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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
協力
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「なんだ? イヌガミか、どうしたんだ?」
俺は突然現れたイノシシの方に声をかけた。
他のみんなはイノシシに目が行って気づいていない様子だったが、イヌガミがイノシシを運んできたらしい。短い足と小さな体なので、イノシシに隠れて見えなかっただけだ。
ちなみにイノシシは気絶している。
「若様! こちらのイノシシを使って、ぼたん鍋にしてはどうでしょうか?」
ナイスな提案だった。
「……イ、イヌガミ……」
てっきりイヌガミは、ただ野菜の山を前にして、逃げ去っただけだと思ったが、そうではなかったのだ。
(疑って悪かったイヌガミ……! お前はただ野菜が嫌で逃げたんじゃなかったんだな!)
もし俺が勇者パーティーだった頃、すでにイヌガミと知り合えていたら――。
(きっと、あんな悲しい結末とは別の道を歩めただろうな)
本気でそう思えた。
「さすが俺の相棒だ!」
「当然であります!」
イヌガミのお陰で、ぼたん鍋という目標が決まった。
そうなれば後は楽勝だ。
肉が大量に入った鍋ということで、皆の目の色が変わり、俺が何か指示を出したり頼んだりする必要もなく、手分けして作業が進んでいく。
「おい! ドワーフ特製の大鍋を出す時じゃ!」
「あの細々と料理を作るのが面倒だが、ツマミが欲しい時に活躍する大鍋じゃな!」
「あれならこのイノシシの肉と野菜のほとんどをまとめて放り込めるぞ!」
「はい! はい! 肉のさばき方なら私がわかるわよ! さっさと煮て食べましょう! お腹が減ってきたわ!」
「セーレアさん。でしたら、我らがイノシシや調理器具などを運びましょう。行くぞ、リザードマンたちよ!」
「はい! リーダー!」
なんだかあれよあれよと言う間に準備が整っていく。
「……凄い……」
シャフィールが唐突に、陶然としたような溜息を漏らす。
たぶんその理由は、ただ単に先程まで二人で頭を悩ませていた料理の問題が解決したからだけではない。
(――協力……できるんだな。俺たちは……)
正直いえば、シノビノサト村という成功事例を知っている俺ですら、異種族同士の共存などできるのだろうか、という不安があった。
シャフィールならなおさらだろう。
けど。
今、目の前で、リザードマンと一緒にイノシシを運ぶセーレアや、ドワーフたちと一緒に大鍋を運ぶのを手伝う魔族たちを見て、確信した。
「……きっと、成功する!」
「はい。そうですね」
俺とシャフィールは互いに顔を見合わせて微笑み合った。
なぜかあまり能動的に動こうとしていないリノも、部屋の片隅の椅子に座って、俺たちのように嬉しそうにその様子を眺めていた。
俺は突然現れたイノシシの方に声をかけた。
他のみんなはイノシシに目が行って気づいていない様子だったが、イヌガミがイノシシを運んできたらしい。短い足と小さな体なので、イノシシに隠れて見えなかっただけだ。
ちなみにイノシシは気絶している。
「若様! こちらのイノシシを使って、ぼたん鍋にしてはどうでしょうか?」
ナイスな提案だった。
「……イ、イヌガミ……」
てっきりイヌガミは、ただ野菜の山を前にして、逃げ去っただけだと思ったが、そうではなかったのだ。
(疑って悪かったイヌガミ……! お前はただ野菜が嫌で逃げたんじゃなかったんだな!)
もし俺が勇者パーティーだった頃、すでにイヌガミと知り合えていたら――。
(きっと、あんな悲しい結末とは別の道を歩めただろうな)
本気でそう思えた。
「さすが俺の相棒だ!」
「当然であります!」
イヌガミのお陰で、ぼたん鍋という目標が決まった。
そうなれば後は楽勝だ。
肉が大量に入った鍋ということで、皆の目の色が変わり、俺が何か指示を出したり頼んだりする必要もなく、手分けして作業が進んでいく。
「おい! ドワーフ特製の大鍋を出す時じゃ!」
「あの細々と料理を作るのが面倒だが、ツマミが欲しい時に活躍する大鍋じゃな!」
「あれならこのイノシシの肉と野菜のほとんどをまとめて放り込めるぞ!」
「はい! はい! 肉のさばき方なら私がわかるわよ! さっさと煮て食べましょう! お腹が減ってきたわ!」
「セーレアさん。でしたら、我らがイノシシや調理器具などを運びましょう。行くぞ、リザードマンたちよ!」
「はい! リーダー!」
なんだかあれよあれよと言う間に準備が整っていく。
「……凄い……」
シャフィールが唐突に、陶然としたような溜息を漏らす。
たぶんその理由は、ただ単に先程まで二人で頭を悩ませていた料理の問題が解決したからだけではない。
(――協力……できるんだな。俺たちは……)
正直いえば、シノビノサト村という成功事例を知っている俺ですら、異種族同士の共存などできるのだろうか、という不安があった。
シャフィールならなおさらだろう。
けど。
今、目の前で、リザードマンと一緒にイノシシを運ぶセーレアや、ドワーフたちと一緒に大鍋を運ぶのを手伝う魔族たちを見て、確信した。
「……きっと、成功する!」
「はい。そうですね」
俺とシャフィールは互いに顔を見合わせて微笑み合った。
なぜかあまり能動的に動こうとしていないリノも、部屋の片隅の椅子に座って、俺たちのように嬉しそうにその様子を眺めていた。
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