242 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
『北』からの客人
しおりを挟む
「『北』からのお客さんも来たよ」
『北』とは魔族領の隠語だ。つまり、魔族領からこの山岳都市ヘブン――元シノビノサト村に客が来たということだろう。
「そうか、わかった」
これだけ種族が混在する都市。しかも、そこまでの道中は、樹海のようになっている。そのため、こっそり人間領とは反対側、魔族領側から入った者がやってきても、怪しまれない。
(意外といい隠れ蓑になってるな)
「都市長の家にいるんだよな?」
「うん。そうだよ」
都市長の家とは、俺の第二の家だ。
現在、この山岳都市ヘブンの第一代目の都市長は俺なのだ。もともと村長だったので、そのままの流れでそうなった。
都市長の家は、俺が寝起きしている木造平屋と違い、立派な石造りの建物だ。
あちこちから温泉の湯気が上がり、硫黄の匂いがしてくる。
まさに湯治場といった雰囲気だ。
「まさか、温泉や風呂がここまで受け入れられるとはな……」
「ええ。それは私も驚いたわ」
籠を下ろすため食料庫に向かう道すがら、俺とセーレアは話し込んでいた。
以前は見られなかった家族連れの旅人まで見かけるようになってきている。
(アイリーンの贈り物かもな……って考えるのは、我ながら美化しすぎか……)
アイリーンは風呂が大好きだった。特に温泉を好んだ。
王族として贅沢な暮らしをしていた彼女でさえハマるほどなのだから、きっと一般層にも受け入れられるだろうとは思っていたが、想像以上だった。
(まあ、実際彼女のことがなければ、湯治場にしようなんてアイデアも出なかったわけで……そういう意味では、やはりお陰といえなくもないのかもな……)
食料庫に着いた俺は、籠をセーレアに任せて、都市長の家に向かう。
石造りの屋敷の立派な扉を開けるが、こっちは「ただいま」という気にはなれない。屋敷の掃除をしてくれていた魔族のメイドに軽く頭を下げて、勝手知ったる家の中を奥へと進む。
予想通りもっとも奥まった部屋に、魔族領からの来客が来ていた。
だが、その相手が、ハイエルフというのは予想外だった。これまでにドワーフもリザードマンも魔族もやってきたが、ハイエルフがここまで来たのは実は初めてだったのだ。
なんでもハイエルフは、人間領に入らないと治癒神と契約を交わしたのだという。逆に、治癒神側は、ハイエルフがあの〈天雷の塔〉もどきの管理をきちんと行っている限り、入らないという相互不可侵条約のようなものを結んでいたというのだ。
ハイエルフにしてみると、この魔の山は、国境線上に位置するのでグレーゾーン。契約を破ることにはならないとも、なるともいえない微妙な場所らしい。だから来たことはなかったのだが。
『北』とは魔族領の隠語だ。つまり、魔族領からこの山岳都市ヘブン――元シノビノサト村に客が来たということだろう。
「そうか、わかった」
これだけ種族が混在する都市。しかも、そこまでの道中は、樹海のようになっている。そのため、こっそり人間領とは反対側、魔族領側から入った者がやってきても、怪しまれない。
(意外といい隠れ蓑になってるな)
「都市長の家にいるんだよな?」
「うん。そうだよ」
都市長の家とは、俺の第二の家だ。
現在、この山岳都市ヘブンの第一代目の都市長は俺なのだ。もともと村長だったので、そのままの流れでそうなった。
都市長の家は、俺が寝起きしている木造平屋と違い、立派な石造りの建物だ。
あちこちから温泉の湯気が上がり、硫黄の匂いがしてくる。
まさに湯治場といった雰囲気だ。
「まさか、温泉や風呂がここまで受け入れられるとはな……」
「ええ。それは私も驚いたわ」
籠を下ろすため食料庫に向かう道すがら、俺とセーレアは話し込んでいた。
以前は見られなかった家族連れの旅人まで見かけるようになってきている。
(アイリーンの贈り物かもな……って考えるのは、我ながら美化しすぎか……)
アイリーンは風呂が大好きだった。特に温泉を好んだ。
王族として贅沢な暮らしをしていた彼女でさえハマるほどなのだから、きっと一般層にも受け入れられるだろうとは思っていたが、想像以上だった。
(まあ、実際彼女のことがなければ、湯治場にしようなんてアイデアも出なかったわけで……そういう意味では、やはりお陰といえなくもないのかもな……)
食料庫に着いた俺は、籠をセーレアに任せて、都市長の家に向かう。
石造りの屋敷の立派な扉を開けるが、こっちは「ただいま」という気にはなれない。屋敷の掃除をしてくれていた魔族のメイドに軽く頭を下げて、勝手知ったる家の中を奥へと進む。
予想通りもっとも奥まった部屋に、魔族領からの来客が来ていた。
だが、その相手が、ハイエルフというのは予想外だった。これまでにドワーフもリザードマンも魔族もやってきたが、ハイエルフがここまで来たのは実は初めてだったのだ。
なんでもハイエルフは、人間領に入らないと治癒神と契約を交わしたのだという。逆に、治癒神側は、ハイエルフがあの〈天雷の塔〉もどきの管理をきちんと行っている限り、入らないという相互不可侵条約のようなものを結んでいたというのだ。
ハイエルフにしてみると、この魔の山は、国境線上に位置するのでグレーゾーン。契約を破ることにはならないとも、なるともいえない微妙な場所らしい。だから来たことはなかったのだが。
0
お気に入りに追加
4,198
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。