232 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
協力
しおりを挟む
「なんだ? イヌガミか、どうしたんだ?」
俺は突然現れたイノシシの方に声をかけた。
他のみんなはイノシシに目が行って気づいていない様子だったが、イヌガミがイノシシを運んできたらしい。短い足と小さな体なので、イノシシに隠れて見えなかっただけだ。
ちなみにイノシシは気絶している。
「若様! こちらのイノシシを使って、ぼたん鍋にしてはどうでしょうか?」
ナイスな提案だった。
「……イ、イヌガミ……」
てっきりイヌガミは、ただ野菜の山を前にして、逃げ去っただけだと思ったが、そうではなかったのだ。
(疑って悪かったイヌガミ……! お前はただ野菜が嫌で逃げたんじゃなかったんだな!)
もし俺が勇者パーティーだった頃、すでにイヌガミと知り合えていたら――。
(きっと、あんな悲しい結末とは別の道を歩めただろうな)
本気でそう思えた。
「さすが俺の相棒だ!」
「当然であります!」
イヌガミのお陰で、ぼたん鍋という目標が決まった。
そうなれば後は楽勝だ。
肉が大量に入った鍋ということで、皆の目の色が変わり、俺が何か指示を出したり頼んだりする必要もなく、手分けして作業が進んでいく。
「おい! ドワーフ特製の大鍋を出す時じゃ!」
「あの細々と料理を作るのが面倒だが、ツマミが欲しい時に活躍する大鍋じゃな!」
「あれならこのイノシシの肉と野菜のほとんどをまとめて放り込めるぞ!」
「はい! はい! 肉のさばき方なら私がわかるわよ! さっさと煮て食べましょう! お腹が減ってきたわ!」
「セーレアさん。でしたら、我らがイノシシや調理器具などを運びましょう。行くぞ、リザードマンたちよ!」
「はい! リーダー!」
なんだかあれよあれよと言う間に準備が整っていく。
「……凄い……」
シャフィールが唐突に、陶然としたような溜息を漏らす。
たぶんその理由は、ただ単に先程まで二人で頭を悩ませていた料理の問題が解決したからだけではない。
(――協力……できるんだな。俺たちは……)
正直いえば、シノビノサト村という成功事例を知っている俺ですら、異種族同士の共存などできるのだろうか、という不安があった。
シャフィールならなおさらだろう。
けど。
今、目の前で、リザードマンと一緒にイノシシを運ぶセーレアや、ドワーフたちと一緒に大鍋を運ぶのを手伝う魔族たちを見て、確信した。
「……きっと、成功する!」
「はい。そうですね」
俺とシャフィールは互いに顔を見合わせて微笑み合った。
なぜかあまり能動的に動こうとしていないリノも、部屋の片隅の椅子に座って、俺たちのように嬉しそうにその様子を眺めていた。
俺は突然現れたイノシシの方に声をかけた。
他のみんなはイノシシに目が行って気づいていない様子だったが、イヌガミがイノシシを運んできたらしい。短い足と小さな体なので、イノシシに隠れて見えなかっただけだ。
ちなみにイノシシは気絶している。
「若様! こちらのイノシシを使って、ぼたん鍋にしてはどうでしょうか?」
ナイスな提案だった。
「……イ、イヌガミ……」
てっきりイヌガミは、ただ野菜の山を前にして、逃げ去っただけだと思ったが、そうではなかったのだ。
(疑って悪かったイヌガミ……! お前はただ野菜が嫌で逃げたんじゃなかったんだな!)
もし俺が勇者パーティーだった頃、すでにイヌガミと知り合えていたら――。
(きっと、あんな悲しい結末とは別の道を歩めただろうな)
本気でそう思えた。
「さすが俺の相棒だ!」
「当然であります!」
イヌガミのお陰で、ぼたん鍋という目標が決まった。
そうなれば後は楽勝だ。
肉が大量に入った鍋ということで、皆の目の色が変わり、俺が何か指示を出したり頼んだりする必要もなく、手分けして作業が進んでいく。
「おい! ドワーフ特製の大鍋を出す時じゃ!」
「あの細々と料理を作るのが面倒だが、ツマミが欲しい時に活躍する大鍋じゃな!」
「あれならこのイノシシの肉と野菜のほとんどをまとめて放り込めるぞ!」
「はい! はい! 肉のさばき方なら私がわかるわよ! さっさと煮て食べましょう! お腹が減ってきたわ!」
「セーレアさん。でしたら、我らがイノシシや調理器具などを運びましょう。行くぞ、リザードマンたちよ!」
「はい! リーダー!」
なんだかあれよあれよと言う間に準備が整っていく。
「……凄い……」
シャフィールが唐突に、陶然としたような溜息を漏らす。
たぶんその理由は、ただ単に先程まで二人で頭を悩ませていた料理の問題が解決したからだけではない。
(――協力……できるんだな。俺たちは……)
正直いえば、シノビノサト村という成功事例を知っている俺ですら、異種族同士の共存などできるのだろうか、という不安があった。
シャフィールならなおさらだろう。
けど。
今、目の前で、リザードマンと一緒にイノシシを運ぶセーレアや、ドワーフたちと一緒に大鍋を運ぶのを手伝う魔族たちを見て、確信した。
「……きっと、成功する!」
「はい。そうですね」
俺とシャフィールは互いに顔を見合わせて微笑み合った。
なぜかあまり能動的に動こうとしていないリノも、部屋の片隅の椅子に座って、俺たちのように嬉しそうにその様子を眺めていた。
0
お気に入りに追加
4,200
あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。