最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

新米たち 1

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「うっそだろ~……」

「そりゃないぜ……」

「これだから噂なんて……」

 三者三様に深々と溜息を吐く冒険者風の少年少女たちの前には、まさに鎮座するといった面持ちのイヌガミがいた。
 最近は、お布施――本当は入場料なのだが――をする者が増えてきたので、ノリノリでポーズを取っている。もしフウマの曾祖父がいたら、「まるで招き猫みたいじゃな」と言ったに違いない。

 そんなイヌガミの横には、受付台から顔を出した困惑顔のリノがいた。

「ええっと……さすがにそんな噂を信じられても……」

「じゃあ、『湯治場しのびゆ』って名前の温泉宿に泊まると、異常に強くなるってのは嘘なんですか? なんでも、老いぼれた老人でも、高位冒険者並みに俊敏になって、山の斜面を駆け上ったって……」

 癒し手らしき少女がそう呟くと、武道家風の青年が「そうだそうだ」と大声を上げた。

「俺の師匠も見たっていうんだ! 見待ちがえじゃねえよ! 俺の師匠は飛ぶ鳥の模様さえ楽々見分けるくらい目がいいんだぜ?」

「ああ……」

 リノは、その噂については合点がいき、疲れたような顔をした。
 シノビノサト村――今は山岳都市ヘブン――で暮らすお年寄りの中には、シノビが多数交じっている。お陰で、「ちょっくら山菜採りに行ってくるわ」と九十度近い斜面をロープも使わずに登るせいで、とんでもない目撃情報が多数寄せられることがある。

「あとあと!」

 戦士風の少年が、ビシッとイヌガミを指す。

「こっちのイヌガミ様に願い事をすると叶うってのは本当ですか?」

「――は? もちろんそんなの嘘に決まって――」

 リノが答える前に、片手を上げたイヌガミがおもむろに答えた。

「無論、本当である!」

「マ、マジっすか!? じゃあ、高位冒険者に瞬く間になれたりとか……!」

「それはお前たちの心がけ次第なのである」

 上げていた手を下ろし、ずずいっと差し出した。
 「要は、何か食い物を寄越せ」ということである。

「は、ははっ!」

 平伏するように頭を下げながら、干し肉を差し出す戦士風の少年と、彼の手から無造作に干し肉を奪い去り口に放り込むイヌガミ。
 白い目をして、そんなイヌガミを見つめたリノは、溜息を吐いた。

「さっきので入場料はいいです。どうぞお入りください」

「はい。ありがとうございます……えっと、魔族の方なんですか?」

「ええ、そうです」

 リノは、だいぶ長くなった髪をいじる。昔フウマにもらった赤いリボンはさすがに古くなったので、新しくもらった青いリボンをしている。ポニーテールだ。かすかに短い角がのぞいているが、この都市を含め、近隣で魔族であることを気にする者はいなくなった。
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