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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
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その後、無事ぼたん鍋は完成した。
途中で、ドワーフたちが洞窟に自生しているキノコを鍋に放り込んだり、リザードマンたちが海藻や干した魚などを放り込んだりしたので、なんだか闇鍋っぽい得体の知れない雰囲気が漂い出したが、十分美味しい料理ができたと思う。
ただ、肝心の猪肉は、皆に平等に行き渡ったかといえば……。
俺の横で、満足げに口をもぐもぐさせているイヌガミを、俺はジト目で見つめた。
「なあ、イヌガミ……お前が獲ってきたんだから、お前が優先的に食べるのはわかるが、……それにしても食べすぎだろ」
「そうでありますか?」
イヌガミはリノに頼んで、猪肉ばかりを椀に山盛り入れてもらい、がっついていた。
野菜を食べたくないから逃げ出したと直感したが、あの直感は間違いではなかったらしい。
イヌガミはちゃっかり肉ばかりを食べて、野菜は一切食べていなかった。
「ハハ……ほんとお前は凄いヤツだよ」
俺の乾いた笑い声と褒め言葉に、イヌガミはキョトンとして顔を上げた。
「――ありがとうな、イヌガミ」
俺は心からイヌガミに礼を言った。
一緒にぼたん鍋を作ったからか、種族同士にあった垣根が、もうまったく見られない。少なくとも、この場に集った様々な種族の者たちは分かり合えたのだ。酒の力もあっただろう。美味しい料理のお陰もあっただろう。
その美味しいぼたん鍋のきっかけを作ったのは、イヌガミなのだ。
どうやらイヌガミは、俺が心から礼を言ったと感じたらしく、珍しく食べかけの肉を口から離した。
「我は、若様の相棒なので当然であります」
「そっか、そうだな」
事も無げに俺に答えた後、イヌガミはすぐに肉にかぶりつくのに戻っていた。俺の短い返事を聞くこともなく。
(「飼い主に似る」って言うけど、ほんとかもな)
イヌガミは、俺の返事を聞く必要がないと思ったんだろう。
イヌガミは、俺を「最高の相棒」だと思っている。
そこに、俺の評価や、まして第三者の評価など必要ないと自然と感じている。
(俺にしても、……そうだ)
ラインハルトとアレクサンダーを並べれば、百人中百人がラインハルトを「善」で、アレクサンダーを「悪」と呼ぶだろう。俺だってそう考える。
けど、俺が「初めての友達だ」と思ったのは、ラインハルトではなく、アレクサンダーだったのだ。
俺が誰を友人と思ったかについて、他人の共感を求める必要はない。
それはアレクサンダーたちの意見さえも関係ないのかもしれない。イヌガミが、俺の返事を聞く必要がないと自然に感じ取っていたのと同じように。
途中で、ドワーフたちが洞窟に自生しているキノコを鍋に放り込んだり、リザードマンたちが海藻や干した魚などを放り込んだりしたので、なんだか闇鍋っぽい得体の知れない雰囲気が漂い出したが、十分美味しい料理ができたと思う。
ただ、肝心の猪肉は、皆に平等に行き渡ったかといえば……。
俺の横で、満足げに口をもぐもぐさせているイヌガミを、俺はジト目で見つめた。
「なあ、イヌガミ……お前が獲ってきたんだから、お前が優先的に食べるのはわかるが、……それにしても食べすぎだろ」
「そうでありますか?」
イヌガミはリノに頼んで、猪肉ばかりを椀に山盛り入れてもらい、がっついていた。
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イヌガミはちゃっかり肉ばかりを食べて、野菜は一切食べていなかった。
「ハハ……ほんとお前は凄いヤツだよ」
俺の乾いた笑い声と褒め言葉に、イヌガミはキョトンとして顔を上げた。
「――ありがとうな、イヌガミ」
俺は心からイヌガミに礼を言った。
一緒にぼたん鍋を作ったからか、種族同士にあった垣根が、もうまったく見られない。少なくとも、この場に集った様々な種族の者たちは分かり合えたのだ。酒の力もあっただろう。美味しい料理のお陰もあっただろう。
その美味しいぼたん鍋のきっかけを作ったのは、イヌガミなのだ。
どうやらイヌガミは、俺が心から礼を言ったと感じたらしく、珍しく食べかけの肉を口から離した。
「我は、若様の相棒なので当然であります」
「そっか、そうだな」
事も無げに俺に答えた後、イヌガミはすぐに肉にかぶりつくのに戻っていた。俺の短い返事を聞くこともなく。
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イヌガミは、俺の返事を聞く必要がないと思ったんだろう。
イヌガミは、俺を「最高の相棒」だと思っている。
そこに、俺の評価や、まして第三者の評価など必要ないと自然と感じている。
(俺にしても、……そうだ)
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けど、俺が「初めての友達だ」と思ったのは、ラインハルトではなく、アレクサンダーだったのだ。
俺が誰を友人と思ったかについて、他人の共感を求める必要はない。
それはアレクサンダーたちの意見さえも関係ないのかもしれない。イヌガミが、俺の返事を聞く必要がないと自然に感じ取っていたのと同じように。
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