にならないほど多種族が入り乱れ、元とはいえ「魔の山」とまで呼ばれた場所。しかも、王都事件以来、絶対不可侵となった魔族領と隣接しているのだ。火種などあちこちにある。

(楽しみであります!)

 フウマが聞けば、「人の不幸や面倒事を楽しむな!」と注意したであろうことを思い浮かべながら、跳ねるように駆けていった。
 その先では、干し肉をイヌガミに捧げてしまって、空腹だった三人が、串焼きを購入しているところだった。

「三本」というところに早速「四本であります!」という声が割り込むのだった。
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