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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
祭られる(?)イヌガミ
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「シノビノサト村」という魔の山にある集落は、いろいろな意味で消滅した。
まず第一に、「シノビノサト村」と誰も言わなくなった。俺も、リノも、他の村人たちも。
第二に、村と呼ばれる規模では、もう完全になくなった。
シノビノサト村という名称をなくしたここは、かつてのような閉鎖性はない。来る者拒まずという状態だ。
もっともここまで来るのは、相変わらず大変で、大した目的もなくわざわざ来ようという者は滅多にいないが。
第三に、シノビを名乗る者がいなくなったので、そもそも「シノビノサト村」という名称も合わなくなった。
他にも数え上げれば切りがない。例えば、かつて着物を着ていた村人たちも今は他の都市で見られるような一般的な衣服を着ている。文化も変わっていっているのだ。
「山岳都市ヘブンって名称には、まだ慣れないな」
「正直、あんたが最初に名付けようとした『湯治場しのびゆ』ってのが意味不明だったわよ。忍びたいのか、湯治場として有名になりたいのかどっちなのよ」
山菜を満載した籠を背負った俺とセーレアの二人は、山道を下り、山岳都市ヘブン――元シノビノサト村に戻る途中だった。
ドワーフの技術力と、宗教都市ロウからの直行便のお陰で、瞬く間にシノビノサト村は開けた。
俺とセーレアがそれなりに踏み固められた小道を歩いていくと、山岳都市ヘブンの囲いが見えてきた。
魔物除けではなく、入場料を支払わず湯治場を利用する客が出ないようにするためだ。ずいぶん平和になったものだ。
囲いが石でできていて、詰め所まであるのは、防衛力を高めるためではなく、見栄えをよくするためだった。
「おかえりなさい。フウマ、セーレア」
詰め所にいた受付は、リノだった。受付のテーブルの上には、イヌガミが座っている。以前はこんなところにいなかったのだが、方方から来る湯治場の利用客や故郷を負われた民などが、いろいろな食べ物を持ってくる。それを目当てに待っているのだ。
入場料は銅貨で支払うことになっているが、現物でも構わない。
そして支払われた食べ物は、食料庫――ではなく、イヌガミの胃袋へと収められる。
「我を崇める者が続々と集まってきて、大変気分がいいのであります!」
イヌガミがお座りしたまま、胸を大きく張った。
「お、おう……」
リノがふざけて、緋色に金糸で刺繍した座布団をイヌガミのお尻に敷き、注連縄というシノビノサト村に以前から伝わっていたもので、イヌガミの周囲を囲ってあるので、本当に祭られているかのように見えた。
(飼い主に似るっていうけど、こうして祭り上げられて喜ぶってところは、俺とは全然違うな)
当然だけど、似ているところもあれば、違うところもあるのだ。
まず第一に、「シノビノサト村」と誰も言わなくなった。俺も、リノも、他の村人たちも。
第二に、村と呼ばれる規模では、もう完全になくなった。
シノビノサト村という名称をなくしたここは、かつてのような閉鎖性はない。来る者拒まずという状態だ。
もっともここまで来るのは、相変わらず大変で、大した目的もなくわざわざ来ようという者は滅多にいないが。
第三に、シノビを名乗る者がいなくなったので、そもそも「シノビノサト村」という名称も合わなくなった。
他にも数え上げれば切りがない。例えば、かつて着物を着ていた村人たちも今は他の都市で見られるような一般的な衣服を着ている。文化も変わっていっているのだ。
「山岳都市ヘブンって名称には、まだ慣れないな」
「正直、あんたが最初に名付けようとした『湯治場しのびゆ』ってのが意味不明だったわよ。忍びたいのか、湯治場として有名になりたいのかどっちなのよ」
山菜を満載した籠を背負った俺とセーレアの二人は、山道を下り、山岳都市ヘブン――元シノビノサト村に戻る途中だった。
ドワーフの技術力と、宗教都市ロウからの直行便のお陰で、瞬く間にシノビノサト村は開けた。
俺とセーレアがそれなりに踏み固められた小道を歩いていくと、山岳都市ヘブンの囲いが見えてきた。
魔物除けではなく、入場料を支払わず湯治場を利用する客が出ないようにするためだ。ずいぶん平和になったものだ。
囲いが石でできていて、詰め所まであるのは、防衛力を高めるためではなく、見栄えをよくするためだった。
「おかえりなさい。フウマ、セーレア」
詰め所にいた受付は、リノだった。受付のテーブルの上には、イヌガミが座っている。以前はこんなところにいなかったのだが、方方から来る湯治場の利用客や故郷を負われた民などが、いろいろな食べ物を持ってくる。それを目当てに待っているのだ。
入場料は銅貨で支払うことになっているが、現物でも構わない。
そして支払われた食べ物は、食料庫――ではなく、イヌガミの胃袋へと収められる。
「我を崇める者が続々と集まってきて、大変気分がいいのであります!」
イヌガミがお座りしたまま、胸を大きく張った。
「お、おう……」
リノがふざけて、緋色に金糸で刺繍した座布団をイヌガミのお尻に敷き、注連縄というシノビノサト村に以前から伝わっていたもので、イヌガミの周囲を囲ってあるので、本当に祭られているかのように見えた。
(飼い主に似るっていうけど、こうして祭り上げられて喜ぶってところは、俺とは全然違うな)
当然だけど、似ているところもあれば、違うところもあるのだ。
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